2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 法学部 国語

過去の出題内容

2017年度

番号 科目 類別 内容 出典
古文 歌論 傍線部解釈、空欄補充、傍線部の対比表現、内容合致 鴨長明『無明抄』
漢文 論説 解釈、語彙、返り点、書き下し、内容合致 王充『論衡』
現代文 評論 漢字書き取り、空欄補充、傍線部説明、 理由説明 木田元・須田朗
『基礎講座 哲学』
現代文 評論 傍線部説明、論旨把握、空欄補充、記述説明(趣旨説明(120~180字)) 西谷修『離脱と移動』

2016年度

番号 科目 類別 内容 出典
古文 物語 傍線部解釈、会話主判定、空欄補充、主体判定、敬意の対象、内容合致 紫式部『源氏物語』
漢文 説話 理由説明、語彙、書き下し、対比 『論語集註』
現代文 評論 漢字書き取り、空欄補充、傍線部説明 荻野昌弘
『開発空間の暴力 いじめ自殺を生む風景』
現代文 評論 傍線部説明、記述説明(具体例を自分で挙げる趣旨説明(120~180字)) 貫成人
『哲学で何をするのか 文化と私の「現実」から』

2015年度

番号 科目 類別 内容 出典
古文
(古漢融合)
説話 傍線部解釈、傍線部の内容判断、抜き出し、空欄補充、主体判定、内容合致 藤原実兼『江談抄』
漢詩 〈漢文〉解釈、語意、押韻、返り点と解釈 〈漢文〉
白居易「春江」
現代文 評論 漢字書き取り、空欄補充、傍線部説明、理由説明 佐藤卓己
『「キング」の時代― 国民大衆雑誌の公共性』
現代文 評論 傍線部説明、理由説明、記述説明(趣旨説明(100~130字)) 港道隆
『レヴィナス法―外な思想』

出題分析

分量

1986年度以降は現代文2、古典1の形式が続いていた(1989年度・91年度・93年度・94年度・96年度・97年度は現代文2、現古融合1)が、2016・2017年度は現代文2、古文1、漢文1となった。2017年度は、現代文は増加、古文は減少、漢文はわずかに増加した。漢文は古文との融合問題で出題されることが多かったが、昨年に続けて独立した出題となり、それにふさわしいまとまった文章を使った本格的な出題となっている。

パターン

語・語句・文の空欄補充、脱文補充、傍線部説明、論理構造の把握、趣旨判定など、私大入試に頻出する設問形式が網羅されている感がある。選択式が中心であるが、早大他学部には見られない特徴として、100字を超える字数で傍線部説明・要約・本文の論旨の把握を前提とした条件作文などを要求する記述・論述設問が89年度以降毎年出題されているのが目を引く。

難易度

<現代文>
2017年度は、昨年並み。問題文は、分量的には合計約9000字で昨年度より約1000字増加したが、内容・難易度ともに法学部としてはきわめて標準的なものだった。設問は、選択肢に昨年同様かなりまぎらわしいものがあり、記述字数も昨年同様180字。したがって、全体としては昨年並みというところである。
<古文>
2017年度は、本文の字数(約670字)は2016年度(約1320字)と比べてほぼ半減し、本文のレベルも易化している。昨年と同様、本文中に和歌は含まれていなかったが、細かな語句の解釈や文脈の把握にわかりづらい部分もあった。設問数、解答数はともに昨年と全く同じで8つ。昨年と同様記述の出題が今年もなかった。全体の設問の傾向も昨年と同様読解を中心としたものだった。
<漢文>
通常は美談として語られる戦国時代の故事に筆者が批判を加えた論説的文章で、筆者がいかに批判しているのかを読み取ることが要求された。問題文はやや難度が高いが、詳しいリード文が付されているので、これを確認して筆者の主張の概要を把握してから読み進めれば読解することができる。

