2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 社会科学部 世界史

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容 形式
イスラーム世界 前近代イスラーム世界に関する政治史、経済・社会史、文化史 選択・正誤
年代整序
ロシア通史 13~20世紀前半のロシア政治史 選択・正誤
年代整序
明代・清代の東アジア史 明代・清代の中国と周辺諸国の政治史、文化史 選択・正誤
戦後史 冷戦期における欧米、アジア、アフリカの政治史 選択・正誤
年代整序

2016年度

番号 項目 内容 形式
古代史総合問題 古代のオリエント、地中海世界、東・南アジアの政治・経済・文化史 選択・正誤
年代整序
中世~近世のヨーロッパ史 中世~近世のイギリス・フランス・ドイツを中心とする政治・経済・文化史 選択・正誤
年代整序
アメリカ近現代史 北米植民地、およびアメリカ合衆国の発展と黒人問題・移民問題 選択・正誤
年代整序
アジア近現代史 20世紀のアジア・アフリカ政治史 選択・正誤

2015年度

番号 項目 内容 形式
ユーラシア大陸における東西交流 前近代の中国・東南アジア・イスラーム世界の政治・社会・文化史 選択・正誤
古代~中世ヨーロッパ史 古代~中世ヨーロッパの政治・社会・文化史 選択・正誤
アメリカ近現代史 アメリカ合衆国を中心とする18世紀後半~戦後政治史 選択・正誤
ヨーロッパ近現代史 19世紀後半~戦後のヨーロッパ政治史 選択・正誤
年代整序

出題分析

難易度

15年、16年と難易度が易化したが、17年はやや難化し、かつての社会科学部のような受験生の上げ足を取るような悪趣味な引っかけや、高校世界史のレベルを超えた事項を含む設問が復活した。確かに、16年入試の難易度は早大レベルを考えると多少易し目だったが、受験生の努力がきちんと報われる問題であった。それだけに、かつてのような難問・奇問に戻りそうな傾向が現れたことは残念でならない。山川出版社の『世界史用語集』の用語頻度①程度(教科書での記載がほとんどない)の知識や、そもそも教科書・用語集などに記載すらない事項を出題することに、何か意味があるのだろうか。これでは、10年ころのように「社会科学部の問題は難しすぎるから」と受験生が再敬遠する結果になりかねない。それよりも、グラフ、表、史料、小論述など、商学部や政治経済学部のように出題形式のバリエーションを増やして受験生の実力を図る方がよいのではなかろうか。ふたたび難問・奇問に戻らないことを切に願うばかりである。

分量とパターン

大問数4は16年と同じ。設問数40も同じ。形式別の出題数では、正誤問題が全体のほぼ半数(あるいは半数以上)を占める。また、その他の形式の出題は、年代整序が16・17年と続けて3問出題された。ほぼ、大問1題につき1問ずつ出題されていることとなり、ほぼ形式として定着したと考えてよいだろう。論述、地図、グラフなど、深い思考力を要求する出題はない。設問形式別の出題数は以下の表の通り。
年度 2017 2016 2015 2014 2013 2012
正誤問題 25 24 27 29 23 24
年代整序 3 3 1 0(1*) 2 3
記号選択 12※ 13 12 11 13 13
年代の単答問題1
※単答7、語句組合せ2、長めの事項選択2、年代選択1

範囲と内容

出題地域を大問別に見ると、Ⅰがイスラーム世界、Ⅱがロシア通史、Ⅲが中国を中心とする東アジア史、Ⅳが欧米・アジア混合の戦後史と、17年はアジア・アフリカ史偏重となったほか、久々に地域史として「ロシア通史」が出題された。ロシア通史はかつて社会科学部の定番だったので(09年、11年にも出題された)、復活といったところである。本年のトピックとして目立った点は、特に西欧・北米が非常に少なかったことである。個々の設問を見ると、欧米史のみの出題は16問で16年からは激減し(-10)、さらにそのうち11問はロシア・東欧史である。アジア・アフリカ史のみは23問。また時代を見ると14年は「近現代史が少ない」、15年・16年は「前近代・近現代史が半々」(18世紀後半のアメリカ独立戦争を挟んで、出題がちょうど20問ずつ)であったが、17年は前近代(18世紀まで)が23問、19世紀以降が19問(時代をまたぐ設問があるため、合計は40を超える)で、16年に激減していた第二次世界大戦以降が10問に激増(+9)した。もともと社会科学部では、年によっては冷戦終結後まで幅広く現代史を出題していたので、特に驚くべき変化ではない。隔年で増減しているので、来年は、17年に全く出題がなかった古代史が増えるかもしれない。出題分野は社会科学部の特徴でもある政治史偏重で、文化史8問、経済・社会史7問、政治史は37問である(正誤問題の選択肢中に1つ以上含まれるものはカウント。よって合計は40を超える)。

