2018年度入試
出題分析と入試対策
  京都大学 地学(理系)

過去の出題内容

2018年度

番号 項目 内容 形式
天文 年周視差と見かけの大きさ、白色矮星と密度 穴埋め、計算
地球物理 大気循環と偏西風波動、温帯低気圧の風、エーロゾルと雲 穴埋め、論述、計算
地球物理 プレート境界の断層、古地磁気極の移動と大陸移動、地磁気異常 穴埋め、論述
地質鉱物 岩石鉱物の基本、アイソスタシーと大陸の平均標高 穴埋め、計算

2017年度

番号 項目 内容 形式
天文 シュテファン・ボルツマンの法則、太陽のエネルギー源、スペクトル線のドップラーシフト 穴埋め、計算、論述
地球物理 海水の底層流、海水の鉛直構造 穴埋め、論述、計算
地球物理 岩石溶融曲線とマグマの発生、地震波の走時曲線 穴埋め、計算、論述
地質鉱物 地質図、地史の復元、地質断面図、大陸移動説 穴埋め、計算、論述

2016年度

番号 項目 内容 形式
天文 スペクトル線のドップラーシフト、シュテファン・ボルツマンの法則、星の分類と特徴 選択、記述、計算
地球物理 低気圧、台風、亜熱帯環流、深層循環 選択、記述、計算と説明
地球物理 生物進化、放射性年代 選択、記述、説明、計算
地質鉱物 地質図と地史 選択、記述

出題分析

全体像

出題の形式を見ると、例年と変わりなく大問4題の出題で、京大の伝統的な出題の形はまったく変化していない。しかし、最近の研究の成果を取り入れ、従来の地学の領域をまたぐような新課程の特徴を取り入れるという点で、2017年から続いて「旧課程と異なった出題内容」という印象が強い。この傾向は2016年度の出題から現われ始め、はっきりと「京大の特徴」と言えるようになった。旧課程の出題は、大問一つについてのテーマがまずあって、そのテーマについてどのように受験生が理解しているかを見ようとするのが特徴であった。それが新課程になって、あるテーマの出題でも、そこから派生するテーマをまたいだ内容についても出題している。一見、広範囲に知識を暗記することで対処できそうな出題に思えるが、よく見ると、自然科学ではどのような単位系を用いているか、計算に必要な数学的知識はしっかりしているか、等を身に付けていることが前提条件となっている出題である。すなわち、理系の学部に入学するために当然身に付けておかなければならないことを前提とし、その上で、地学としての出題内容は高校の範囲で理解できる。「何か難しいこと」を理解しなければ解答できない、いうことではない。2016年度以来、「教科書の記述がストーリーの流れを重視する」内容となっているので、そのストーリーに沿っていろいろと工夫をした出題の流れは続いている。言葉を変えれば、「地学の現象を理解するための物理の基礎知識や理科の素養をベースとしたストーリー理解を要求する問題」に力点がおかれ、それが継続している。この特徴は地学問題Ⅰ~Ⅳ全体に現われている。
従来の京大地学の出題は「地学の現象について理論を用い、論理的にどのように理解し、さらに式を用いて理論を理解することにウェイトをおく」ことが特徴であった。この特徴は底に流れているが、さらに、「何が問題になっているかをしっかりと把握する力」に加えて「思考力と丁寧な計算」が今後も必要になると思われる。

内容

<地学問題Ⅰ>

太陽やシリウスを題材にした恒星の光度と半径、表面温度の間の関係やケプラーの第三法則を用いて質量や平均密度を求める問題が主になっているが、恒星までの距離を求めることが最もベースとなっている。

問1 恒星の進化の流れをしっかりと理解していればすぐに答えられる。
問2 等級の定義から、シリウスBの光度はシリウスAの1/10000であることがわかる。シリウスは連星系であるが、太陽系(地球)からの距離は同じとみなしてよい。したがって等級差から光度の比がわかる。
問3 シュテファンボルツマンの法則そのものは「物体の単位面積から単位時間に放射されるエネルギーは表面温度の4乗に比例する」ことを述べているので、光度は物体の表面積をかければ求まる。恒星は球と考えてよいので、球の表面積をかけることになる。
問4 年周視差は1天文単位はなれた2点(A、Bとする)から、天体Oを見たときの∠AOB(p″)のことである。年周視差は十分に小さな角であるから、Oを中心にして半径OAの円を考えたときの弧ABが直線ABと同じとみなせることがポイントである。この場合、角度をラジアンにする定数をkとすると、AB=kpOAが成り立つ。また、連星C、Dを地球(E)から見たときの∠CEDをμ″とするとCD=kμCEとなる。この問題では、AB=1天文単位、OA=CE、p=1/2.6、μ=7.6とおけばよい。この2式からOA(CE)を消去すればCD=μ/pとなる。この計算では距離の単位は天文単位である(パーセクは年周視差を表す)。
問5 問題文に与えられた公転周期50都市と問4の平均距離からケプラーの法則を用いて連星系の質量の和が求まる。距離の比と質量の比の関係から質量の和をMAまたはMBSの式に直せるので、答を得ることができる。具体的な計算は解答を参照してほしい。
問6 問3と問5から、シリウスBの質量と半径が太陽を基準としてわかっている。平均密度は質量を体積で割ればよい。シリウスBの体積と太陽の体積の比は半径の3乗の比となるから、シリウスBと太陽の平均密度の比がわかる。

