2017年度入試
出題分析と入試対策
  一橋大学 
倫理・政経

過去の出題内容

2017年度

番号 分野 内容
西洋近現代哲学
問1 ホッブズとロックの社会契約説(300字)
問2 十八世紀の権利宣言と今日の国家が前提とする社会契約説(100字)
立憲主義
問1 日本国憲法の立憲主義を具体的制度に言及して説明する(250字)
問2 明治憲法と今日の立憲主義を比較して説明する(150字)
国民経済計算
問1 GDPを説明する(50字)
問2 「基準改定」を行う理由を述べる(150字)
問3 国民経済計算を国際基準で作成する理由と日本が2008SNA基準に対応する意味を述べる(200字)

2016年度

番号 分野 内容
西洋近現代哲学
問1 スミスにおける「フェアプレイ」(300字)
問2 スミスにおける「公平な観察者」(100字)
選挙の原則と選挙制度
問1 選挙の原則と日本における課題を説明する(200字)
問2 選挙制度について長所と短所を含めて説明する(200字)
インフレと失業率
問1 実質賃金とは何かを説明する(50字)
問2 金融緩和政策が失業率の低下をもたらす理由を述べる(100字)
問3 貨幣錯覚がとけたときに起きうる現象とその影響を述べる(250字)

2015年度

番号 分野 内容
西洋近現代哲学
問1 カントの倫理思想(200字)
問2 ロールズの正義論(200字)
地方分権改革
問1 地方分権一括法によって改革された地方公共団体の事務を述べる(200字)
問2 地方分権が「地方自治の本旨の実現」につながる理由を述べる(200字)
離婚率の推移
問1 高度成長の終わりを象徴する出来事を答える(20字)
問2 「失われた10年」とは何かを述べる(180字)
問3 2002年以降に離婚率が低下した要因を述べる(200字)

出題分析

分量

Ⅰについては、例年、総字数が400字で2つの小問に分割されている。近年は200字の小問2つという形式で定着していたが、本年は昨年に続き、300字の小問と100字の小問となった。
Ⅱ・Ⅲについては、それぞれ総字数400字の論述問題であり、総字数400字を複数の設問に分ける構成が続いているが、空欄補充形式の問題が含まれることもある。15年度は、Ⅱが200字が2問、Ⅲが空欄補充(20字)と、180字+200字。16年度は、Ⅱは200字が2問、Ⅲは50字+100字+150字、17年度は、Ⅱが250字+150字、Ⅲが50字+150字+200字であるが、総字数400字は変わっていない。
1問400字という分量は必ずしも長いものではないが、論理的思考力の有無を見きわめることは十分可能である。全体の分量を考えると、約1200字の総字数を120分で書く計算になり、各大問に割り当てられる時間は40分である。問題文を読んで構想を練るのに10分かけたとすると、各大問を平均30分で書きあげることになる。時間的余裕はあまりなく、時間配分には格別の注意が必要である。

