2018年度入試
出題分析と入試対策
  名古屋大学 小論

過去の出題内容

2018年度

出典 内容
広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』(岩波書店、2001年) 問1.筆者は、「個人のライフサイクルを座標軸とする社会保障」という方向性を踏まえてどのような社会保障制度を目指すべきだと考えているのかを説明する。(200字以内、横書き)
問2.「個人の『機会平等』ということは、"ほうっておけば自然に"実現するものではない。それは相当な社会的対応の結果はじめて実現するものなのだ。」について、筆者がいう「個人の機会の平等」の意味を明確にしたうえで、社会において「個人の機会の平等」が揺らいでいる過去または現在の具体的な事例を挙げ、当該事例において機会の平等の実現のために講じられ、または議論されている社会的対応(社会保障制度に限定する必要はありません)について論じる。ただし、問題文で論じられている相続税および遺伝子技術の問題は除くこととする。
(600字以上800 字以内、横書き)

2017年度

出典 内容
長尾龍一『法哲学入門』(講談社学術文庫2007年) 問1.「君子」と「小人」は、それぞれ、どのような理由から、強制説と反強制説のいずれを支持するか。文章全体の趣旨を踏まえて説明する。(400字以内、横書き)
問2.筆者によれば「マージナル・マン」が社会認識においてなぜ重要なのかを説明し、次に、自分が「マージナル・マン」と評価できると思う過去または現在の人物・出来事を文章中に登場するもの以外から挙げてその理由を述べ、その上で、自分は筆者の意見に対して賛同できるか否かを論じる。
(600字以上800字以内、横書き)

2016年度

出典 内容
石川健治「国家・主権・地域―あるいは言葉の信じられない軽さについて」
(法学教室、2010年)より
問1.「主権国家・非主権国家・自治体」という三元的な国家把握が、どのようにして形成された考え方かを説明する。
(400字以上600字以内、横書き)
問2.日本社会の構造変動と、それに応じた改革・改造を、「地域主権論」によって論じていくことに対する筆者の評価を踏まえ、この問題をどのように論じていくべきかについて自分の考えを述べる。
(600字以上800字以内、横書き)

出題分析

傾向

《制限時間》
90分で定着し、変更はない。

《解答字数》
年度により増減がみられるが、全体では1000~1200字である。18年度は、昨年度の1200字から1000字に減少した。

《資料文の分量》
1500字~7000字程度である。18年度は、昨年度より約200字減少し、6000字程度になった。

《出題形式》
資料文を提示したうえでの設問。設問数は年度によりまちまちであるが、2問~3問である。設問の形式は、要約型説明と自説に分かれる。
要約型説明の設問数は1問~2問である。下線部の内容説明や理由説明、あるいは指定の事柄(下線部なし)の内容説明や理由説明となっており、部分もしくは全体の趣旨を要約するかたちで答える問題である。解答字数は1問につき60字~240字(全体で200字~260字)であった。18年度の設問は、昨年度と同じ1問だけで、解答字数は昨年度の400字から200字に減少した。
自説の設問数は1問で、下線部のある場合とない場合があるが、13年度から16年度まで下線部のない形式が続いていた。下線部の筆者の主張内容の説明もしくはその理由を説明させたうえで、下線部に関連する具体例を挙げさせ、さらに自分の考えを述べさせる形式が多い。18年度は、昨年度と同様に下線部のある形式で、筆者の主張内容の説明、具体例、自説といった内容であった。解答字数は600字~1000字である。18年度は昨年度と同じ800字であった。

