2018年度入試
出題分析と入試対策
  九州大学 地学

過去の出題内容

2018年度

番号 項目 内容 形式
〔1〕 地球の歴史 地質時代、生物絶滅、地質図 選択・論述
〔2〕 固体地球 層構造、走時曲線、地球内部の熱 論述
〔3〕 大気と海洋 亜熱帯環流、圧力傾度と海面高度 選択・図示・論述
〔4〕 宇宙の構造 太陽の進化、恒星の寿命
シュテファン・ボルツマンの法則
ウィーンの変位則
穴埋め・計算

2017年度

番号 項目 内容 形式
〔1〕 地球物理 重力の向きとジオイド
横ずれ断層と地震波の初動
選択・論述
〔2〕 地質 新生代の地学現象 穴埋め・論述・選択
〔3〕 地球物理 南北別輸送 選択・図示・論述
〔4〕 地球物理 炭素循環・海水の循環 穴埋め・選択・論述
〔5〕 天文 星の進化
シュテファン・ボルツマンの法則
穴埋め・計算・選択

2016年度

番号 項目 内容 形式
〔1〕 地質 地球環境と生物の歴史 穴埋め・記述・選択
〔2〕 岩石・鉱物 プレートと地質構造、変成作用、絶対年代 選択・記述
〔3〕 地球物理 水蒸気圧とフェーン現象 計算・論述
〔4〕 地球物理 海水温の鉛直分布
水温躍層の形成
選択・記述
〔5〕 天文 ケプラーの法則、太陽系の惑星 選択・計算

出題分析

2018年度の特徴

大問4題に変化したが、出題分野は新課程風に言うと地球史(地質)、固体地球(地球物理)、大気と海洋(地球物理)、天文と変化していない。2017年度と同様に新課程らしい出題である。字数制限には細かな配慮がなされており、地学の教科書に忠実な良い問題の出題、と評価できよう。ただ、教科書に忠実なあまり、出題の文章が教科書そのままというようになっているのはいかがなものであろうか。分量としては、小問の数では、2017年度より減少しているが論述が増加しているので、2017年度とは変化していないと判断できる。難易度は、教科書により忠実になったのでやや易しくなった。とはいえ、一つのテーマに対して、それを取り巻く広い範囲からのアプローチをするのが現在の課程の特徴といえ、それに応じた出題がなされているので、見た目には難しい問題と映るかもしれない。これまでの九大地学の特徴として、物理や化学あるいは数学の基礎知識を問う姿勢がある。この特徴は、次第に表に現れなくなってきていたが、消えたわけではなく、グラフの読みや物理の理解をより強く求める出題に現われている。いくつかあげてみると、〔1〕の問6、問7、〔2〕の問5、〔3〕の問3、問5、〔4〕の問3~問6などがあげられよう。このことから、九大の伝統といえる「理論的な把握を必要とする出題」、「量的な把握を求める出題」、「物理や化学を用いて地学現象を理解する受験生の力」をしっかりと見ようとする九大の姿勢は今も続いている。このような九大の特徴は今後も続くであろう。

内容

〔1〕
大きなテーマは地球の歴史であるが、地球誕生から現在までの時代区分、年代測定法、地球の過去に起こったイベントの証拠については暗記型である。地質図の読み方、地層の上下の判断は理解し、応用できるようにしておかねばならない。地球の環境を大きく変化させる出来事には地球内部に原因があるものと地球外から地球へもたらされる原因とがあり、それぞれを120字で説明させる問題である。〔1〕全体でのウェイトは最後の2問といえよう。海洋無酸素事変は、酸素が存在しないと、酸化鉄ができず、有機物の分解も進まない。巨大隕石衝突は地球には存在しないものが見つかることで推測できる。どちらも大気中の微粒子の増加による熱収支の変化を考えればよい。
〔2〕
地球の層構造の形成(微惑星の集積)と層構造をどのように調べたか(走時曲の折れ曲がり)および地球内部の熱源を問題にしている。地球内部の層構造は大きな地震の走時曲線が折れ曲がることに屈折の法則を当てはめて地殻・マントル・核の層構造が発見された。層構造の形成は微惑星の集積時の熱エネルギーによる原始惑星全体の溶融が原因と考えられ、このときの熱は現在でも地球内部に溜め込まれ、徐々に地表から逃げている。マントルはかんらん岩(苦鉄)質であり、「苦」はMgのことである。熱は高温から低温へ向かって流れることはみな知っているはずである。地殻熱流量が存在することは地球内部がより高温であることを示している。
〔3〕
亜熱帯環流がテーマであるが、流れという見方では「地衡流」である。地衡流は「圧力傾度力=転向力」が成立するときの流れである。圧力傾度力は海面の高いほうから低いほうへ向かって海面の等高線に垂直にかかる。また、亜熱帯環流は海洋の西側で黒潮のような強い流れが生じている。これは「西岸強化」といわれ、北半球でも南半球でも生じる。原因の詳しいことは高校の範囲では難しいが、転向力の緯度による変化である。転向力のかかる向きが北半球と南半球で逆なので、環流は北半球では時計回り、南半球では反時計回りになる。黒潮の流速は時速に換算してみれば答が推測できよう。
〔4〕
恒星の進化についての問題である。恒星は同じ割合(種族によって異なる)の水素を含むので、質量と水素量は比例するのである。一方、光度は核融合で生じたエネルギーが光として表面から出て行くのでエネルギー発生率である。これから、質量/光度が恒星の寿命の目安となる。恒星の単位表面積から放射されるエネルギーが温度の4乗に比例する(シュテファンボルツマンの法則)から表面積をかければ光度が計算できる。この考え方を組み合わせたのがこの問題である。ウィーンの変位則は基本である。