パターン

Ⅰが倫理で、何らかの文献からの引用文を問題文として提示し、その問題文に関連する事項に答えさせるという形式が例年のパターンである。設問の素材として出される文章はかなり高度な内容を持つこともあるが、これを正確に読解することが求められることは少なく、高等学校の教科書レベルの思想史の知識と理解を十分に持っているならば、ほとんど問題文を読まずに解答できることもある。問題文はむしろ解答のヒントとして利用できることが多い。設問のうちひとつで、関連する思想家の著書名を答えさせる形式も定着していたが、この形式は本年出題されなかった。また任意の思想家を選んで論述できる設問が一昨年までは含まれていたが、これも昨年に引き続き出題されなかった。これまでは異なるテーマで2問出題されるのが通例だったが、本年は2問ともホッブズおよびロックについてのものであった。多くの受験生は政経でも学ぶホッブズとロックについてそれなりの理解をもっているはずなので、比較的易しかったであろう。ただ、もう少し論述しにくい思想家で2題出題された場合には、点をとれる受験生ととれない受験生に二極化するかもしれない。
Ⅱは例年、政治分野から出題されることが多い。近年は人権・統治機構、国際政治などから出題されている。また、時事的なテーマに関する文章、資料などを提示し、それと関連する事項について答えさせるというパターンが多い。
13年度のⅡでは、冷戦終結と武力紛争および国連PKOの展開が問われ、時事問題とは離れた内容であったが、14年度のⅡの政教分離に関する問題は、安倍首相の靖国神社参拝を背景としたものと考えられ、時事的な事柄と関連付けた出題となっている。また、15年度のⅡは、平成8年の地方分権推進委員会の中間報告を引用した問題で、直接的な時事問題ではないが、安倍内閣が提唱している地方創生が問題作成の背景にあったと思われる。16年度のⅡは選挙制度の課題と長所・短所が問われたが、選挙権年齢の18歳への引き下げや「一票の格差」の問題という時事的な視点からの出題である。さらに、17年度のⅡは、立憲主義を問うもので、安倍首相が進める改憲への道筋の中で立憲主義のあり方が問われていることが出題の背景となっている。
Ⅲは例年、経済分野からの出題であり、現実と理論に関する理解力や表現力、あるいは経済学上の基本原則を時事的な具体例にあてはめて説明する応用力を試す問題となっている。経済理論や時事問題に関する文章や、日本経済に関する統計・グラフなどを提示し、それに関連する事項について答えさせるというパターンが多い。
13年度のⅢは、GDPの産業別内訳の推移を示した資料から日本の産業構造の変化を読み取り、その変化の要因を説明する問題が出され、例年どおり思考力を求める内容であった。14年度のⅢは、『経済財政白書』の抜粋を問題文とし、財政赤字についての理解が問われ、時事的な関心が求められている。15年度のⅢは、離婚率の推移と人口ピラミッドをもとに、離婚率の低下要因を問うており、資料分析力と思考力が必要であった。また、16年度のⅢは、フィリップス曲線が示され、物価と失業率の関係を、「貨幣錯覚」という観点から考察する問題で、経済的な理論を考察する力が問われた。さらに、17年度のⅢは、内閣府が公表した「国民経済計算」の基準改定に関する資料をもとに、改定の意味を考えさせる問題であった。

内容

倫理については、どんな教科書でも扱われている基本思想を、比較や歴史上の意義、現代的意義という観点から問うことが多い。知識を直接問うのではなく、引用文との関連で、現代社会の問題について考え、記述するという、小論文的な設問の傾向も出てきている。重要思想を中心に学習しながら、同時にグローバル化や環境問題など、現代社会の問題について具体的な知識を貯えておく必要がある。
政治・経済は、現実の動きに関連する文章を提示して、定義、理由、経過、原因と結果、制度の趣旨や問題点などが問われる頻度が高い。時事的なテーマに関する文章、統計データ、グラフなどを提示する形式の問題がほぼ毎年出題され、時事問題に対する関心、分析力・読解力・論理的思考力・論述力などが総合的に試される。

難易度

倫理で問われているのは主に重要思想の基本的事項についての理解であり、的を絞って字数内でまとめる練習を積んでおけば、必ずしも難しくはない。加えて、現代社会の問題に関する理解が試されるようになってきている。そういった問題の基本的特性を説明することが求められているので、細かい知識より、問題を適切に構造化してつかみ、うまく文章に構成する能力が必要である。いずれにせよ、基礎的な思考力を高めることが大切である。
政治・経済は問題文を熟読し、出題の意図をよく理解したうえで、論理を組み立てる必要があり、基本事項や時事問題に関する知識に加え、思考力・論述力が要求される。時事的内容を深く考察し、自分の言葉で再構成して書く能力が不可欠であり、日常的に文章を書く訓練を積み重ね、教師に添削してもらうような指導を受けていないと、合格水準の論述力を身に付けることは難しい。

入試対策

一段掘り下げた勉強を

「倫理」の出来いかんが、倫理・政経を選択した者の間での点数の開きを生むだろう。一橋の倫理は通り一遍の勉強をしていたのでは点にならない。求められているのはたんなる知識の暗記ではなく、事項・用語等の十分な<理解>であり、その理解内容の正確な<表現>である。