《出題テーマおよび出典》
法学部の論文であるから法・人権・政治に関わるテーマは頻出である。現代の日本社会および国際社会における法・人権・政治に関わる諸問題に関するテーマを出題することが多く、出題テーマの内容の多くが社会状況の変化によって生じた問題を見据えたものになっている。また、自説で筆者が論じている問題の具体例を挙げさせることが多いことからも、国際社会や日本社会の政治・経済・社会における諸問題についての受験生の問題意識や、批判的に問題を検討する姿勢を求めているところに名古屋大学法学部の論文試験の大きな特色がある。
たとえば、新自由主義による経済構造の改革は貧富の格差を拡大させたが、こうした問題に対し、「労働者保護」(08年度)や生存権を保障するための最低生活保障を実現する「ベーシックインカム」(13年度)を出題した。その他には、09年度から導入された裁判員制度に対し、「陪審制」の妥当性を問う課題(10年度)を出題したり、情報社会の進展に対し、「著作権・プライバシーの権利・肖像権」の課題(12年度)、旧民主党政権の地域主権概念に基づく地方分権改革の妥当性を問う課題(16年度)を出題したりしている。
以上のように、名古屋大学法学部の論文試験の出題テーマは法・人権・政治に関わる諸問題に関するものが主流であるが、社会科学系のテーマとして、経済の観点からの日本社会の変化に関する問題(07 年度、14年度)も出題されている。
資料文に関しては、07 年度以降の出典を見ればわかるように、以前出題されていた新聞の社説や記事がなくなり、法学、政治学、経済学の各分野ですぐれた業績を上げている学者の理論的著作が採用されている。これはやや高度な専門的文章の読解力・要約力を重視する方針への転換であり、法学部を志望する受験生が専門的文章をどれだけ読みこなし、どれだけ正確に論旨を要約できるかを見るためであろう。
以上が出題テーマと出典の傾向である。以下に07 年度以降のテーマと資料文の出典を挙げておく。

・07年度 産業資本主義からポスト産業資本主義への変化
(資料文 岩井克人『会社はこれからどうなるのか』)
・08年度  労働者保護立法の核心的問題点と労働者保護のためのコンセンサスの形成
(資料文 ロナルド・ムーア『働くということ――グローバル化と労働の新しい意味』)
・09年度 アダム・スミスの「同感(共感)」と異文化共存
(資料文 堂目卓生『アダム・スミス』)
・10年度 現代日本における「陪審制」の妥当性
(資料文 宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』)
・11年度 司法の観点からみた医療過誤
(資料文 佐伯仁志「医療安全に関する刑事司法の現状」)
・12年度 著作権・プライバシーの権利と肖像権
(資料文 福井健策『著作権の世界――変わる「情報独占制度」』)
・13年度 ベーシックインカムの日本への導入
(資料文 宮本太郎『生活保障 排除しない社会へ』)
・14年度 「安心社会」から「信頼社会」への移行
(資料文 山岸俊男・吉開範章『ネット評判社会』)
・15年度 政治学における反証可能性
(資料文 久米郁男『原因を推論する――政治分析方法論のすゝめ』)
・16年度 地域主権論と日本社会の構造変動に対する改革・改造
(資料文 石川健治「国家・主権・地域―あるいは言葉の信じられない軽さについて」)
・17年度 法の本質についての強制説と反強制説
(資料文 長尾龍一『法哲学入門』)
・18年度  個人のライフサイクルを座標軸とする社会保障と個人の機会の平等の実現のための社会的対応
(資料文 広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』)

昨年度が法学(法哲学)の分野からの出題(法の本質についての強制説と反強制説)に対し、18年度は同じ法学の分野からの出題であった。社会保障制度に関する資料文を読み、要約の設問では、「個人のライフサイクルを座標軸とする社会保障」のための社会保障制度に関する筆者の考えを問い、さらに、自説の設問では、「個人の機会の平等」の意味を説明させたうえで、「個人の機会の平等」が揺らいでいる事例を挙げ、個人の機会の平等の実現のための社会的対応を問うものであった。
解答総字数が昨年度の1200字から1000字に減少したことに加え、資料文が法の本質について論じた昨年度の文章よりも具体的かつ平易な内容になり読みやすくなった。さらに、「個人の機会の平等の実現」という出題テーマも昨年度の法の本質に関するテーマよりも身近なものになった。資料文は社会保障を問題にしているが、自説では社会保障に限定しないという緩い制限のおかげで、女性や子ども、障害者、少数民族、被差別部落、LGBTなど差別や抑圧によって個人の機会の平等が損なわれている幅広い事例を取り上げることができ答えやすくなった。

