2017年度入試
出題分析と入試対策
  慶應義塾大学 経済学部 世界史

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容 形式
ロシア革命とソヴィエト社会主義共和国連邦 帝政ロシアの改革にはじまり、スターリン体制に至るロシア、ソ連の歴史を概観する問題。2016年はプーチン来日で日露関係、特に領土問題の進展が期待された年だった。
問2の論述「ウィーン体制の成立から崩壊まで(4行)」は基本的だが書くべきことが多く、何を取捨選択するかが問われる。
問3(3)「国別の工業生産割合」のグラフ問題は、2011年にも同じ出典で出題されている。センター試験でも出題されたことがある基本問題だ。金融立国に転換した英仏が製品輸出国の地位を失うこと、世界恐慌の影響とソ連の五カ年計画を読み取れるか。
問5(1)の史料問題はバクーニンの最晩年の著作(『国家と無政府』)。ステンカ=ラーシジンとプガチョフの反乱を例に、農民蜂起の可能性を説いた。(3)の論述は「ロシア農奴解放令の問題点(2行)」。
問6(3)の論述は「シオニズムとは何か(1行)」、語句説明の基本問題。
問7の史料問題 b「四月テーゼ」、a「平和に関する布告」、c「ウィルソンの十四カ条」も基本。
問11ザカフカスの場所を問う地図問題。カフカス地方は黒海とカスピ海の間である。
問13の論述「カンボジア内戦の経緯(3行)」は、冬期講習の「周辺地域史近現代」受講者であればポル=ポト、ヘン=サムリンなどの単語が出てくるだろうが、三つ巴の内戦を3行でまとめるのは至難の技である。
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論述
グラフ
地図
16世紀以降の東アジアの国際秩序 明・清(前近代)からの出題はわずかで、ほとんどがアヘン戦争以降の近代東アジア史からの問題。
問15の論述は「理藩院の役割(1行)」。
問16のアジア貿易の地図は、2008年にも出題された。
問17の史料問題はb「南京条約」c「天津条約」a「北京条約」は、史料問題として頻出。天津条約と北京条約の内容の違いを、史料で確認しておこう。近代中国の都市を問う地図問題は2010年にも出題された。なお「a~cの条約中の(A)~(C)に入る地名」を地図上で選べ、という問題形式は紛らわしい。(イ)~(ハ)などの表記にすべきだろう。
問18の史料問題はジョン=ヘイ国務長官の書簡。
問19の論述「辛亥革命勃発から清朝滅亡まで(2行)」は、孫文と袁世凱の動きをまとめる。
問20(2)の論述「満州事変から第2次国共合作まで(4行)」は、本学部頻出の中国共産党史である。2010年にも同じテーマで出題されている。
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論述
地図

2016年度

番号 項目 内容 形式
中東地域の歴史
(オスマン帝国~20世紀)
2015年はイスラーム過激派集団IS(Islamic State)のテロが世界を震撼させ、米国オバマ政権がISと戦うイランに接近して経済制裁を解除した。これらの動きを反映した問題。
問3はオスマン海軍の軍艦エルトゥールル号遭難事件(『海難1890』として映画化)を題材としたアジア近代史。
問6の史料問題は、イスラエル建国宣言、スエズ戦争時の国連総会決議、第3次中東戦争時の国連安保理決議、エジプト= イスラエル平和条約、オスロ合意を読み解き、年表にあてはめる良問。
問7のグラフ問題は、20世紀前半米国の原油・乗用車・ビールの生産指数から、恐慌期と第二次大戦期の経済動向を読み解き、「解答を導いた理由」を説明する。
問9は日本のイラク、イランからの原油輸入量の変化から、イラン革命と湾岸戦争を読み解く。
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論述
グラフ
地図
北欧諸国の歴史
(中世後半~20世紀)
問11の論述「ドイツ農民戦争とルター」は本学部で好まれるテーマ。
問12の論述「三十年戦争とウェストファリア条約」は定番だが、スウェーデンの立場から書く必要がある。
問15北欧現代史は盲点。フィンランドはソ連に侵略された(冬戦争)ため、独ソ戦を利用して失地回復を図るが、戦後は敗戦国扱いとなり、冷戦中はソ連寄りの中立政策を維持した。
問17環境問題については、72年ストックホルムの国連人間環境会議、92年リオデジャネイロの地球サミット、97年京都会議(COP3)の京都議定書、この3つの内容をおさえれば十分だろう。
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論述
地図