出題のクセを知れ

基本的な勉強が必要なことはいうまでもないが、その先どう掘り下げたらよいかを知るためには、過去に出題された問題にあたり、一橋ではどういう視点から出題されるか予め確認しておかなければならない。思想家の思想内容、もしくは複数の思想家の見解の比較、ある思想家に対して別の思想家が行った批判、思想史の流れ全体におけるある思想家の位置づけ、これらが設問の視点であるといえよう。そうかといって、すぐに自分で思想家の比較や批判をやってみるような勉強は不要である。比較、批判、位置づけといった作業は、個々の思想家の思想の基本的性格の正確な理解を前提とするからである。出題者は、ある思想家の基本的性格をどれほど理解できているかということ、またその理解を基礎としながら問題となっている思想についてどれほど多角的に考えることができるかということを問うている。

基本的な枠組みの理解を

以上に述べたことからすれば、思想史上の重要な思想家の所説の基本的性格について正確に理解することが必須となる。そのためにはどうすればよいのか。まず教科書で大きく取り扱われている主要な思想家に関して、その思想家の思想の基本的な枠組みを捉えること、いいかえれば、その思想家が問題としたことと、それに対する答えとなる考え方を捉えることである。つづいてその思想家の用いている概念・用語をその枠組みの中に正確に位置づけること。以上のことをじっくり繰り返し行い、重要思想家を個別にきちんと把握しておくことである。そのためには、貫成人『哲学マップ』(ちくま新書)やサンデル『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)など哲学史の入門書を読んでおくといいだろう。
さらに、現代社会との関わりが問われることもあるので、その対策としては、社会科学系の小論文用のテキスト、あるいは新書レベルの入門的な現代社会論や思想の概説書〔たとえば見田宗介著『現代社会の理論』(岩波新書)、山脇直司著『公共哲学とは何か』(ちくま新書)など〕に目を通して、いかなる問題がどのような形で論じられているかをある程度自分なりに知っておくことが有効な対策である。

論理的思考力を養え

政治・経済の分野では、時事的な出来事などを背景とした良問が出題されることが多く、基礎知識の他に問題意識、事案分析力、読解力、論述力などが総合的に試される。したがって、マスメディアの報道を通じて日頃から時事問題への関心を高め、基本的な原理・原則を踏まえ、自分の頭で考える習慣を身に付けることが必要である。
そのためには、まずは教科書レベルの基本事項をしっかり理解する必要がある。そのうえで、新書レベルの本(岩波新書、ちくま新書、中公新書、講談社現代新書など)を読み、要旨や論点をまとめたり、自分の意見を明確に論述するトレーニングを行うことが有益である。また、時事問題を考察する上で必要な知識を獲得するために、新聞に掲載されている社説には毎日必ず目を通すべきである。さらに、テレビの特集番組やインターネットなどにも目を配り、今日的な課題について自分なりに論評できるだけの教養を身につけるようにしたい。その際、不明な用語などがあれば自ら調べて、政治・経済のボキャブラリーを増やすよう努めてほしい。さらに、経済分野では、統計資料や図表をもとにする問題が出されることが多い。資料集や白書などで統計資料を読み取り、その意味するところをつかみ取る訓練を重ねるとよいであろう。

問題作成者の出題意図をつかむ

一橋の政治・経済の問題は、知識量を測るものではなく、政治・経済に関する受験生の関心や考察の深さが測られる。したがって、私大の問題とは異なり、問題作成者の意図を忖度し、それに即した解答を論述する必要がある。自分の知っていることをただ列挙しても、問われている内容とずれていては、得点にならない。問題作成者が「何を問うているか」を把握したうえで、論述の要旨を組み立てるようにしよう。

過去問の研究

一橋大、東京学芸大などの論述問題に取り組み、大きな視点から論旨を100~200字の文章にまとめるトレーニングも大切である。過去問に取り組むことにより、来年の試験で最終的にどう書けばよいのかという目標が明確になるはずである。

適確な文章表現力を養え

倫理・政経にふさわしい物の見方・考え方が文章に反映されていなければ合格水準の答案とはいえない。過去の問題のテーマや重要と思われるテーマを選んで、200字程度の字数で書く練習を積み重ねる必要がある。用語の展開の確かな、論理的な文章を書かねばならないからである。と同時に、100~150字程度の適確で簡潔な短い語句で論点の明らかな文章を書くよう心がけよう。また、自分の論述が独りよがりに陥っていないか、文章の意味がきちんと伝わるか、不適切な表現がないかなどを確認してもらうため、日頃から教師の添削を受け、論述力を高めることが不可欠である。

※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。