入試対策

*要約型説明問題

要約型説明問題では、課題に関連する箇所を抽出して筋の通った説明になるようにまとめる論理的構成力、文章表現力が求められる。こうした力を日頃から養うために、法・人権・政治に関連する新書程度の本を読み慣れることである。ただし、時事問題を扱った俗受けするようなものではなく、学問的レベルで理論的にきちんと問題を論じているやや難しめのものに挑戦し、法・人権・政治に関する古典的な知識・教養を蓄積するとともに、読んだ内容を章ごとあるいは節ごとに200字程度で要約する練習を積むこと。その際、ポイントをピックアップしてノートに箇条書きしたうえで、ポイントを比較検討して不要なポイントを捨て重要なポイントだけを残し、それらを筋道の通るようにまとめて文章にするようにするとよい。そのうえで、過去問で規定字数に収まるようポイントの取捨選択、表現の工夫など実践力を身につける練習を積み重ねておくこと。
出題テーマを見てもわかるように、自説問題の難易度が高く高得点を取るのは難しい。それだけに、要約型説明問題で高得点を狙えるよう日頃から理論的な文章の読解・要約の練習を欠かさないこと。また、要約型説明問題は、最後の自説を書かせる問題の導入設問となっている。課題に関連する論点をきちんとおさえておくことが自説の内容を構想する鍵となるので、この問題の出来不出来が自説の良し悪しを決めるポイントとなることを肝に銘じておこう。

*自説問題

まず、過去問で設問の要求通りに答案を構成する練習をすること。最後の自説問題は、設問文が長く、設問の要求も複数になっており、年度によって問い方が異なるので、設問の問い方に慣れておかないと、設問の要求にそぐわない的外れな答案を作成することになってしまう。
設問の複数の要求を正確に確認できれば、問われている問題が資料文でどのように論じられているのかをおさえる。その問題に関連する論点、筆者の視点、論拠、結論の方向性などを資料文でチェックし、箇条書きでメモをとる。そのメモをもとに、設問の要求に即した具体例、自分が思いついた具体例の筆者の論理に即した説明、筆者の主張の是非、自説の論拠や結論など、設問の個々の要求(年度によって異なるので注意)について自分の考えを箇条書きにして自説の構想を具体化していく。自説の構想が具体化できれば、個々の内容の論理性、妥当性を再検討し修正を施したうえで、規定字数に収まるよう文章化していく。
その際最も大事なことは、①論述に筋道が通っていること、つまり論旨に一貫性・整合性があること。②枝葉末節を切り落とし論旨をコンパクトにまとめること、そうでないとすぐに字数をオーバーしてしまう。③資料文の断片的な引用・羅列で答案を埋めるようなことをしないこと。④自説の論拠と結論を明確にすること。
以上が自説問題の対策の基本であるが、名古屋大学法学部の論文試験は法・人権・政治に関わる諸問題や経済の観点から見た日本社会の変化などに関するテーマが出題されるのであるから、資料文の論旨の理解、自説の構築には社会科学の知識・教養が要求されるのは言うまでもない。過去問での答案作成の練習をしようにも、社会科学の基本的な知識・教養なしではまともな答案を書くことはできない。法・人権・政治・経済の入門書(新書など)や高校の公民の教科書(「現代社会」「政治・経済」)などで必要な知識・教養の蓄積をするとともに、日本社会や国際社会の政治・経済・社会において生じた時事的な問題を新聞の特集記事などを通して把握しておくことが望ましい。

※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。