2015年度

番号 項目 内容 形式
大航海時代以後の移民、植民地戦争、奴隷制 問3(1)のグラフ・論述問題は秀逸。アイルランドのジャガイモ飢饉、ドイツ統一、普仏戦争後の最初の恐慌まで読み取れる。(3)「ベルリン会議で決定したアフリカ分割の原則」を問う論述は、2011年慶大・経済、2009年慶大・商でも全く同じ形で出題されている。
問4(2)はフロリダ領有権の変遷を問う。米・スペイン間のアダムズ・オニス条約(1819)は教科書のレベルを超えるが、モンロー政権によるフロリダ買収を想起すればよい。米西戦争で得たのはフィリピン、キューバ。フロリダではない。
問5は米国の黒人解放に関する史料問題。ミズーリ協定で定めた奴隷州と自由州の境界を撤廃したのがカンザス・ネブラスカ法。奴隷制導入を各(準)州の決定に任せたため、カンザスでは南北両派の対立が激化し、南北戦争につながった。
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グラフ
論述
大航海時代以降のアジア貿易とアジア・アフリカの独立運動 問6のインド産綿布(キャラコ)禁止令は、地主=毛織物業者の要求で制定されたが効果は薄かった。三角貿易でも需要が拡大したインド産綿布に対抗するには、英国内で綿布を生産するしかなく、産業革命につながった。
問7(3)「16世紀半ば~17世紀初頭の日本と明との貿易」に関する論述。勘合貿易が断絶して後期倭寇の全盛期を迎え、海禁が弛緩して福建の鄭氏が活動した時代について説明する。鄭成功の台湾移住は17世紀後半なので加点されない。(4)地図中αは江西省の景徳鎮。βは佐賀県の有田。ともに磁器の大産地。康熙帝の遷界令で景徳鎮からの輸出が途絶えると、有田焼(積み出し港の名から伊万里焼ともいう)が欧州へ大量に輸出された。
問8はインド産綿花の輸出額のグラフから、1860年代の国際的な綿花需要の拡大の要因──南北戦争を答えさせる良問。
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論述
グラフ
地図
森林資源の歴史をテーマとする複合問題 問12の(2)アウクスブルク和議の内容を問う論述は定番。慶大・経済は宗教改革・宗教戦争を好む。2004年、2006年、2008年にも正誤問題として出題されている。(3)アンリ4世の「行動」は、旧教改宗→ナントの王令。
問13 a.アンボイナ事件(1623)とケープ植民地建設(1652)の前後関係の判別はやや難。
問15はシュトレーゼマンの経済・外交政策を問う論述。レンテンマルク発行によるインフレ収束、ドーズ案、ロカルノ条約の3点を抑えればよい。ドイツ賠償問題とドーズ案は、2014年にもヴェルサイユ賠償環の図(独→英仏→米)として出題されている。
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論述

出題分析

分量とパターン

慶應義塾大学の名にふさわしい良問。史料、地図、グラフと問題形式はさまざまで、知識とともに思考力を問う大学入試問題のお手本のような出題である。
問題量は2013年以降、40~50問と安定している。受験生に対して、グラフ問題や論述問題をじっくり考える時間が与えられていることを歓迎したい。
問題形式別では、小論述が7問(昨年比+-0)、正誤文判定が4問(-1)、年代順の並び替えが4問(+2)、年表に事項を当てはめる問題が4項目(-1)、語句の記述が8項目(-4)、他は語句の記号選択である。
今年の小論述は7問で、500~550字程度の論述問題となる。これは、東大の第1問とほぼ同じ分量だ。訓練を積んだ受験生でも最低30分はかかるだろう。残りの50分で他の問題をこなす必要があり、時間配分に工夫が必要だ。解答用紙にはマス目がなく、1行が17cmの枠という設定になっている。解答例は、1行30字~40字で作成した。早慶大各学部の中でも小論述の比重が高く、国公立大型に近い問題形式になっている。

