2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 文学部 国語

過去の出題内容

2017年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
空欄補充(語句・文)、傍線部説明、論旨把握、内容合致 鶴見俊輔
『戸坂潤 ―― 獄死した哲学者』
(二) 現代文
(エッセイ)
空欄補充(語句)、脱文補充、傍線部説明、内容合致、漢字書き取り 河崎吉紀
『想像の読者共同体』
(三) 古文
(物語)
空欄補充(語句・解釈)、傍線部解釈、主体判定、敬語の種類、内容理解、文学史 『大鏡』
(四) 漢文
(思想)
空欄補充、指示内容、傍線部解釈、主旨把握 王粛『孔子家語』

2016年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
空欄補充(語句・文)、傍線部説明、内容合致 金子勝ほか
『社会はどう壊れていて、いかに取り戻すのか』
(二) 現代文
(評論)
空欄補充(語句・文整序)、脱文補充、傍線部説明、内容合致、漢字書き取り 水野千依
『キリストの顔イメージ人類学序説』
(三) 古文
(物語)
傍線部解釈、主体判定、文法(助動詞)、脱文挿入、空欄補充(語句・掛詞)、文学史 『平中物語』
(四) 漢文
(思想)
空欄補充、傍線部解釈、主旨把握 荘周『荘子』

2015年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
傍線部説明、空欄補充(語句)、内容合致、漢字書き取り 前田英樹『民俗と民藝』
(二) 現代文
(評論)
空欄補充(文整序・語句)、傍線部説明、 内容合致 三浦佑之『村落伝承論』
(三) 古文
(甲-歌集
乙-歌論)
空欄補充(語句)、和歌の技法、文学史、文法(助動詞)、主体判定、傍線部解釈、内容合致 甲 藤原実家『実家卿集』
乙 源俊頼『俊頼髄脳』
(四) 漢文
(随筆)
傍線部解釈、語彙、空欄補充、主旨把握 欧陽脩『相州昼錦堂記』

出題分析

<現代文>

2017年度は、(一)は思想弾圧により獄死した昭和初期の哲学者について論じた社会思想論、(二)は雑誌というメディアの特色と今後の可能性について述べたエッセイ。(一)が社会・思想論、(二)が文化・芸術等を題材としたエッセイという組み合わせは、早大(文)の標準的な形である。また、(一)は昨年に続き近現代の社会・国家への批判的視座をもった文章が出題されており、この種のテーマ・論じ方を意識しておきたい。分量は合計7500字超で、昨年より1000字以上増加したが、内容的には(一)(二)ともに昨年に比べ読みやすい文章であった。設問形式は、空欄・脱文・傍線部説明・内容合致とほぼ例年通り。全体の難易度は、昨年に比べ問題文が平易になり、また設問も(一部に答えづらいものはあるが)比較的解きやすいものが多かった一方で、問題文の分量はかなり増加しており、全体としての難易度(受験者にとっての負担)は昨年並みか、やや易化といったところであろう。
これまでの出題を概観すると、16年度は、(一)は昨今の政治的・社会的風潮への対抗的社会運動の基盤にある考え方を論じた社会論、(二)は美術・芸術史の新しい動向としての「イメージ人類学」について論じた文化論。15年度は、(一)は民藝研究家柳宗悦の思想を通じて西欧的美学を問い直す文化論、(二)は「村落」のあり方の変化を通して都市化する現代社会のあり方を照射した社会論。14年度は、(一)が現代における想像力の変形を論じた現代社会論、(二)は〈不可視のもの〉への〈想像〉という視点から〈陰影〉の意義を論じた文化論。13年度は、(一)が社会問題と向きあう思想や言説のあり方を問う現代社会論、(二)が伝統的な身体技法の中に潜む無意識的な文化的意味を論じた身体論。12年度は、(一)が文明と自然との関係を論じたエッセイ的な評論、(二)が現代における文学の困難さとその可能性について論じたエッセイ。11年度は、(一)が思想家・文筆家が社会と向き合う際のスタンスを論じたエッセイ的な評論、(二)が人文学のあり方について論じた評論。
設問形式は、空欄補充、脱文補充、傍線部説明、語句の抜き書き、文整序、主旨把握、漢字書き取り、(年により文学史が1問)などが中心となってほぼ定着してきている。解答形式は選択・抜き出し式がほとんどで、本格的な記述説明は出題されていない。

<古文>

2017年度は平安時代後期の歴史物語『大鏡』からの出題であった。昨年度は平安時代前期の歌物語からの出題で、和歌二首を含む文章であったが、今年度は和歌は含まれていなかったものの、例年同様、標準的な文章であった。
問題文の分量は昨年度から30字ほど増加し850字程度、解答数は昨年度より5つ増加して19であった。難易度は昨年同様で、和歌の問題は出題されなかったが、毎年出題される文法・文学史の問題は例年通りであった。
設問形式は、昨年出題された記述式の設問がなくなり、すべて選択式の設問であった。空欄補充の問題は、昨年度より空欄が3つ増加し、5つになった。設問の内容は、語意(形容詞)、文法(敬語)、文学史(成立時期)などの基本事項を問うものから、主体判定、文脈に即した解釈、内容理解の問題まで、基礎・応用・発展と幅広い出題であった。読解を重視した出題方針は例年を踏襲したものであった。問題文全体の理解を求める問題として昨年度は脱文挿入の問題が出題されたが、今年度は傍線部解釈の問題であった。
最近の傾向としては、語句の意味(特に形容詞・形容動詞・副詞)を問う空欄補充の問題や、文脈から考えさせる敬語の問題、また、品詞を捉えさせる問題や助動詞の意味(職能)、助詞の用法などの基礎力を問う文法問題、和歌の修辞法の理解や内容を読解させる問題などがよく出題されている。さらに、きちんとした読みを求める内容理解の問題や内容合致の問題、古典常識を問う問題などが頻繁に出題されている。文学史の問題も必ず出題されているのが文学部の特徴である。
ここ数年、設問は良問で、選択肢も比較的明確に正誤が判断できるものが多く出題されており、受験生の学力がはっきり反映される問題となっている。