「詳細な現代史に注意」

社会科学部では、冷戦終結後まで幅広く、しかもかなり詳細な現代史が出題されることが多い。本年も戦後史が10題(25%)出題されており、注意が必要である。近年の具体的な例を挙げると、10年「中東戦争の歴史的背景と経緯」、11年「先史から20世紀のアフリカ史」「13世紀から現代のロシア史」、12年「1980年代以降を中心とする、欧米・アジアの政治・経済・文化史」、13年「文化史・社会史を中心とする20世紀文明」、15年「19世紀後半~戦後のヨーロッパ政治史」、そして17年は「冷戦と国際社会(欧米・アジア混合問題)」が出題されたように、戦後まで含めた詳細な現代史が出題されている。さらに、社会科学部では現代史が文字通り「現代(2000年以降)」まで出題されることも多いので、教科書をベースに、日頃から時事問題への関心も高め、政治・社会・経済の歴史的変遷とその背景・経緯・意義などを丁寧に理解するように努めよう。

「政治史以外にも要注意」

15年には少なかった「経済史・社会史」や「文化史」が関係する出題は17年には15問(全40問中)となった。17年は政治史との混合問題が多かったため、単独の出題は少なかったが、例年、社会科学部では政治史以外の分野が幅広く問われることが多いので注意が必要である。これまでの大問での出題を挙げてみると、11年「農民の歴史」、12年「重商主義と産業革命」、13年「20世紀文明」などがあり、大問での出題はなかった14年にも政治史以外の経済・社会・文化に関係する問題は24問(全40問中)あった。近年で、例外的に少なかったのは15年くらいであり、注意しておくべきであろう。

「地域史に要注意」

17年には、「地域史」として社会科学部で頻出の「ロシア通史」が出題された。ここ数年で地域の出題が少なかったのは13年、16年の2年のみで、09年~11年、14、15年には単独の大問として、アフリカ(11年)・中南米(09年、14年)・インド(10年)・ロシア(09年、11年、17年)・内陸ユーラシア(15年)など、受験生の盲点になりがちな地域史が大問で出題された。12年は単独の大問はなかったが、小問単位で見ると合計9問が周辺地域史からの出題であり、問題数から考えると大問1題相当数が地域史であった。年毎に見るとかなり地域が偏っているものの、アフリカやラテンアメリカの通史が問われるということは、どこが出題されてもおかしくない。むしろ、本年に出題が少なかった分、来年は増加するかもしれない。

入試対策

17年は、高校世界史の範囲を超える出題が復活したものの、教科書を基準とした受験レベルの内容を正確に理解していれば解答できる問題もある。年代整序も定番になってきた。大学側には、15年、16年のような受験生の努力がそのまま得点に現れるような出題をお願いしたい。例年指摘しているが、グラフや史料、年表、地図などを用いた問題、論述問題など、異なる出題形式の問題を増やしても良いのではないかと思う。早大の名にふさわしい受験生がきちんと学習成果を発揮できる出題に期待したい。過去問を解くと不安になるかもしれないが、受験生は些末な知識や曖昧な選択肢の多い設問に振り回されずに、しっかりと基本事項を整理した上で、教科書をベースに政治・社会・経済の歴史的変遷とその背景・経緯・意義を深く理解することに努めよう。正誤問題や年代整序問題が定番となっている社会科学部では、単なる用語暗記では出題者の術中にはまる。また、例年出題が多い近現代史は、第二次世界大戦後(1945~現在)も含めて基本事項をしっかり理解し、徹底的に学習すること。また社会科学部で頻出であった「周辺地域の通史」(東欧、ラテンアメリカ、アフリカなど周辺地域の通史)が17年には復活したことからもわかるように、学習の際には万遍なく全地域を網羅的に確認しておこう。教科書や資料集の図版・グラフ・地図などにも十分、目を通しておくこと。

※解答・解説に関する注意

解説文中の表記「山川用語集」は、『世界史用語集 第1版』(山川出版社)を指す。また、14年以前については、その年の解説を執筆した時点で最新の『世界史B用語集改訂版』(山川出版社)を指す。「山川用語集での頻度」とは、山川用語集に示された数字のことで、15年以降は「高校世界史教科書7冊のうち何冊に記載があるか」という意味である(最大は⑦)。ただし、14年以前(旧課程)では高校の世界史教科書が11冊あったため、「高校世界史教科書11冊のうち何冊に記載があるか」という意味である(最大は⑪)。このため、15年以降の用語集の頻度を、14年以前とは単純に比較することはできないので、留意してほしい。また、本書を使用して学習する受験生が「きちんと学習して理解してほしい問題」と「間違っても仕方ない問題」を明確にできるよう、13年より大問ごとではなく、個々の問題番号の後ろに(難)(やや難)の表記を入れることとした。(難)と記載した問題は、高校世界史のレベル(受験レベル)を超えており、受験生が解答するのはほとんど無理な問題。(やや難)と記載した問題は、受験生が教科書・図説・受験参考書などで辛うじてアプローチできるものの、解答するのは難しいと思われる問題。表記がないものは、早大受験者には学習の際にきちんと理解してほしい問題。14年までは多かった(難)(やや難)の問題に振り回されず、合格に向かって焦らずに頑張ってほしい。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。