2017年度入試
出題分析と入試対策
  東京大学 生物

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容
1 分化と遺伝子発現
循環系・免疫系
セントラルドグマ、RNA干渉、ウイルス、リンパ球の分化と遺伝子突然変異、循環系
2 代謝・進化
植物の形態形成
光合成速度と呼吸速度、光受容体、つる植物の成長戦略と形態・運動、つる性の進化
3 生物と環境
適応
種間関係の利害、捕食者の行動と被食者の防御の相互作用、繁殖戦略と環境

2016年度

番号 項目 内容
1 分化と遺伝子発現
バイオテクノロジー
組織と幹細胞、細胞分化と遺伝子発現、遺伝子操作、循環系、生体防御、恒常性、排出
2 細胞の構造と機能
代謝・進化
色素体と共生、遺伝子発現、タンパク質の構造と機能、光合成、代謝と根の成長
3 生物の集団・生態系
生物の環境応答
生物多様性と種間関係(食物連鎖、キーストーン種)、概日リズム、植物の生体防御

2015年度

番号 項目 内容
1 動物の恒常性
内分泌系
腎臓の機能、体液浸透圧、細胞膜、ホルモンと受容体、遺伝子型と形質
2 植物の生殖 自家不和合性、連鎖、遺伝子発現、形質と突然変異、重複受精、花粉管の誘引
3 生物の集団
生態系
物質生産とバイオーム、生物多様性と種間関係(競争、摂食)、環境の保全と外来種

2014年度

番号 項目 内容
1 発生と遺伝子発現
バイオテクノロジー
動物の系統分類、哺乳類の発生、酸素解離曲線、キメラ、ゲノム刷り込み
2 代謝・植物ホルモン
生物の集団
窒素代謝、化学合成、根粒形成と植物ホルモン、突然変異と形質、植物の調節
3 細胞分裂・DNA
タンパク質の機能
DNA合成、遺伝子発現、細胞周期、DNAの損傷と修復、タンパク質の領域と機能

2013年度

番号 項目 内容
1 生殖と遺伝
系統分類
動物の系統分類、ホルモン受容体、染色体と遺伝子、連鎖と組換え、性決定
2 環境と植物
遺伝子発現と分化
光発芽、気孔の形成、気孔の開閉、植物ホルモンと環境への応答、突然変異、光合成
3 遺伝子発現と形質
ゲノムと進化
ウイルス、ゲノム、遺伝子と形質、突然変異と形質、分子進化

2012年度

番号 項目 内容
1 動物の発生
遺伝子発現と発生
動物発生のしくみ、誘導と決定、体軸の決定、形態形成運動(原腸形成)と遺伝子産物
2 植物の生殖・遺伝
バイオテクノロジー
重複受精、戻し交配と品種改良、DNAマーカー、遺伝子導入、植物ホルモンと組織培養
3 生物の集団
適応と進化
生物群系、遷移、種間関係、隔離と種分化、生物の分布と環境の変化

2011年度

番号 項目 内容
1 生殖・発生
運動と代謝
動物の配偶子形成、動物の受精、精子の運動、エネルギー生産と呼吸
2 植物の体制 陸上植物の生活史と進化、植物の器官形成、植物の体制(葉序と開度)
3 遺伝子発現 遺伝子の発現調節、タンパク質の修飾と活性、突然変異と形質(遺伝子型と表現型)

2010年度

番号 項目 内容
1 生体防御・免疫 抗体産生のしくみ、抗体の構造と機能、抗原抗体反応、自己と非自己
2 遺伝子発現と発生
植物の調節
花器官の形成機構(ABCモデル)、遺伝子と形質発現、突然変異、花成とフロリゲン
3 刺激と反応
神経系
神経系、感覚と脳、平衡感覚と眼球運動、反射と興奮性・抑制性ニューロン

2009年度

番号 項目 内容
1 遺伝子発現
発生の機構
母性因子と発生、母性因子と体軸の決定、遺伝子発現の調節・分化と遺伝子発現
2 環境と植物 植物ホルモン、屈性とオーキシン、重力屈性・重力感知のしくみとアミロプラスト
3 集団遺伝
生物の進化
共生説、母性遺伝、DNAと系統進化、自然選択とDNA、遺伝子頻度(ABO式血液型)