特徴

<現代文>
問題文は、語彙・内容とも高度に抽象的であり、かつ1題4000字前後の難文・長文が主である。分野は哲学・文学から法学などの社会科学系まで多岐にわたり、また最新の問題意識に基づく現代的なテーマのものが多いので、常識にとらわれず文章それ自体の論旨を正確に読み取る本物の読解力が要求される。また対比関係を軸にした文章がしばしば出題され、その論理構造の把握が設問化されることも多い。設問は、難度の高い選択式設問を中心に、130~180字程度の記述式が付される形式が定着している。年度によって多少の変化はあるが、大問の最後に本文の主旨やキーワードに関わる形で(すなわち読解の核心を問う意図で)記述式が置かれる形であることに変わりはなく、今後も同形式の出題が続くと思われる。
<古文>
選択肢から正解をマークする形式の出題が中心だが、正解を原文から抜き出させるものや、少ない字数で記述させる場合もある。文章は年によってレベル差があるが、難しいものでも、設問は受験生の学力を判断するのにふさわしい標準的なものが多い。今後もこの傾向は継承されると思われる。
<漢文>
前述したように今年度は昨年度に続いて古文とは独立した設問となっているが、例年は古文との融合問題として、古文中に出現する故事・成語にまつわる文章や詩が出題されることが多い。しかしこれまでも決して古文の添え物ではない本格的な出題であることが常で、漢文の読解力を広く問う設問が出題されており、今年度も語彙や書き下しだけでなく、筆者の主張の説明など、漢文の読解力が問われている。

