2017年度入試
出題分析と入試対策
  慶應義塾大学 理工学部 化学

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容
1 無機 (1)ラドン222Rnの壊変速度と速度定数、222Rnから210Pbへのα壊変とβ壊変
(2)生成熱、結合エネルギーなどの熱データから各種の反応熱算出とそれらを利用した熱量計算、混合気体燃焼時の発熱量から平均分子量決定および水の発生量計算
2 無機 (1)H2Sの性質と反応、H2Sの電離平衡とHおよびS2-濃度、ZnSの溶解度積
(2)リン酸型水素-酸素燃料電池において、水素ガス消費時に得られる電気エネルギーと水素の燃焼熱に対する変換率、白金電極による硝酸銀水溶液の電気分解
3 有機 (1)分子式がC14H18O3で表されるベンゼン二置換体の加水分解生成物の構造推定、構造異性体と光学異性体
(2)フェノールと臭素の置換反応、o-キシレンの酸化、プロペンの酸化、グルコースのアルコール発酵それぞれにおける量的関係

2016年度

番号 項目 内容
1 無機 (1)CO2の溶解度、強酸が溶けている雨水中におけるH2CO3の電離度
(2)NH4NO3の溶解熱と水溶液の凝固点降下
(3)MgOの結晶格子、Mg2+のイオン半径、充填率
2 無機 (1)オストワルト法、N2O5分解反応の反応速度式と反応速度定数
(2)CuSO4水溶液とNaCl水溶液の並列回路による電気分解、電極反応生成物と析出量、電気分解後の水溶液のpH
3 有機 (1)アセチレンの発生法およびその反応、アクリル酸メチルから合成される吸水性ポリマー
(2)芳香族化合物の構造推定、オゾン分解、ガラクトースとフェノール性ヒドロキシ基がグリコシド結合した化合物の構造推定、フェノール類のホルムアルデヒドへの付加によるメチロール化

2015年度

番号 項目 内容
1 無機 (1)ボーキサイトからアルミニウムの製造、酸化アルミニウムの融解塩電解に伴う気体発生と流れた電気量
(2)KMnO4とNa2C2O4の酸化還元滴定、河川水の化学的酸素要求量(COD)
2 無機 (1)実在気体の理想気体からのずれ、ドライアイスの密度
(2)銅の面心立方格子と配位数、銅と亜鉛からなる合金と単位格子、合金中の銅含有量
3 有機 (1)2種類の脂肪酸からなる油脂の構造推定と異性体
(2)トリペプチドの構造推定、タンパク質の構造と性質

出題分析

分量

例年大問が3題出題される。大問はそれぞれ分野や内容が異なる2つまたは3つの小問からなっているため、実質的には6、7題とみなすこともできる。無機化学分野において思考力を試される計算問題が増加するだけでなく、有機化学分野においてかなり高度な知識や推定力を要する設問が含まれるようになっている。大問1.、2.中の計算問題における数値は有効数字3桁の場合が多く、計算にかなりの時間を要するため計算方法によっては時間不足におちいる可能性がある。

パターン

大問3題中2題は1.、2.のように分野が異なる2つまたは3つの小問からなり、それぞれ計算問題をからめた無機化学分野全般から出題される。残り1題は有機化学分野からの出題で、(1)脂肪族化合物と芳香族化合物、(2)天然および合成高分子化合物、のようになっていることが多い。本年度は、(1)脂肪族化合物と芳香族化合物だけか らの出題となったがこれは例外と考えたほうがよい。出題形式としては、語句、計算した数値、構造式、化学反応式などを書かせる記入式で、選択式の設問は見られない。字数制限のある記述式問題が出題される可能性はほとんどないであろう。

内容

ここ数年高レベルの知識や緻密で高度な推定力を必要とする設問が増加する傾向を示していたが、本年度は例外的にやや易化したように思われる。計算問題は多くの場合数値が工夫されているが、面倒な数値計算を要する設問が含まれていることも多い。高度な思考問題や複雑な計算過程を含む設問が出題されることがあるとしても大部分は標準的な問題であるから、難問に備えるための特別な勉強は必要ないであろう。前問の答を後の問題に必要とするような連動型の計算問題が増加しており、計算ミスを防ぐべく慎重な取り組みが必要である。また、有機化学分野では受験生にはなじみのない化合物や反応が一部含まれていることもあるが、その他の知識問題や計算問題は標準的なレベルでの出題となっており、問題文中にヒントが含まれていることも多いので、それを的確に読みとって応用することが重要である。

入試対策

知識型の穴埋め部分で高得点をかせぐ

例年1.、2.では無機化学のいろいろな分野にわたる知識・計算問題が出題される。年度により、特定の元素について単体やいろいろな化合物の知識を問う設問に絡めて計算問題を挿入する形式となる場合と、テーマを絞った思考型の計算問題の間に知識を試す設問を挿入する形式になる場合がある。
まず、電子配置、周期律、電気陰性度、単体と化合物の性質や反応などに関する知識を確固たるものにしておくことが必要である。計算問題では気体の法則、混合気体、蒸気圧、結晶格子、希薄溶液の性質、酸塩基反応、酸化還元反応、質量作用の法則、電離定数などについての出題率が高いので、これらの原理を理解した上で計算問題への応用力および推定力を確立しておくことが望ましい。部分的に難問を含むこともあるが、1.、2.の小問中の設問のほとんどは標準レベルの問題であるから、ここで高得点を確保しておかなければ合格はおぼつかない。

有機化学の知識を正確にする

3.は有機化学に関する応用問題となっている。ほとんどは標準的な問題であるが、本年度(1)のp-ベンゼン二置換体の構造推定のようにややレベルの高い推定力を必要とする思考型の設問が含まれることが多い。脂肪族化合物および芳香族化合物の性質、合成およびそれらの誘導体に関する基本的な知識をまず完璧に仕上げておくことが必要である。また、ヨードホルム反応、オゾン分解、塩化鉄(Ⅲ)水溶液による呈色、フェーリング反応のような構造推定の決め手となるような検出反応もきちんと理解しておくことが望ましい。加水分解に関する出題率が高いので、多価アルコール、多官能基化合物のエステルやアミドの合成および加水分解に十分習熟しておかなければならない。化合物の構造異性体と立体異性体に関する知識と応用は必須である。
天然および合成高分子化合物からの出題は基礎的な知識問題として出題されることが多いが、やや高度な思考型の計算問題が出題されたこともあるので、過去問を何題か経験しておくと有利である。
かなり高度な知識や反応を必要とする問題が今後も出題される可能性が高い。そういった場合、あわてることなく与えられた問題文の条件やデータをもとに冷静に推定していけば必ず解答を得ることができるようになっている。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。