2008年度

番号 項目 内容
1 細胞分裂
遺伝
染色体の構造・体細胞分裂・減数分裂、乗換えと組換え・三点交雑・染色体地図
2 恒常性 内分泌系・自律神経系、腎臓の機能・尿の生成・クリアランス、血糖と糖尿
3 同化と異化
窒素代謝・窒素循環
ミトコンドリアの構造と機能、原核細胞の代謝・呼吸・硝化・脱窒素作用・窒素固定
年度 大問 設問ごとの制限行数 計算問題 行数合計
(大問)
行数総計
1行 2行 3行 4行 5行
2017 1 1 1 3行 14行+α
2 1(*) 1 1 (-) 5行+α
3   3       1 6行
2016 1   4       (-) 8行 24行
2 3 2 1 7行
3   3 1     1 9行
2015 1 6 3       2 12行 28行
2 2 1 (-) 7行
3 3 3       1 9行
2014 1 4   1     2? 7行 24行+α
2 2 1 1 8行
3 1(*)   3     (-) 9行+α
2013 1 1 1       1 3行 15行
2 1 2 (-) 5行
3     1 1   (-) 7行
2012 1 1 4       (-) 9行 25行
2 5 2 10行
3   3       (-) 6行
2011 1 1 2       (-) 5行 18行
2 2 2 3 6行
3 5 1       (-) 7行
2010 1   2 3     (-) 13行 29~31行
2 3 1 (-) 9行
3   3 1     (-) 7~9行
2009 1 1 1 2     (-) 9行 21~23行
2 3 1 1 (-) 7~8行
3   3       3 5~6行
2008 1   1 2     1 8行 25~27行
2 2 3 2~4行
3 1 3 1   1 (-) 15行
設問ごとの制限行数は上限で分類した。表中の(*)は「制限なし」である。

出題分析

分量

大問は全3題。1大問で異なるテーマを扱う場合もあるため、テーマは5~6個あるといえる。論述問題に加え、実験考察・推論問題・計算問題などが含まれるので、制限時間内で解くには多い印象を受けるだろう。

パターン

大問には〔文〕が1~数個含まれ、各〔文〕に関する小問が並ぶ。基本的な知識に関する小問(形式は空欄補充・用語記述・記号選択・論述など多様)が並び、その後に、推論・考察を求める小問が並ぶのが典型的パターンである。推論・考察を求める小問も多様な形式(記号選択・空欄補充・論述)で出題される。
論述問題は1~2行のものが多いが4行以上の長いものもある。行数制限なので字数に神経質になる必要はない。グラフや図表の読解と推論(17年度全問・16年度全問・15年度全問・14年度全問・13年度全問)や、計算(17年度〔1〕〔3〕・16年度〔2〕〔3〕・15年度〔1〕〔3〕・13年度〔1〕)がよく出題されるほか、グラフや図を描く問題(15年度〔2〕・04年度〔3〕)の出題もある。

内容

受験生に目新しい題材を出題する傾向は一貫しているが、知識として要求するのではなく、関連する基本的知識を使って、科学の考え方で推論すれば解答できる設問になっている。しくみや因果関係、根拠を問うものが多く、こうした設問では操作の説明や結果の要約にしない注意が必要である。実験条件の意味を問う、実験を構成させるなど、科学の考え方を意識した出題はどの大学でも出題されるが、東大の場合は、それらに加えて、仮説検証をもとにする設問が非常に目立つ。
1大問は動物、1大問は植物を中心とし、残る1大問は分子・細胞適応(進化や生態)など、幅広く出題されている。したがって、2~3年では偏りがあっても、たまたまと考えるべきだろう。現代生物学の流れを反映して、遺伝子発現はさまざまな題材で問われる。また、2年続けて同じ分野や類似の題材、類似の設問が出題されることもあり、「去年出たから」といった小手先の判断は無意味である。

難易度

難易度は変動するが、17年度~15年度が標準的である。14年度は3大問とも非常に難しいレベルだったが、このようなことは滅多にない(採点基準の調整があったと推測される)。東大入試の難しさは、細かい知識を求められる点ではなく、基本的知識を使って生命現象をイメージし、何を明らかにする実験なのかを読み取る点にある。また、説明文が長く、計算、推論・考察、論述と時間を要する設問が中心なので、読解・思考に正確さと速度の両方が必要な点も克服しなくてはならない。

17年度の特徴

今年度は、3大問とも文は2つであったが、〔2〕〔3〕は文1が軽い内容で、実質的には文は1つと言えよう。論述問題の制限行数が3大問総計14行と昨年より大きく減少した(分析表参照)。考察問題を文章選択や空欄補充で出題した結果だが、その理由は題材や考察内容が難しかったことだろう。計算問題は容易で、総合的には東大入試として標準的な難易度と思われるが、〔2〕を取り組みにくく感じた受験生が多かったかもしれない。分野・内容は、〔1〕が「分化と遺伝子発現(動物)」、〔2〕が「代謝・形態形成(植物)」、〔3〕が「種間関係と適応(動物)」と幅広い。遺伝計算を〔1〕と〔3〕で問い、進化を〔2〕と〔3〕で問うなど、ひとつの題材を複数の視点から考えさせる点でも"東大らしい"問題であった。仮説の語は〔2〕に登場するだけだが、内容的に仮説検証の考え方を利用する設問は多かった。ただし、実験を構成する設問はなかった。3年続きで〔3〕で種間関係を扱ったのも特徴的であった。