内容

<現代文>
2013年度は、二は早大(文)(政経)で出題歴のある著者の文章で、〈福祉社会=管理社会〉という論点は前年度の三と重なるもの。三も早大(法)(文)で出題歴のある著者の社会論で、〈国家(民族)とアイデンティティ〉という問題系は前年度の二と共通であり、戦争犯罪や差別・不可視の権力関係といったテーマが頻出した2005年までの出題への回帰が見られる。本文は相応に手ごわいが、設問は前年に続き標準的なものが多く、読解力がそのまま得点に反映する出題。
2014年度は、二は震災後のジャーナリズムのあり方を論じた文章で、ケア=他者との関係性を重視する論点は2012年の三に通ずるもの。三は2014年度の早大(政経)と同一出典で、他者との応答の意義というテーマは2013年の三に通じ、政治・社会に関するアクチュアルなテーマを扱う硬質な論説文である点で、2005年までの出題への回帰が続いていると言える。二が前年より読みやすくなった分全体としては易化。設問は傍線部説明の長い選択肢中心で、例年通りの形式である。
2015年度は、二は戦前の日本の大衆文化について〈新しいメディアによる知性や言説の劣化とファシズム〉という観点から論じたもの。三は第二次大戦の悲惨を思想的基盤としたユダヤ人の哲学者であるレヴィナスを論じたもので、非常に硬質な文章ではあるが、他者への応答の不可避性を論じた2013年の三などが頭に入っていれば読解の助けになったであろう。設問は、二は読解力が的確に反映されるものであったが、三は問題文の難度の高さのため相当に手ごわかった。二で取りこぼしをせず確実に得点しておきたかったところである。
2016年度は、三は消費社会化する現代における学校のあり方と暴力(いじめ)との関連性を論じた文章。〈無自覚な暴力性〉は早大(法)で繰り返し出題されているテーマである。四は、認識や知覚の根拠となる世界像自体は無根拠であることと、「悪」や「逸脱」が秩序を形成し発展させることを述べた文章で、逆説的な論旨を読み解けるかどうかがポイント。設問は、三は標準的な難易度、四は選択肢にかなりまぎらわしいものがあり、〈取れるものを確実に取る〉意識で設問の見極めができたかどうかが重要であった。記述説明の字数は昨年度まで五年続いた130字から180字に増加(2005年の160字以来の量)。〈具体例を考えよ〉という設問要求は2006年以来である。
2017年度は、三は画一化・全体化した大衆社会が異質な他者の排除に走る危険性を説き、個としての自覚に根差す関係性の大切さを述べた文章。現代社会の状況に通じるテーマを哲学的・思想的な視点から論じる文章で、法学部頻出のタイプである。四は、世界の流動化が進む中で、アイデンティティの多様化や複合化に新たな可能性を見いだそうとする文章。ナショナリズムへの回帰を危惧し批判している点でやはり昨今の社会情勢を踏まえた出題であり、テーマ的にも法学部頻出のもの。設問は、全体として標準的だが、三・四ともに一~二問かなりまぎらわしいものがあり、〈取れるものを確実に取る〉意識で設問の見極めができたかどうかも重要であった。記述説明の字数は一昨年まで五年続いた130字から、昨年に続き180字。全文の要約的理解を前提にした傍線部説明である点は例年通りである。
<古文>
2013年度は、近世の随筆である、菅茶山『筆のすさび』からの出題。本文は、三首の和歌と二編の漢詩の書き下し文が含まれ、また所々に漢詩文に由来する特殊な表現や語句が散見する、やや読みづらいものだった。設問は、本文の正確な読解が要求されるものが大半だが、古典常識に関する特殊な知識が必要なものもあり注意される。前年と同様、漢文は古文とは独立して出題されているが、古文とかかわる設問も出題された。
2014年度は、中世の紀行文である『東関紀行』からの出題。本文は、和歌五首を含み、引き歌や故事を踏まえた文章であるものの、旅の進行に則して場面の展開をしっかり押さえることができれば、比較的読みやすい文章であった。設問は、2013年度に比べて和歌に関する設問の増加が目立つ。また、2013年度は出題されなかった文法関連の設問が注意される。漢文が独立して出題されているのは昨年と同じで、本文中の語句と関連づけられた漢詩とその解説文の出題であった。
2015年度は、平安後期の説話『江談抄』からの出題。和歌は含まれなかったが、本文中に漢詩(書き下し文)の引用があり、漢詩の解釈も求められた。ただし、村上天皇と文時との漢詩に関する応酬をしっかり押さえることができれば、比較的読みやすい文章であった。漢文が独立して出題されているのは昨年と同じで、本文中に引用された漢詩の書き下し文に関連付けられた漢詩についての出題であった。
2016年度は、平安中期の物語からの出題。和歌は含まれなかったが、人物関係や場面の推移にわかりづらいところがあり、読解には細心の注意が必要。特に、鬚黒大将と北の方との微妙な心理の綾の読み取りには注意しなければならない。漢文が独立して出題されているのは昨年と同じだが、本年は、古文からは完全に独立したかたちでの出題であった。
2017年度は、鎌倉初期の歌論からの出題。本文は例年になく短い文章で、和歌は含まれなかった。基本的な文法力と読解力が身についていれば、読解は比較的容易であったが、語句の解釈や文脈の把握にわかりづらいところもあり、読解には細心の注意が必要とされる。漢文は、本年も昨年も同様、古文からは完全に独立したかたちでの主題であった。
<漢文>
2013年度は、古文の「東坡の説」の出典となる、二十句からなる五言古詩一首。古文から何を詠じたものかがわかり、それが設問ともなっている。他の設問としては、解釈、書き下し、文学史(作者の姓)が問われた。
2014年度は、古文に見える「班婕妤が団雪の扇」という故事成語に関わる李白の詩「長信宮」と、その内容を解説した明の唐汝詢『唐詩解』の文章。詩と解説文との対応関係を意識する必要がある本格的な出題である。設問としては、主語、押韻、空欄補充、詩の解釈が問われた。
2015年度は、白居易の七言律詩「春江」。左遷された長江のほとりの地で二年目となる春を迎えた心境を詠じた詩である。
2016年度は、『論語』の文章。故郷の魯を追われて各地を放浪する孔子一行と、世間に背を向けて生きる隠者との対話を描いている。
2017年度は、戦国時代・楚の恵王が食事にヒルが入っているのに気付いたが、調理人たちが処罰されることを恐れてそのまま呑み込み、体を壊したという、通常は美談として語られる故事に対して、筆者が「不肖」であると批判した文章である。

