2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 社会科学部 国語

過去の出題内容

2017年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
空欄補充、同意語句、傍線部説明、漢字書き取り 松澤和宏『生成論の探究』
(二) 現古漢融合
(評論)
空欄補充、理由説明、内容説明(文学史)、解釈、文法(識別)、文学史、空欄補充、現代語訳、同義語句選択 藤原克己『菅原道真 詩人の運命』
漢文(問二十):菅原道真『春日故右丞相の旧宅に感ず』

2016年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
書き取り、内容説明、具体例、空欄補充、内容合致 鷲田清一『しんがりの思想 ―反リーダーシップ論―』
(二) 現古漢融合
(評論)
文法(助動詞の識別・敬語の分類)、空欄補充、解釈、内容合致、現代語訳、漢詩知識 三角洋一『古典講読とはずがたり』
漢文(問十六):楊炯『従軍行』

2015年度

番号 科目 内容 出典
(一) 現代文
(評論)
漢字書き取り、空欄補充、脱文補充、文整序、傍線部説明、内容合致 清水真木『感情とは何か―プラトンからアーレントまで』
(二) 現古融合
(評論)
空欄補充、文法(品詞分解・敬意の対象)、現代語訳、理由説明、内容説明、内容一致選択、文学史 竹西寛子「影になったかぐや姫」
古文(引用):『竹取物語』
古文:『源氏物語』(夕顔)

出題分析

2004年度以降、現代文1題と現古融合もしくは現古漢融合1題の形式が続いている。
設問は、全問マークシート式の選択問題となっている。

《現代文》

漢字の書き取り、空欄補充、傍線部説明、理由説明、内容合致など私大入試に頻出する設問形式が多い。ただし脱文(脱段落)挿入、誤記訂正、同意図表現、不要文指摘、文整序など、本文の広い範囲での内容把握や論理展開の把握が求められ、時間が掛かる設問も出題されることがあるので時間配分に注意したい。
2017年度は、社会学部で頻出していた脱文補充問題などがなく、空欄補充問題も減少した。さらには内容合致問題も出題されなかった。その分傍線部説明問題が増え、問題文の丁寧な内容理解が問われた。問題文の分量は昨年とほぼ同様の約3800字、設問数は昨年度の7題から10題と増えたが、漢字が個別に問われたり、選択肢の長さも短いものが多かったりするので、受験生の負担はさほど変わらなかったのではないかと思われる。全体としては標準的な難度であった。

〈融合〉

選択肢から正解をマークさせる形式の出題だけで、出題内容は2004年度以降、融合問題が続いており、そこで扱われる古典の作品は『源氏物語』がかなり多く、あとは日記・和歌・国学など、時代も作品ジャンルも多岐に渡っている。国語は二題出題のうち、一題が融合問題(現古または現古漢)で出題される傾向が今後も続く可能性は非常に高いと思われる。
2017年度は、本文のレベルは若干易化し、文章量も昨年度(約2600字)の約3分の2(約1800字)に減少したが、これは引用される古文の分量が、昨年度の約9550字から、その約3分の1である約330字に減ったことが大きい。設問数は昨年度より1問増えて9問になったが、解答個数そのものは昨年の13個から10個に減った。漢文については、昨年同様実質的には独立問題であり、設問数も昨年度と同じ3問であった。

内容

〈現代文〉

09年度は文学者の随筆、10年度は文化史にかんする専門的な評論、11年度は人類学的認識論、12年度は日本文化論、13年度・15年度は哲学、14年度は現代日本文化論、16年度は社会論、17年度は文学論とかなり多岐にわたっている。それ以前も哲学、文化、文学、歴史など多彩な分野の文章が出題されている。活字印刷の登場により、手書き草稿と活字テクストの二項対立が生じ、そのことで「本文」が特権化し、近代作者の権威が生まれたが、「草稿」に豊饒な可能性があることに注目すべきだ、ということを論じた文章。一般的には活字テクストである「本文」が着目されるのに対して、筆者は逆に倒錯的な場としての「草稿」に着目している。部分的な内容を読み取ることはもちろんのこと、対比関係など文章全体の構造や内容を論理的に把握する読解力が求められている。設問も、本文の内容をきちんと理解していないと選択できないようなものもある。また「二つ以上ある場合は」「あてはまらないもの」「三つ選んで」「適切でないもの」などの設問文の指示にも、注意が必要である。