入試対策

東大入試では、正確な読解や科学的な考察・推論、的確な論述が求められる。いわば、科学研究の土台となる力が要求されており、今後も変わらないだろう。
正確に読解し考えるには正確な知識が必要である。しかし、東大入試が要求する知識とは、記憶した用語や事項のことではない。もちろん記憶すべき用語や事項はあるが、より重要なのは自然現象のしくみを理解することである。しくみの理解には、関与する要素を知り要素相互の関係を理解しなくてはならない。自然現象を"因果関係のストーリー"として理解した上で記憶し、連想できるように"ストーリー"どうしを結びつけることが望まれる。この目的には、教科書の通読が想像以上に有用である。東大志望者の中には、細かい点に意識が向き過ぎ、基本的事項に関する正確な知識を身につける努力を忘れる諸君もいるが、それでは駄目だと肝に銘じておこう。
科学的な考察力と表現すると不安を感じる諸君も、科学的に考えるスキルと表現すれば、練習で身につくと感じてくれるだろうか。実際、入試で問われる科学的に考える力は、科学的に考えるスキルと呼べる範囲がほとんどである。スキルの習得には(過去の科学者を)真似ることが大切である。つまり、教科書の内容(過去の研究の成果)がどんな根拠に基づいているのかを知り、科学者のつもりで思考実験すること、そして、対立する仮説を否定するためにどんな工夫をしたか理解することが重要である。「なぜそう結論できるのか」と自問して自分の言葉で答え、図やグラフを描き写して確認する。出題された題材と教科書の題材との類似に気づくことが解答のポイントになる問題が多いので、こうした地道な努力が価値をもつことになる。
考察問題つまり科学的に考えるスキルを使う問題への対策には、スキルを使う練習が要る。考察に苦手意識がある諸君には、第一段階として、ゆっくりと時間をかけて1つの大問(東大の過去問など)を解くことを薦めたい。自分なりのメモをつくり解答をつくろう。第二段階は、第一段階で使った問題を時間内に解く練習である。初めて解くつもりで思考過程を再現して時間内に解く練習をしよう。第三段階が初見の問題での練習だが、闇雲に新しい問題に手を出すのは駄目である。ここでも、時間無制限で解いたり、繰り返して解いて道筋を復元するなど丁寧に練習しよう。もし、復元できないならその問題を卒業できていない。復元できるまで繰り返し解こう。
生物の場合、21世紀に入っての学問の進歩が入試に反映している(その意味で、新聞・TV・科学雑誌などに目と耳を向けておきたい)ので、過去問は最近10年分に取り組もう。それ以外では、『実戦模試演習 東京大学への理科』や『生物 新・考える問題100選』(いずれも駿台文庫)が役に立つ。さらに、東大対策講座の受講や東大実戦模試の受験も効果がある。
東大入試には、基本的知識そのものを問う設問や知識から容易に推論できる設問、正確に読み取れば正答できる設問もある。こうした設問で失点しないためには、『生物 記述・論述問題の完全対策』(駿台文庫)などを利用して、知識の確認と書く練習をするのが望ましい。的確に論述する力の習得には、科学的な文章を多く読み、自分の手でたくさん書くしかない。ただし、誤った努力では効果がないので三つのことに注意しよう。一つ目は用語を正しく使うこと。たとえば「予定運命の決定」は誤用である。生物学用語を並べても全体として意味をなさない答案は容赦無くバツにされる。二つ目は設問の要求に的確に答えること。設問の要求とずれていては正しい内容でも正解にならない。三つ目はチェックを受けること。誤りを指摘されるのは苦痛だが避けては上達できない。痛みの分だけ合格に近づくと思い頑張ろう。
最後に、東大入試に向かう正しい姿勢を書いておく。東大入試では、読解・思考・論述のスピードが重要になるので、そのすべてを速くする努力が必要になる。読解で言えば、時間が足りないからと関係が"ありそう"なところを拾い読みするのは誤った姿勢である。東大入試では、全体を大まかに把握する速い読み方と細部を理解する精確な読み方の使い分けが必要なのだ。思考・論述も同様で、時間内にすべての解答を書くために、雑に考え雑に書くのは誤った姿勢である。質と速度を同時に実現するのは困難だが、二つの方向性を意識して、まずは、質の高い答案を作ることを練習しよう。その後、すばやくポイントを絞って考察し文章にする練習をすれば、十分な速度を身に着けられる。しっかりと準備をして良い結果を得て欲しいと思う。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。