出題分野

近現代史の重視が、慶大経済学部の際立った特徴である。古代・中世の歴史については数問しか出題されない。地域・時代別内訳を見てみよう。16世紀以降の近現代史が49問(94%)で大半を占めたのは例年通り。そのうち、欧米近現代史が32問62%(昨年度9問21%)と激増した。アジア近現代史が16問(31%)で昨年並。第二次世界大戦後史は1問2%(昨年度15問35%)で激減した。古代中世からの出題は数問にとどまる。
例年、受験生を悩ませている現代史のグラフ問題だが、本年度は1870年代~1930年代の主要国の国別工業生産割合の折れ線グラフから、国名を選ぶというシンプルな問題。過去問から、戦後国際経済史のグラフ問題を予測した受験生にとっては肩透かしの印象があっただろう。
史料問題は、ロシア革命関連で「四月テーゼ」「平和に関する布告」「十四カ条」。アヘン・アロー戦争関連で「南京条約」「天津条約」「北京条約」。義和団事件に関連して「ジョン=ヘイ国務長官の書簡」。史料読解能力と知識との両方を問う素晴らしい問題である。本年度は出題されていないが、立憲主義の確立(大憲章、米独立宣言など)や啓蒙思想家(ロック、モンテスキューなど)の著作を扱う史料問題が繰り返し出題されてきたので、今後も注意しておくこと。
小論述のテーマは、「ウィーン体制の成立から崩壊まで」(4行)、「ロシア農奴解放令の問題点」(2行)、「シオニズムとは何か」(1行)、「カンボジア内戦の経緯」(3行)、「理藩院の役割」(1行)、「辛亥革命勃発から清朝滅亡まで」(2行)、「満州事変から第2次国共合作まで」(4行)。「カンボジア内戦の経緯」は本年、唯一の戦後史からの出題で難問である。「満州事変から第2次国共合作まで」(4行)は、本学部定番の中国共産党がらみの問題。

難易度

早慶入試に多い難問奇問がほとんどないという意味では「易しい」が、史料や地図、統計グラフから意味を読み解き、論じなければならないという意味では極めて「難しい」。私大に多い「暗記型」ではなく「思考型」の入試問題であり、むしろ国公立大学の2次試験に近い。国公立大学と併願する受験生には取り組みやすいとも言えよう。瑣末な知識の詰め込み能力ではなく、思考力や分析力、表現力を持つ学生を集めたいという経済学部の方針は明確である。出題傾向の多角化は慶大法学部などにも広がりつつあり、歓迎したい。

入試対策(合格への学習対策)

「宗教改革」、「米国の黒人問題」、「アフリカ分割」、「近代日中関係史」、「世界恐慌」、「パレスチナ問題」、「ドル危機」、「石油危機」、「核軍縮」、「プラザ合意」など同一テーマが繰り返し出題される。一にも過去問、二にも過去問、三にも過去問をやること。
小論述も関連するテーマが繰り返し出題される。
「ドイツ農民戦争に対するルターの対応」(2016)←「ルターのドイツ農民戦争」(2013)
「ロシア農奴解放令」(2017)←「クリミア戦争」(2009)
「恐慌期、米国の失業対策」(2016)←「米国の恐慌対策」(2011)
「満州事変から第2次国共合作まで」(2017)←「満州事変の経過と国際社会」(2014)
「○○法」、「○○事件」、「○○条約」などの歴史用語を2~3行(約60~90字)で説明する練習を、普段からしておくとよい。要は、一問一答の逆をやればよい。答えを見て問題を考える作業だ。
年表に事件を当てはめる形式が好まれる。単なる年号の暗記では対応しきれない。事件と事件との因果関係を正確に理解し、歴史をストーリーとして頭に入れておくとよい。
大航海時代以後の欧米近現代史、アヘン戦争以後のアジア近現代史を重点的にやる。戦後史は冷戦終結後、直近の事件まで理解しておく。受験前年の夏ごろまでに起こった国際ニュースに注意。
経済指標のグラフ、これと絡めた論述問題も出される。「世界史」と「政治経済」との交差領域だが、経済学部を志望する学生には、これくらいの能力が要求されるだろう。
古代と中世の出題はほとんどないが、2012年まではセンター試験レベルの文化史(思想史)が出題されていた。教科書レベルの写真(建築・美術)も押さえておけば万全だ。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。