〈融合〉

13年度は、国文学者の板坂耀子による、江戸時代の紀行文(『おくのほそ道』)についての文章からの出題で、この学部が融合問題で採り上げる出典としては珍しい。しかも、『おくのほそ道』からの引用は一切ない。字数は、引用の古文は大幅に減ったものの、現代文の部分については12年度よりも増えたたため、全体としての字数は若干増えた。また、12年度はなかった漢文の設問が復活した。設問数が12年度より増え(11→12)、解答個数も増えたが(13→15)、これは漢文の出題が事実上独立したことによるもので、現古融合部分に限って言うと解答個数は減った(13→12)。なお、12年度に引き続き、熟語の空欄補充問題が出題された。
14年度は、国文学者の鈴木日出男による、『源氏物語』についての文章からの出題で、この学部に限らず、融合問題で採り上げる出典としては定番である。引用の古文が大幅に増えたが、全体としての字数は13年度と大差ない。設問数は13年度より減ったが(12→8)、解答個数は増えた(12→13)。文学史は13年度に引き続き出題されたが、13年度はあった熟語(二字・四字)の空欄補充問題や内容一致選択問題がなくなった。特記すべきこととしては、13年度1題だけだった古語の空欄補充問題が4題に増えたことである。また、漢文は13年度のような単独の出題ではなく、「古文の設問の一部」となった。設問数も大幅に減り、13年度の3問から1問になっている。設問レベルも接続詞・前置詞といった品詞レベルの文法知識まで必要とした13年度に比べると、標準的な文法知識(句法知識)さえあれば解答できる程度であった。
15年度は、小説家の竹西寛子による『竹取物語』についての文章からの出題。竹西寛子は、早大では2000年度以降は珍しいが、前世紀では現古融合問題での出題頻度が高かった作家である。なお、今回素材となった『竹取物語』そのものは、現古融合問題で採用される出典としての頻度は高くない。現代文中の引用の古文が大幅に減っただけでなく、今年度は古文(『源氏物語』)が独立して現代文と併記されており、厳密な意味での融合問題とは言えない形式になった。今後、このような出題形式になるかどうかは何とも言えない。ほかに特記すべきこととしては、昨年度はなかった内容一致選択問題が復活し、漢文の出題がなくなったことである。
16年度は、国文学者の三角洋一による、『とはずがたり』についての文章からの出題。三角洋一は、現古融合問題での出題は珍しい。漢文の出題は二年ぶりで、しかも、「古文の設問の一部」に過ぎず、設問数が1問であった前回(14年度)と比べ、設問数は3問に増え、実質的には独立問題となっている。また、設問のうち、二つは漢詩についての知識を必要とし、現代語訳問題も応用的な句法知識を必要とするものとなっており、明らかに前回よりも難化した印象である。
17年度は、国文学者の藤原克己による、「菅原道真」についての文章からの出題。藤原克己の文章は、現古融合問題での出題は珍しい。昨年度に続いて漢文が出題され、今年度も、実質的に漢文独立問題であり、すべての設問が単独で解答可能である。また、3問のうち、漢詩についての知識を必要とする設問が昨年度の二つから一つに減った一方、漢詩の形式をたずねるだけであった㈢は、応用的な句法知識と国語的な教養を必要とする同義語句選択問題になった。全体的に見て、昨年度よりも若干難化した印象である。なお、五言律詩が七言律詩になったため、文字数はわずかに増加している。