<地学問題Ⅱ>

地球の熱収支と大気海洋間の相互作用、太陽活動の地球への影響を問題にしている。地球の大気や海水の動きのエネルギー源は太陽放射であるから大気や海流を考えるときは当然考え方の中に入ってくる。

問1 大気と海水の相互作用の例として有名なのがエルニーニョ、ラニーニャ現象である。また、大規模な火山活動は地球の熱収支に影響を与える。地球放射の赤外線を吸収する大気中の物質は温室効果を示す。
問2 フレアに伴って、普段より紫外線量が増加する。これは光速で伝わるので、フレア発生から約8分後に地球に到達する。紫外線は電離層の電離をすすめ、デリンジャー現象を引き起こす。太陽風は荷電粒子が吹き出されるので、光に比べたらかなり遅いので、地球に影響を与えるのはフレア発生後1~2日たってからである。
問3 赤道低圧(収束)帯で圏界面付近まで大気は上昇する。圏界面を越えて大気は上昇できず高緯度へ向かう流れとなるが、自転の影響で極まで到達できず、亜熱帯高圧帯で下降気流となる。地表へ到達した大気は、赤道へ向かう貿易風と高緯度へ向かう偏西風となる。これを北半球について説明すればよい。
問4 ⑴原理としては地質断面図を描く方法と同じである。
⑵500hPa等圧面高度の線に沿って吹く風は偏西風波動である。等高度線の気圧の谷の東側には地上に温帯低気圧が発生しやすい。
⑶地上付近を吹く風は気圧傾度力と転向力以外に摩擦力の影響を考えねばならない。摩擦力は風と180°逆の向きに(風速を抑える向き)に働く。すると、転向力と摩擦力の合力が気圧傾度力と釣り合うところで、大気にかかる力が0となる。風は摩擦力と逆の方向に吹く。ただし、北半球と南半球では転向力の働く向きが異なるのでその点に注意が必要である。
問5 エルニーニョ、ラニーニャは貿易風の強さが原因で発生することはしっかりとつかんでおくべきである。
問6 大気中に存在する微粒子をエーロゾルといい、大気中で水滴が生じるための凝結核としての役割を果たしている。凝結核が存在しないと湿度100%になっても水滴が生じない過飽和の状態が起こる。

<地学問題Ⅲ>

プレートテクトニクスについての出題である。よく、「地殻=プレート」と誤解している受験生もいるが、プレートと地殻、マントルの区別とは基準が異なることに注意しなければならない。地殻とマントルの境界であるモホロビチッチ不連続面は地震波の伝播速度が不連続に変化する面である。

問1 プレートは地殻とマントル上部を合わせた硬い層でリソスフェアといわれる。リソスフェアは柔らかいアセノスフェアの上に乗っている。柔らかいことは地震波の伝播速度が遅くなるのでアセノスフェアは「低速度層」ともいわれる。
問2 プレートの拡大する境界(海嶺)は引っ張る力が働く。引っ張る力によって正断層が生じるので正断層型の地震が生じる。すれ違う境界(トランスフォーム断層)は横ずれ断層とは異なるが、地震の起こり方としては横ずれ型である。
問3 ⑴中央海嶺は地球の中心を通る大円の一部で、トランスフォーム断層は中央海嶺と直交する。球を異なる大円で切ると、大円は必ず球面上の2ヶ所で交わる。この問題では、プレートの回転軸を決めるのであるが、トランスフォーム断層に垂直な異なる大円を描けばその交点がオイラー極になる。
⑵地磁気異常の縞模様は海嶺に平行であり、海嶺軸からの距離をプレートの移動速度で動いたところが強弱の境界となるから、78万年で片側に19.5km移動した。プレートXをとめて考えると、YはXに対して78万年で39km動いたことになる。
問4 ⑴海嶺で形成された直後のプレートは温度が高く密度は低いが海嶺から離れるにしたがって冷却し、密度が高くなる。そのため、アイソスタシーを保つように海底の深さは次第に深くなっていく。
⑵生物起源の海洋底堆積物は有孔虫によるものと放散虫によるものがある。有孔虫などの炭酸カルシウムの殻は、一定の深度を越えると海水に溶けるが、ケイ酸質の放散虫の殻は溶けないで堆積する。
問5 ある大陸の離れた2点で残留磁気のN極の方向を測定し、その方向を延長して交わる点が残留磁気が形成された当時の地磁気の北極を示す。地磁気の北極の位置は、地球上では1箇所であるが、大陸が移動した結果、地磁気の北極の位置は分かれたように見える。異なる大陸で同じ事を調べた場合も同様であるが、地磁気の北極の位置の移動の軌跡が平行あるいは一致している場合は大陸は1ヶ所に集まっていたことを示す。それ以外の場合は大陸が分離していたことを示す。ここをしっかりと理解してほしい。

