2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 社会科学部 政治・経済

過去の出題内容

2017年度

番号 分野 出題内容 形式
政治 国際社会と国際法 選択
政治 地方自治 選択
経済 財政と社会保障 選択
経済 貿易・国際収支と外国為替相場 選択

2016年度

番号 分野 出題内容 形式
政治 日本の安全保障政策 選択
経済 日本のエネルギー政策 選択
経済 資源の効率的配分 選択
経済 マクロ経済・マクロ経済政策 選択

2015年度

番号 分野 出題内容 形式
政治・経済 世界の紛争 選択
政治・経済 女性の社会参加 選択
経済 社会・環境のひずみ 選択
経済 日本の経済統計 選択

出題分析

分量

大問4問、設問総数40問というのが基本パターンである。大問数は2000年度以降、一度も変化したことがない。設問総数も2010年度以降、40問で一定している。60分の試験時間に見合った問題量である。

パターン

出題形式は2010年度から全問が選択(マーク)式になった。2009年度までは記述式と選択式を併用していたが、記述式がなくなった。
各設問は、正誤判定問題が中心である。選択肢の数は基本的に五つで統一されていたが、2016年度から全問が4択問題に変わった。2012年度までと2014年度は、正答を一つ選ぶ設問と二つ選ぶ設問が混ざっていたのに対し、2013年度と2015年度以降は択一式だけになっている。
また、2012~14年度は、小設問がすべて空欄補充問題という大問が1問ずつ出されている。このうち、2012年度はリード文中の空欄を埋める形式だったが、2013、14年度の大問はリード文がなく、小設問だけで構成され、また、全体を通した統一テーマもなく、多くの分野にまたがる雑問となっていた。リード文の付かない大問は2010年度も出題されているが、2013、14年度と違って、設問はすべて労働問題分野から出され、正誤判定問題が中心だった。また、2015、17年度は、リード文を付けない代わりに、経済統計の資料を示した大問、2016年度は政府のパンフレットの抜粋を掲載した大問が出された。
このほか、正誤判定、空欄補充以外では、語句選択問題、文章選択問題、組み合わせ問題、整序問題などが出題されている。2015年度以降、空欄補充問題は出されていない。

難易度

全体として難易度は高い。設問の中心は標準レベルの問題だが、やや細かい知識を問う設問、時事的知識を求める設問、やや難しい理論問題なども多く含まれており、それに加えて、極めて発展的な事項、かなり詳細な知識を要求する問題も出題されているためだ。大半の受験生が学んでいないであろう発展的事項の例としては2013年度のⅠ(4)、2014年度のⅡ問3、問6、2015年度のⅣ問6、2016年度のⅠ問8、問9など、かなり詳細な知識を必要とする問題としては2013年度のⅠ(7)(8)、Ⅳ問2、問10、2014年度のⅠ問3、2015年度のⅡ問6、Ⅲ問2、2016年度のⅠ問2、2017年度のⅡ問10などがある。また、2015年度のⅠ問1、2016年度のⅠ問1のように、政治・経済の学習範囲を逸脱した問題も出されている。2015、16年度は2年連続で最初の設問が政経の学習範囲を逸脱している。その一方で教科書レベルの基本問題もあり、設問によって難易度には大きな開きがある。設問の難易度に傾斜がつくことにより、受験生の実力によって得点差がつきやすい問題になっている。設問の中心はあくまで標準問題であるし、標準レベルを超えた問題でも、全く歯が立たないような難問は少ないので、丁寧な学習を心がけていけば高得点も期待できるだろう。
ところで、本学部の入試では、正解が一つに定まらない問題や正解がない問題、選択肢を二つ選ぶべきところ、該当する選択肢が一つしかない問題が毎年のようにみられていた。とくに2015年度は全40問中、出題ミスと判断せざるを得ない問題が6問にも上り、このほかにも出題ミスが疑われる問題があった。2016、17年度は明らかな出題ミスは見当たらず、改善がみられている。