入試対策

〈現代文〉

まずは基本的な読解力を身につける必要がある。本文の同義関係、対比関係、因果関係などの論理展開を把握する力である。言葉と言葉、文と文、段落と段落の関係がどのようになっているのかをとらえ、論理展開を把握していくのである。脱文(脱段落)補充問題や不要文指摘などは、全体の論理展開を把握していなくては正解を出すことが難しい。空欄補充もまわりの語句との関係だけでなく、広い展開から解答を導くものもある。大きな論理展開をつかんで、それに沿って細部の内容を把握できるようにしておく。設問の多くは全体と部分との関係をもとに作られている。だからこそ全体と部分の関係を把握する練習をしておく。また、語句の意味を理解できていれば正解できる傍線部説明などもあるので、語彙力をつけておくことも必要だ。早大では本文に抽象語が多くある文章が出題されるが、本文には注釈がほとんどなく、選択肢にもそのような語が多く見られるので、現代文重要語句などの強化を図っておくべきである。さらに、さまざまなジャンルの文章が出題されることも特徴なので、入試問題集などで、多くの入試問題に触れておくとよい。ただし、ただ単に設問を解いて終わるのではなく、解答をチェックした後にもう一度文章を読み直し、本文の論理展開を見直してもらいたい。

〈融合〉

早稲田だから、社会科学部だからと、そのための特殊かつ絶対的な学習法が存在するわけではなく、とにかく古文の実力をつけることである。具体的には、古語・語法・文法・和歌・文学史・古文常識など、古文全般にわたり、日頃の学習の充実をはかり、読解力の向上・深化に努めることが何よりも大事である。04年度以降は融合問題での出題が続いているものの、それ以前の4年間は古文だけの出題だったことを踏まえると、来年度も必ず融合問題の形式で出題されるとは断言できないが、可能性は高い。だからといって、いたずらに融合問題を恐れる必要はない。現代文・古文・漢文のそれぞれの学習をきちんとした上で、可能な限り、過去に出題された融合問題を繰り返し解き、形式や文章・ジャンル等に慣れておくべきだろう。なお、参考までに、2001年度~2014年度の出典を掲載しておく。
2001
古文=建部綾足『折々草』
2002
古文=『宇津保物語』
2003
古文=『花鏡』『至花道』
2004
融合=鈴木日出男『源氏物語の文章表現』(引用=『源氏物語』)
2005
融合=大岡信『紀貫之─日本詩人選』(引用=『古今集』仮名序・漢詩・和歌)
2006
融合=大谷雅夫『「もののあはれ」を知る道』(引用=『源氏物語』『紫文要領』)
2007
融合=『無名抄』・馬場あき子『歌説話の世界』
2008
融合=森一郎『源氏物語生成論』(引用=『源氏物語』)
2009
融合=久保田淳『久保田淳著作選集』(引用=『源氏物語』『今物語』『うたたね』)
2010
融合=藤平春男『歌論の研究』(引用=荷田在満『国家八論』「歌源論」、田安宗武『国家八論余言』『歌体約言』『臆説剰言』『歌論』)
2011
融合=吉川幸次郎『本居宣長』(引用=本居宣長『古事記伝』『古事記』『蒙求』)
2012
融合=榎本正純『涙の美学』(引用=『源氏物語』)
2013
融合=板坂耀子『江戸の紀行文』(引用=上田秋成『去年の枝折』、曾先之『十八史略』)
2014
融合=鈴木日出男『源氏物語への道』(引用=『源氏物語』、『詩経』)
毎年ではないが、漢文が出題される可能性は高い。よって、漢文の学習も怠ってはならない。早大の他学部同様、基本的な句法や重要単語、文構造についての学習を積み、返り点・書き下し文・解釈のどれを問われても得点できるようにすることが必要だ。また、漢文で出会う基本単語の読み方や用法を記憶し、基礎的な語彙力を確実なものにするとともに、レベルの高い日本語の文章にも日常的に触れ、国語辞典や漢和辞典、国語便覧などをフルに活用して現代日本語の漢語的語彙力をも高めておくようにしたい。加えて、問題文の構造を正しくとらえ、文脈に応じた幅広い文字解釈を行う習慣も身につけておこう。
なお、年度によっては古典の背景常識(国語的教養)が役立つこともあるので日頃の学習においても興味を持つように心がけよう。また、昨年度や今年度のように漢詩が出題される可能性もあるので、漢詩読解のルールもチェックしておいたほうがよい。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。