<地学問題Ⅳ>

主要造岩鉱物の結晶構造とアイソスタシーについての問題である。主要造岩鉱物の結晶構造はSiO4四面体のつながり方で分類される。

  •  かんらん石・・・・独立
  •  輝   石・・・・一重鎖
  •  角 閃 石・・・・二重鎖
  •  黒 雲 母・・・・平面網状

は暗記事項である。主要造岩鉱物のSiO4四面体を結び付けているのは、酸素と金属とのイオン結合である。

問1 大陸地殻、海洋地殻を構成する岩石については暗記しておかねばならない。イオン結合は強固な結合ではないので、結合が切れやすく、それがへき開が生じる原因である。輝石と角閃石のへき開の特徴は暗記しておかねばならない。
問2 一重鎖のつながり方は、SiO4四面体の頂点の酸素のうち2個がとなりの四面体のケイ素に共有されているので、ケイ素1個に対しては0.5個分と考えればよい。したがってケイ素1個に対して酸素3個となる。
問3 黒雲母は平面網状にSiO4四面体が連なっているので、へき開は薄くはがれる特徴を示す。方向性で言えば1方向のへき開である。
問4 ⑴花こう岩質、玄武岩質岩石を構成する主な造岩鉱物は暗記しておかねばならない。斜長石は花こう岩質岩石にも玄武岩質岩石にも含まれる。
⑵固体を液体中に入れると、固体が押しのけた液体の量の重さだけ固体は軽くなるというアルキメデスの原理(浮力の原理)の応用である。ここでは、液体は水であり、水の密度が1g/cm3であることは知っているものとして出題されている。
⑶花こう岩質岩石、玄武岩質岩石それぞれ1cm3を取り出したとして考えれば、石英、カリ長石、斜長石、かんらん石の体積が表1に与えられた数値となる。したがってその数値に与えられた密度をかけて加えれば密度が計算できる。その意味では難しい問題ではない。
⑷アイソスタシーはこの問題では海面から100kmの深さを底面とする等しい底面積の柱の重さが海洋部分と大陸部分で等しいとして計算すればよい。式を立てると、底面積は等式の両辺に現われるから式を立てるにあたって考慮しなくてよい。

入試対策

京大地学の出題は、旧課程入試では受験生が高校地学の内容をしっかりと理解し、論理的に考え、理論的に扱うことが出来るかどうかを問うような出題が主で、後期試験廃止後、その傾向はますます顕著になっている。それに加えて、新課程入試では、旧課程のような地学の分野別の出題から、分野を横断した、考えている対象について思考力を見ようとする出題が目に付いた。この特徴は2018年の出題ではどの大問にも見られた。また、観測結果などからどのようなことが論理的に推定できるかを見ようとする出題が今年は目立った。式を用いて量的な把握をする力を見ようとする従来の特徴に加えて、観測データと物理の知識をベースとしたデータの理解を問う出題が2016年入試から目立ち始めている。今年度では地学問題Ⅲ、地学問題Ⅳに強く見られる。地学問題Ⅲでは、地磁気の北極の移動の軌跡から大陸の移動を推定すること、地学問題Ⅳではアルキメデスの原理の応用や岩石の密度の計算がそれといえる。アルキメデス(浮力)の原理などは中学レベルの知識である。また、地学問題Ⅰでは、恒星までの距離の測定法と等級と光度の関係、さらにケプラーの第3法則を組み合わせることで、恒星の密度が推測できることが出題された。
このような、筋道を立てた理論的な内容を題材として取り上げる京大地学の出題を見ると、単なる暗記で高校地学の内容をつかむ、といった態度で京大にアタックしようとしても簡単に跳ね返されてしまう。そのためには地学全体の考え方の流れをしっかりと考えながら身に付けていくことが望ましい。それには、教科書の本文だけではなく、「参考」、「発展」といった内容まで理解することが要求されていると考えるべきである。京大向けの地学の勉強法などというものはあるはずも無く、地道に一歩ずつ進んでいくほかはない。以上を前提として地学の勉強法を述べてみよう。