内容

2000年度以降の大問4問の構成は、「政治分野2問、経済分野2問」が10回、「政治分野1問、経済分野3問」が5回、「政治分野1問、経済分野2問、政治・経済の融合問題1問」が1回、「経済分野2問、政治・経済の融合問題2問」が2回となっており、経済分野のウエートがやや高い。政治・経済の履修範囲から幅広く出題されているが、とくに国際政治、国際経済は頻出であり、2010~15、17年度は、大問4問のうち、1~2問は国際分野を中心とする問題になっている。中でも2014年度は国際経済の設問が大問4問すべてに含まれ、設問総数の約3割を占めており、国際政治と合わせると、設問の約半分が国際分野から出題されていた。国際分野の設問の割合は、2012年度も約半分、2013年度も3割以上に上っている。2015年度は2割強とやや減り、2016年度は1割と少なかったが、2017年度は3割に増え、再びウエートを高めた。

特徴

第一に、最近の時事的動向を踏まえた問題がよく出題されている。2014年度はインフレ目標、量的・質的金融緩和、2012年の経常収支、婚外子相続差別違憲訴訟、2015年度はクロアチアの欧州連合(EU)加盟、婚外子相続差別違憲訴訟(2年連続)、マタハラ訴訟、第2次安倍改造内閣の女性閣僚、2016年度は安全保障関連法、ヘイトスピーチ問題、原発政策、発送電分離、2017年度は女性の再婚禁止期間の短縮、ヘイトスピーチ対策法、パリ協定、イギリスの国民投票などが出され、この傾向が特に顕著だった。2013年度も再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度、環太平洋経済連携協定(TPP)などが問われた。これは早稲田大学の他学部にも共通する傾向である。
第二に、最新の統計データを問う問題が頻出である。2010年度には国債発行残高の対国内総生産(GDP)比、二酸化炭素排出量の上位国、日本の外貨準備高・米国債保有高の国別順位、男性の非正規雇用者の比率、2011年度は日本の政府開発援助(ODA)総額の国別順位、一般会計歳出の構成、合計特殊出生率、2012年度は各国の資本収支、2013年度は資料問題が4問あり、日本のGDPなどの内訳、貿易相手国などが問われた。2015年度は政府債務残高の対GDP比の推移、2016年度はODA総額の対国民総所得(GNI)比、2017年度は一般会計予算の歳入・歳出の内訳が出題された。
第三に、政治・経済上の出来事の年代把握を問う問題が目立つ。2012年度は冷戦終結前後の出来事など年代順を問う問題が3問出され、2013年度は法律の制定順(Ⅲ問2)など、2015年度は判決の年代順(Ⅱ問6)、2016年度は原発事故の発生順(Ⅱ問4)、2017年度は政府の施策の順序(Ⅲ問8)が問われた。このほかにも年代的な知識を求める問題がよく出されている。
また、計算問題については、2002~04年度に毎年出題され、その後は2009年度(2問)と2011年度(1問)だけだったが、2016年度に1問、2017年度は3問も出題された。2009年度のジニ係数の問題は難問、2011年度の信用創造に関する問題は基本レベルで、経済成長率についての2016年度のⅣ問2は、計算自体は簡単だが、経済理論の知識と時事的知識を求めた。2017年度のⅣ問3は為替レートの計算問題、Ⅳ問7・8は需給曲線に絡めた計算問題で、問3、問8はやや難易度が高かった。