入試対策

<現代文>

① 基本的な方法論を習得する
読解・解答についてのしっかりした方法論を基本から身に付けてゆくのが最も大切なことである。方法論を学ぶことのできる参考書を自習するか、または方法論を教授する教師について、訓練を積まねばならない。最初は難しい文章・設問でなくともよいから、同内容関係・対比関係・因果関係などを意識しながら本文全体の論理構造をとらえ(それをふまえて要約文を作成してみるのもよい)、また本文の細部については前後の文脈の中でとらえて正確な意味を把握する練習を繰り返すことである。
② 抽象度の高い評論・論説文を読む
基本的な方法論を身に付けた上で、ハイレベルな文章を読みこなす練習をしなければならない。読書好きの人は各社の新書や文庫を読めばよい(誰の著書を読むかは過去に出題された出典名を参考にする)のだが、時間的余裕のない人には、入試問題集のうち評論を集めたものを読むことを勧める。個々の文章は短いが、さまざまなテーマに親しむことができるからだ。また、12~17年の法学部では、不可視の権力関係・無自覚な暴力性・他者との応答可能性といったテーマの文章が頻出している。「内容」の項でも触れたように、過去に出題された文章と重なる問題意識の文章が出題されるケースも少なくないので、過去問の本文は繰り返し読み、テーマや用語法などに慣れておくとよい。
評論・論説文に頻出する用語に弱い人は、「入試問題キーワード集」といった類の本でその面の強化を図る必要もある。早大では本文ばかりでなく選択肢にも抽象語が頻出する。その種の語の理解を曖昧なままにしておくことは、とんでもない誤読につながりかねないのである。
③ 設問形式に応じた練習を重ねる
法学部の設問は、(08・11年を除き)空欄より傍線部説明が多く、選択肢も長めのものが多い。長い選択肢を粘り強く吟味する練習は必須である。また、部分および本文全体の〈要約〉的理解力をつけることも意識したい。法学部の傍線部説明の解答は〈その傍線部を含む一連の箇所の主旨の要約〉的な内容であることが少なくないし、記述説明も、部分ないし本文全体の要約的理解が前提となっていることがほとんどである。テキストなどの本文を、意味段落ごとに要約し、さらに全体の要約を130~180字程度で作成する練習が有効だろう(その際に、〈AだからB、BだからC〉と、論理のつながりを追って読み、書く意識をもちたい)。そうした練習で基礎を固めた上で過去問に当たり、〈本文の論旨の概要を踏まえた上で、設問要求(傍線部+設問文)に即して解答内容を絞る〉練習を積むことで仕上げていけばよい。

<古文>

年によっては受験生にはなじみの薄い作品が出題されることもあるが、例年出題されている文法や語句に関する設問には標準的なものが多く、特にそのような設問で点数を落とすことがないように、基本的な知識の習得や基礎的な読解の訓練をおろそかにしないことが肝要である。また、敬語の用法の知識や文脈のしっかりとした読み取りをもとに、本文中の人物関係の正確な把握に習熟できるようにしなければならない。
来年度に向けての対策として日頃の学習の中で特に重要なことは、一つ一つの言葉に即して文章全体を正確に読み取る力の養成である。基本的な文法や重要語句の知識にしても、単なる暗記にとどまることなく、文章の読解に関わらせていくことが有効である。言葉に着目しながら、前後の文脈や文章全体を正確に読み取ることによって正解を導いていく学習を心がけてほしい。また、今年度は和歌は出題されていないが、和歌の学習に万全を期して置く必要がある。修辞法を理解し、一首一首ていねいに解釈する訓練を欠かしてはならない。

<漢文>

句法や重要語を十分に学習することがまず第一。その際には、白文での訓読・解釈ができるよう練習する必要がある。また、多義語・熟語・訓読みなどの漢字の語彙を意識して身に付けよう。また、読解・訓読の際には対比や対句など、常に文脈を意識すること。漢詩が好んで出題されるので、規則や文学史を確認しておこう。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。