<地学の基本的な考え方を理解する>

地学は、身近な自然現象を物理や化学の考え方を用いて理解したり、現在目の前にある事物から過去を科学として推測する教科である。理解や推測にあたってはいろいろな角度からのアプローチがなされる。一つ一つのアプローチによって解明されたことがまとまることによって一つの現象の全体像が解明されるのである。高校地学としては、一つ一つのアプローチから解明への過程を理解することがまず大切である。各アプローチによる解明への過程をそれぞれしっかりと理解しているかどうかは総合化した問題を解くときに明らかとなる。すなわち、受験生の力の差が明確に現れてくるのである。例をあげてみよう。例えば、火成岩の分類は皆よく暗記しているはずであるが、単に「塩基性の火山岩は玄武岩」というような暗記ですますのではなく、SiO2の重量に着目するとどのような特徴が現れてくるかといったところまで踏み込んで考えておくことが大切なのである。

<物理や化学の考え方を理解しておく>

受験の物理や化学の問題を解く力をいっているわけではない。しかし、密度とは何か、圧力とはどのような性質を持っているか、温度とは何かといったことを理解しておくことである。また、中学程度で現れる化学反応式あるいは化学式の意味を理解しておくことも大切である。最初に述べたように、物理や化学の考え方(解き方ではない)を用いて現象を理解しようとするのであるから当然のことである。さらには、物理で導き出された式(2017年度では問題Ⅰの太陽定数の計算)を地学で用いる単位系で使用するためにどのような変形をするのか、あるいは(2017年では問題Ⅰのドップラー効果)観測者と光源の相対的な動きのイメージが理解されているかが表に出ている。また、理論から論理的に推測される結果とそれを裏打ちする観測あるいは測定結果を見つけ出す力も大切である。

<数学の考え方の利用と計算法を身につける>

有効数字の考え方を理解しておくことが大切である。また、地学では扱う数が大きなものから小さなものまで幅が広いので「何桁の数か」ということが問題となる。それを扱う手法として対数があるので、対数の計算法を身につけておくことも必要である。2017年度の地震のエネルギーとマグニチュードの関係での真数値の求め方がそれである。さらに、図形の扱いも必要となってくる。三角比について身につけておくことはもちろん、図形についてのいろいろな定理(高校までで扱うもの)もしっかりとつかんでおくべきである。さらには、数学の「二次方程式の理論」の知識が必要となる出題例も過去にはあった。新課程になって、数学の考え方を地学現象に当てはめて理解するといった力は今まで以上に必要になる可能性が高く、ベクトルや三角関数、数列なども問題によっては必要になってくるのではないか。
付け加えて各分野ごとに力を入れるべき点を箇条書きにしてみよう。

<天文分野>

物理とのつながりを前提にして

  • ① 惑星現象、ケプラーの法則を理解すること。
  • ② 赤経と時刻について均時差を含めて理解しておくこと。
  • ③ 赤緯と南中高度の意味
  • ④ 天体までの距離と等級、明るさの関係
  • ⑤ 恒星の進化についての考え方の流れ、進化の各段階での特徴、恒星としての太陽の特徴
  • ⑥ 銀河と宇宙(ハッブルの法則を含む)

特に⑥については、ドップラー効果との結びつき、膨張宇宙の理解の仕方等も身につけておく必要があろう。

<地質鉱物分野>

  • ① 岩石や鉱物の分類の基本
  • ② 結晶分化作用と火成岩の分類
  • ③ 変成作用の物理・化学的過程
  • ④ プレート運動と造山運動や地史との結びつき
  • ⑤ 地質図の読み方と地質構造(とくに立体的なとらえ方)

<地球物理分野>

  • ① 地球の熱収支、南北熱輸送など地球上でのエネルギーの流れ
  • ② 全地球規模での大気現象、大気・海洋の相互作用、ややローカルな気象現象
  • ③ 地震と地球内部構造、地震とエネルギーの関係
  • ④ 太陽表面現象とその地球への影響
  • ⑤ 地磁気
  • ⑥ 重力と地球の形についての考え方、アイソスタシー

最後に、最近数年の出題から受験にとって必要と思われる特徴をあげてみると、

物理の基礎知識、化学の基本的考え方をつかんでおく
式の立て方を工夫する

というようなことがあげられる。これは、物理の入試問題を解く力、難しい数式を扱うという意味ではない。むしろ、中学のときの方程式の立て方のようなものを工夫することの練習である。この特徴は今後一層重要になると予想される。

2018年度の問題に則していうと、

地学問題Ⅲの磁極移動の軌跡と大陸移動の結びつき
地学問題Ⅳの結晶構造から化学式を考える、アルキメデス(浮力)の原理の利用等があげられる。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より 刊行の『青本』より抜粋。