<漢文>

設問数は、2016年度までと同じく全4問。問題文は277文字で、一昨年よりだいぶ長くなった昨年(266文字)よりもさらに長くなった。設問構成は、「空欄補充」1、「指示内容」1、「傍線部解釈」1、「主旨把握」1である。空欄補充が昨年の二箇所から一昨年の一箇所に戻った一方、「指示内容」の設問がプラスされた。また、以前は必出であった読み方(返り点)の設問は、今年もなかった。傍線部や(その前後)・空欄を含む文が白文である点は例年通りだが、空欄前後は、送り仮名のみを省いていた一昨年までの基本的スタイルとは異なり、昨年同様白文化していた。全体的に見て若干相違があるものの、文学部の伝統的スタイルとおおむね同じだと言うことができる。全体を通して、難易度は昨年と同程度で、一昨年までと比べると、昨年同様若干難しい印象である。

入試対策

<現代文>

あくまでも本文を正確に読解し、全体のイイタイコトを大きくつかむ読解練習が先決である。空欄穴埋めや本文抜き出し、あるいは紛らわしい選択肢の設問が多いからといって、設問にこだわった、こせこせとした勉強をしてはならない。空欄・傍線は単なる部分としてそこにあるのではなく、必ず、全体との関連の中に位置していることを忘れないでおこう。本文の論理を正確にたどるとともに、設問の解答にあたっては、イイタイコトを視野に入れつつ、部分⇔全体という往復作業をすること。選択肢を先に読むなどという、いわば逃げ腰の勉強では、力はつかない。本文と正面から取り組むという気迫を持つことが大事である。また、文学部の出題テーマはきわめて多岐にわたるので、文章内容の〈好き嫌い〉で出来が左右されるようではまずい。どんな文章でも〈その文章の論理に沿って、その場で読みながら理解できる〉読解力の養成が重要。この点を強く意識して読解練習を重ねたい。
文学部では、本文の内容を〈内容的には同じだが言葉としては別の表現に(かなり大胆に)書き換えた正解〉が作られる場合が少なくない。また、選択肢と文中のある箇所が一対一で対応している、というのではなく、文中の複数の箇所を合成したり、広い範囲の論旨を要約したりして正解が作られている、といったものが多い。したがって、単に〈選択肢の文言が直接本文に出てくるかどうかを確認する〉という〈解き方〉ではなく、本文の趣旨をしっかりとつかんだ上で、その方向性に一致するかどうかで適否を判断する解答姿勢が必要になる。問題練習に当たって、こうした点も意識しておきたい。
言うまでもないことだが、ふだんの勉強では、辞書を片時も離さないこと。文章を読むことは、言葉との戦いである。言葉に対する貪欲なくらいの知識欲がなければ、書き取りすらおぼつかないだろう。四字熟語・ことわざ・故事成語・慣用句、そして文学史の基本も、日常の学習で確実なものにしておきたい。

<古文>

今年度も、昨年度同様、出題は良問で、昨年とは異なり記述式の設問は出題されなかったが、出題の意図や形式に大きな変化は見られなかった。したがって、来年度の入試に向けての対策としては、やはり、解釈力の充実、特に基礎的な部分を確実に固めておくことが何よりも必要である。
文法事項(用言の活用・活用形、助動詞の接続・職能、助詞の用法、敬語法など)の基本をしっかり身に付けること、古典常識や重要古語をマスターすること、その上で、主体・客体の把握、指示語の具体化、登場人物の心情や行動の理由などに注意を払いながら、読解力を鍛えていくことである。また、一昨年度のように和歌に重点を置いた問題文の出題も予想されるので、和歌の修辞法や解釈の習熟にも力を入れておく必要がある。和歌は不得意な受験生が多いので、早めに万全の対策を取っておきたい。文学史も必ず出題されるので、早い時期からこまめに学習していくことが望ましい。
作品のストーリー展開の理解や登場人物の把握、作品における和歌の役割などを理解することに重点を置きながら、多くの古文の文章を読み込んでおくことをお勧めする。

<漢文>

早大本学部は、06年度までは旧字体で出題するのが大きな特徴であったが、07年度からは常用漢字体で出題するように改められた。だが、「設問に関連する箇所は白文のまま」という伝統は本年度も健在である。そのため、漢文法の体系的な知識を身につけ、白文でもきちんと読めるような訓練を積むことが必要になる。受験生の能力は相応の水準にまで高められていなければならないわけだ。
また、基礎的な語彙力を確実なものにするとともに、現代日本語の語彙(熟語)力もつけておくようにしたい。さらに、問題文の構造を正しくとらえ、文脈に応じた幅広い文字解釈を行う習慣も身につけてもらいたい。漢文で出会う基本単語の読み方や用法を記憶するとともに、レベルの高い日本語の文章にも日常的に触れるようにし、国語辞典や漢和辞典、国語便覧などをフルに活用して語彙力を高めておくことも大切だ。
とにかく、漢文法の体系的な知識を身につけ、白文でもきちんと読めるような訓練を積み、返り点・書き下し文・解釈のどれを問われても得点できるようにすることが必要だ。日頃の学習において、白文に自力で返り点・送り仮名を施すような訓読の訓練を積むこと。それが、早大合格のための第一歩なのだ。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。