入試対策

2018年度の出題は、2017年度同様、教科書に忠実な出題、といえるが、さらに易しくなった。とはいえ、問題文を読めばすぐに答えがわかる、というようなレベルのことをいっているのではない。教科書の内容を十分に理解し、問題の文章をしっかりと読んで論理的に考えないと答えられない出題がすべての大問に現われているし、地学に出てくるいろいろな操作が行われる意味などについて理解していないと解答できない出題も見られる。そのレベルで見て2017年度よりは易しくなったのである。それは、2017年度の〔4〕の炭素循環の問題や〔5〕の対数の意味をしっかりと理解していることを要求する出題がなくなったことからも理解できよう。しかし、〔1〕の「地球環境の変化」では、地球の熱収支が重要であること、〔2〕では、地球形成時の熱が現在でも地球内部の熱源となっていること、〔3〕では地衡流としての海流の特徴、〔4〕では恒星の進化を量的にどのように捉えるかといったことが見え隠れしている。これらは、九大の特徴であった物理や化学の考え方をしっかりと理解していることや数学の力を要求する出題を新課程にあわせてどのように出題するかという九大の努力の現われ、といったら誉めすぎであろうか。このような点を考えると、まず地学現象を理解する上で必要な物理や化学の知識をしっかりと身につけることが必要であろう。高校理科の目標の一つは「自然科学の方法」を正しく理解することにある。自然科学の方法といっても、質的な理解と量的な理解とがあり、そのどちらにも数学が必要となる。新課程では、量的な理解よりも、最近の研究成果を取り入れて自然現象の示すストーリーの面白さを表に出し、質的な理解にウェイトがおかれている。特に太陽系の歴史がどのように解明されていったのかは新課程の目玉の一つであるから確実につかんでおくことが必要である。しかし、量的な理解もある程度は必要であるから、計算や数値の読み取り、図示というような出題も当然なされる。そのような力を身につけるかが大切となってくる。そのためには、
①考え方をしっかりと把握し、用語を正しく理解、記憶し、さらに適切に用いて現象を理論的に説明する。
②数値を用い、正しく計算を行うことで量的な比較を行う。
ことが大切である。これが高得点を得るための唯一の方法である。それをさらに細かく言えば次のように言える。

◆物理・化学の考え方と数学の力を身につける◆

物理や化学の考え方を用いて現象を解明することが地学の目標の一つである。九州大学の出題においては、この目標に沿う出題が小問として割合よく出題される。しかし、要求される力は物理や化学の入試問題が解ける、というようなものではない(当然、中学の理科はできなければ困るが)。しっかりと概念をつかむことが大切である。内容の項でも述べたが、〔1〕の問6、7では地球表層での現象のエネルギー源は何かが問われている。〔2〕では地球形成時の熱と熱の流れがどのようなものか、〔3〕では地球上の水平循環と転向力、〔4〕では恒星の寿命の考え方やシュテファン・ボルツマンの法則と光度の関係を理解していることが要求されている。2018年度は出題されなかったが、指数や対数の理解(単なる計算ではなく指数や対数を用いることの意味)、電流と磁場の関係、浮力の原理なども理解しておく必要があろう。いずれにしても物理や化学の考え方、数学の力は基礎的なものとして身に付けなければならない。

◆筋道を立てて内容や理論を理解する◆

「物理や化学の考え方」を用いて、教科書や参考書に書かれているストーリーを理解することが重要である。いうまでもないが、ストーリーを丸暗記しても役に立たない。「なぜこのようなストーリーになったか」や「どうしてこのような考え方をするのか」などを常に考えることが大切であり、その積み重ねが地学の考え方の筋道を次第に浮かび上がらせてくれる。これは、太陽系史の中の出来事の起こった理由をつかむことなどに対応する。

◆量の表現方法に注意する◆

地学に限らず、自然科学においては非常に小さな数から大きな数まで幅広く数を扱う。そのような場合には、まず何桁の数かが問題になる。数学の力の項でも述べたがこのような場合に対数を用いた表し方が役に立つ。また、グラフに表した場合、対数目盛のグラフを用いることも多い。そのようなグラフの読み方も注意が必要である。さらに、形の問題を扱うことも多く、図形についての知識、三角比も使えるようにしておく必要がある。

◆その他◆

九大の出題には時折最新のトピックスに関係した出題が見られる。もちろん、高校地学の範囲で答えられるようになってはいるが、テーマに驚かされる場合もあろう。そこで、あまり専門的ではない科学雑誌などに注意を向けておくことをすすめる。いずれにしても、地道に努力することが合格への最短の道であり、教科書の内容をしっかりと理解することが最も大切である。最後になったが、高校教科書の内容をしっかりと理解しておくことは合格作戦を成功させるための前提条件である。なお、課程が変わったので、旧課程の過去問を学んでも役に立たない、と考える受験生も現れるであろうが、地学の内容が異なってしまったわけではない。目の向けどころが変わっただけである。それ故、旧課程の内容を理解することで新課程がよく理解できることは十分考えられる。

※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。