2017年度入試
出題分析と入試対策
  東北大学 物理

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容
1 力学 二つの箱の運動と摩擦
2 電磁気学 一様な電磁場と重力場のある真空中での電荷の運動
3 波動 閉管または開管における音波の共鳴

2016年度

番号 項目 内容
1 力学 斜面をもつ物体と斜面上の小球の運動
2 電磁気学 金属板を挿入した平行平板コンデンサー
3 熱力学 可動壁で仕切られた2部屋の気体の状態変化

2015年度

番号 項目 内容
1 力学 円筒面に沿った小球の運動と衝突、放物運動
2 電磁気学 コンデンサーの充電と電気振動
3 波動 薄膜による光の干渉・屈折

出題分析

分量

例年、大問3題の出題である。試験時間は理科2科目150分であるから、物理に75分を割り当てるとして、1題あたり25分が目安となる。問題文が長く、答案上の記述量も多いので、分量はかなり多めの印象を受ける。

パターン

記述式であり、大問ごとに「結果だけでなく、考え方や計算の過程も記せ」の指示がある。解答用紙は大問1題につきB4サイズ1枚の表裏で、小問ごとに「結果:」の欄と「考え方や計算の過程:」の欄が設けられている。設問の内容は、指定された量を求める、理由の説明、現象の説明、グラフの作成、式の証明、作図など多岐にわたる。証明においては、与えられた式の導出をさせる設問になることが多い。またグラフの作成については、選択肢が準備されることもある。

出題分野・新課程対応

2015年度入試から新課程対応となり、試験範囲は「物理基礎・物理の全範囲」となった。すなわち、2006年度から2014年度までは除かれていた「原子・原子核」の分野も出題範囲に入った。新課程対応入試になってから原子・原子核の出題はまだないが、大問数は3のままなので、今後の出題も2005年度以前と同様で、力学1題、電磁気学1題、および熱、波動、原子・原子核の中から1題となるだろう。なお、2005年度以前においては、前後期とも原子・原子核の分野の出題頻度が高かったことは注目すべきである(前期においては熱の出題頻度が極めて低く、力学と電磁気学以外は波動か原子・原子核のどちらかが出題されていた)。

難易度

やや易からやや難であり、小問ごとの難易の差がはっきりしている。ただし、ひとつの大問における小問の難易度は、大問の後半にいくにつれ上がっていくとは限らない。通常、1題の大問はいくつかのパート(問(1)、問(2)、...)に分かれており、各パートに小問((a)、(b)、...)が配置されるが、各パート前半の小問は標準レベルであることが多く、結果として大問の後半(解答用紙の裏側)にも標準の問題が含まれることもある。

設問内容の特徴

目新しい設定の問題が多いが、標準的な設問内容が中心である。ただし物理的な洞察力、計算力を必要とする手応えのある問題も含まれ、全体としては物理の学力差がはっきり現れる。また1つの大問の中に多くのテーマが盛り込まれることもあり、物理の学力を試したい人には格好の練習問題となり得る。

入試対策

問題文が長めなので、1回読んだだけで題意を漏らさず正確に把握する集中力が必要である。例えば、問題を解き進めるうちに不確かになった与条件を確認するために、長い問題文を読み直すだけでも時間不足の要因になる。
解答すべき分量が多いので、完答しようとは考えず、解ける問を確実にものにする必要がある。ひとつの大問がパート分けされている場合は、大問後半のパートでも、パートの前半の問は解きやすいことが多いので逃さないようにする。
記述式であるので、どんな形式の問題(穴埋め式や選択肢付きの問題など)を解くにせよ、導出過程の記述練習をしておく必要がある。考え方や計算の過程は、日本語まじりの数式羅列ではなく、数式まじりの日本語の文章であるのが理想である。
記述練習においては、丁寧な記述を心掛けると、初めは長くしか書けないかもしれないが、「素早く書けばいい」と割り切って練習するといい。物理がわかってくれば、設問内容に応じて、何を記述し、何を省いていいかがわかってくる。適切で簡潔な記述は、物理の学力の向上があって初めて可能になる。
グラフを描く問題がよくでるので、ある物理量を求めたら、それを何かの関数と見なしてグラフを描く練習をしておく必要がある。
式の導出が要求されることもあるので、いわゆる公式の丸暗記で済ますのではなく、第1原理からの導出練習をしておく必要がある。

身につけておくべきこと

物理法則(第1原理)の使い方を身につけ、自立して問題の解決ができるように訓練しておくべきである。練習問題を解くときは、短時間で解き切る練習だけでは不十分である。学び始めの段階では、それはむしろ後回しにすべきである。必要なのは、それぞれの練習問題において、第1原理に戻って考察を開始し、設問になっていない事柄についても計算しながら、問題研究を十分にすることである。そうすることで物理法則の使い方が身につき、計算する前に物理法則からのストーリーを語れるようになる(物理的な直感が後天的に獲得できる)。
丸暗記した数多くの公式の適用練習を積んでも、目新しい問題に対し、見たことがないから解けない、という子どもじみた事態に陥ってしまう。目新しい問題に出会ったときに、出題意図を汲み取りながら「見たことがないから解いてみよう」と思えるためには、物理法則を使いこなせる大人になっている必要がある。
物理量の次元に関しては常に注意を払う必要がある。式の導出過程の要所で、また計算結果が得られたときに、その式の次元があっているかを確認する習慣をつけること。その際、見た瞬間に次元がわかる、なるべく大きな塊を意識するとよい。

答案の書き方

東北大では平成14年度入試から、入試問題に関する「出題意図」を大学のウェブサイトに期間限定で掲載している(24年度入試については平成24年6月1日から10月31日までの期間で「各種資料」のひとつとして公開された)。その中に「受験生諸君へ」という項目があり、受験生の克服すべき現状が例年だいたい同じように書かれている。特に採点の仕方に関する記述が含まれる平成17年度版を示す。
物理問題は、解答用紙を見てもわかるように、所謂"記述式"を採用しており、各問題には、"結果だけでなく、考え方や計算の過程も記せ"ということわり書きをつけている。実際の採点時には、最終的な正解に到達しない場合であっても、"どの程度理解しているか又はどこまで考えたか"を評価する作業を行っている。評価される為に受験生としては、自分の考えの過程を可能な限り論理的に、又人に理解できるように記述する作業が必要となる。丁寧に書く事は同時に自分の頭の中を整理する助けにもなる。このような記述式のメリットを生かす為には、

1.他人が理解できるように説明/記述する。

2.可能な限り、論理的に文章、式を構成、表現し展開していく。

3.式の羅列は避け、文章による説明を加える。

等が必要不可欠である。
なお答案には、

1.単純な計算間違い

2.単に暗記している公式を記述しているだけで、式の持つ物理的意味や適用条件に対する理解が欠けている

等が非常に多く見受けられる。前者は練習量に依存するかもしれないが、後者は式を"理解"する訓練を怠っている学生が多いことを示していると思われる。
論理的に考えを進める能力と、他人に理解可能な説明ができる能力は、将来自然科学を学んでいく上で重要であり、試験でもこの点の評価を重要視している。
ここに引用した採点に関する考え方は、今後の入試においても適用されると考えておくのがよい。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。