入試対策

教科書、参考書をしっかり学習し、基本事項、重要事項を確実にマスターすることが、まず何より大切である。十分な理解に裏打ちされた形で知識を定着させていく必要があるので、用語集は必携であり、資料集も活用したい。参考書、資料集でも取り上げていないような発展的事項やかなり詳細な知識を必要とする問題も出題されるが、その数は限られており、その出来・不出来によって合否が左右されることにはならない。合格ラインに達するポイントは、基本問題、標準問題、得点差のつきやすい「やや難」レベルの問題で、着実に得点することである。中でも設問の多くは基本~標準レベルの問題であり、このレベルの問題では決して失点しないよう、基本事項、必修事項に習熟しなければならない。正誤判定問題では、難しい選択肢が含まれていても、正解の選択肢については標準的な知識があれば正誤判断できるという問題も多い。したがって、まず基本事項、重要事項の徹底を心がけたい。そのうえで、標準レベルを超えた問題でも得点できる実力をつけるため、用語集や資料集を活用して知識に肉付けし、また、教科書の脚注や図表にあるような事項にも知識の幅を広げていくようにしたい。
とくに統計数値を問う問題がよく出るので、この面では資料集を十分活用したい。財政、金融、農業問題、エネルギー問題、労働問題、社会保障、貿易、国際収支、ODAをはじめとして、経済分野では、教科書、参考書に出ている重要事項について資料集などで最新データを確認するようにしたらいいだろう。
さらに、憲法の条文番号をストレートに問う問題(2009年度など)や、法律を制定した年(国連平和維持活動(PKO)協力法=2006年度出題)、条約を批准した年(子どもの権利条約=2006年度、女性差別撤廃条約=2014年度)、経済上の出来事が起こった年(ニクソン・ショック、日本の変動為替相場制への移行、世界貿易機関(WTO)発足=以上、2010年度)などを問う問題も出されているので、こうした事項を丁寧に覚える学習を心がければ、より高得点を狙えるだろう。2008年度に「1960年代前半に起きた日本の出来事」「ロシア革命が起こった年より以前の世界の出来事」を問う問題、2010年度は「冷戦期の出来事の年代順」、2013年度には「国連貿易開発会議(UNCTAD)の設立より新しい出来事」を問う問題が出されるなど、年代的知識を重視する傾向がうかがえるので、要注意である。
時事問題についても十分な対策を講じる必要がある。これについては、日ごろから新聞を読む習慣をつけ、社会の動向に問題意識をもつことが大切である。前年までの動向については資料集などである程度補うことができるが、最新の動向に関しては、新聞の特集記事や用語解説、社説なども活用しながら、政経の履修事項に関係する新しい法律、条約、判決、制度、政策や出来事を整理していくようにするといい。2011年度入試でイスラムについて出題されたが、その入試当日の朝日新聞朝刊に、正解となる選択肢の内容そのものを解説した記事が、カラーグラフ入りで掲載されていた。こうした「即時効果」は滅多にないことであるし、また、それを期待するものでもないが、新聞を日々読んでいくうちに時事的知識が自然と蓄えられ、政治・経済の学習に対する理解も深まっていくのである。
政経の学習範囲から幅広く出題されているので全範囲をカバーする必要があるが、頻出分野である国際政治、国際経済については、とくに力を入れて学習したい。中でも多国籍企業によるグローバルな事業展開、それに伴う国際資本移動は大問のテーマに頻繁に取り上げられており、今後も注意を要する。経済のグローバル化という大きな流れを見据えながら、多国籍企業、直接投資、国際収支、さらに合併・買収(M&A)、コーポレート・ガバナンス(企業統治)などの企業経営についても理解を深めてほしい。
習得した知識を得点力に結びつけるためには、過去問を中心に問題演習をこなすことが必要である。難度の高い計算問題が出題されたこともあるので、問題演習を通じて解法を身につけたい。2013年度のⅣ問6、問9、2014年度のⅡ問10、Ⅲ問7(2)(3)、2015年度のⅣ問2、2016年度のⅣ問3、2017年度のⅣ問1、問2などのように思考力、考察力、リード文の読解力、資料の分析力を問う問題も出されているので、こうした問題に慣れるためにも問題演習は不可欠である。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。