2017年度入試
出題分析と入試対策 慶應義塾大学 法学部 日本史
出題分析と入試対策 慶應義塾大学 法学部 日本史
過去の出題内容
2017年度
大問 | 時代 | テーマ | 問題形式 | 解答となった用語 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ | 中世・近世 | 社会史 | 記号選択 | 大犯三カ条、国人、地下検断、酒屋、国一揆、一向一揆、起請文、本百姓、分地制限令 |
Ⅱ | 古代〜現代 | 政治・文化史 | 記号選択 | 聖武天皇、吉備真備、浅野長政、寺社奉行、安井算哲、宣明、大久保利通、島津久光、石橋湛山、坂口安吾、阿倍仲麻呂、本居宣長 |
Ⅲ | 近世 | 政治・文化史 | 記号選択 | 新井白石、野呂元丈、松平定信、オランダ通詞、高橋景保、蘭学事始、杉田玄白、小田野直武、福沢諭吉、中津藩、谷文晁、渡辺崋山、外国奉行 |
Ⅳ | 近代・現代 | 政治・経済・外交史 | 記号選択 | 神武天皇、紀元節、天武天皇、津田左右吉、立憲民政党、西園寺公望、北部仏印、山本五十六、マレー沖、フィリピン |
2016年度
大問 | 時代 | テーマ | 問題形式 | 解答となった用語 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ | 原始・古代 | 社会・外交史 | 記号選択 | 新石器、津雲、アスファルト、垂柳、擦文、朝日、紫雲出山、漢書、コタン、下戸 |
Ⅱ | 古代・中世 | 政治・文化史 | 記号選択 | 小野好古、蓮華王院、新制、仲恭天皇、後陽成天皇、後水尾天皇、源頼義、陸奥話記、鳥羽院、愚管抄、藤原道家、天龍寺 |
Ⅲ | 古代〜近代 | 文化史 | 記号選択 | 百済、式部、絶海中津、薩南、姜沆、松永尺五、徳川綱吉、野中兼山、聖教要録、漢意、元田永孚、一山一寧、樵談治要 |
Ⅳ | 近代・現代 | 外交史 | 記号選択 | 第一次世界大戦、朝鮮、大連、実物賠償、米内光政、平沼騏一郎、梅津美治郎、独ソ不可侵条約、国本社、チャーチル、黒田清隆、小笠原諸島 |
2015年度
大問 | 時代 | テーマ | 問題形式 | 解答となった用語 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ | 古代 | 政治史 | 選択 | 式家、大伴家持、早良親王、高野新笠、和気清麻呂、続日本紀、藤原薬子、藤原緒嗣、菅野真道、紀古佐美、文室綿麻呂 |
Ⅱ | 近世 | 外交史 | 選択 | 有馬晴信、原マルチノ、松倉勝家、大目付、親魏倭王、足利義満、木綿、雨森芳洲、ドン=ロドリゴ、荒木宗太郎、暦象新書、レザノフ |
Ⅲ | 近世・近代 | 経済史 | 選択 | 大黒常是、荻原重秀、岩瀬忠震、オールコック、由利公正、民部省札、阿仁、鈴木牧之、松平定信、渋沢栄一、古河市兵衛 |
Ⅳ | 近代 | 政治史 | 選択 | 井上準之助、伊東巳代治、対支政策綱領、東三省、蔣介石、日本労農党、階級、赤瀾会、西光万吉、京都学連、山本宣治、集会及政社法、井上日召 |
出題分析
分量
1997年度以降、大問4題、設問数50問と一定している。試験時間は60分間なので、十分ゆとりのある分量といえる。ただし、リード文が長文であり選択肢が70個以上にもなるものもあるので、このような形式に慣れておかないと時間が足りなくなる恐れがある。
パターン
97年度以降、4問とも全て単純な語句選択問題である。
内容
時代別設問数(下段は%)
原始 ・ 古代 |
中世 | 近世 | 近代 | 戦後 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
17 | 4 (8) |
10 (20) |
15 (30) |
19 (38) |
2 (4) |
50 (100) |
16 | 14 (28) |
16 (32) |
7 (14) |
11 (22) |
2 (4) |
50 (100) |
15 | 14 (28) |
2 (4) |
14 (28) |
20 (40) |
0 (0) |
50 (100) |
14 | 6 (12) |
0 (0) |
8 (16) |
23 (46) |
13 (26) |
50 (100) |
13 | 5 (10) |
24 (48) |
5 (10) |
15 (30) |
1 (2) |
50 (100) |
上の表はここ5年間の設問を時期別に示したものである。出題時期について今年度の特徴として指摘できるのは、2015年度から二年続けて比重の高かった古代史の出題が減少したこと、三年連続して戦後史の比重が低かったこと、2016年度に30%を下回った近代史の比重が再び30%を回復したことである。
次に出題分野にそって内容を検討すると、今年度は2016年度に続いて、政治・文化からの出題が多かった一方、経済からの出題が少なかった。また、2016年度と比べると外交からの出題は減少した。そして、今年度も2016年度に続いて(受験生にとって未見の)史料を使った設問がつくられたこと、例年通りテーマ史がとりあげられたことなどを特徴として指摘できるだろう。
要するに、出題時期・出題分野ともかなりの偏りが見られ、なおかつ、年度による変動の幅が大きすぎて、傾向といえるようなものを抽出することは不可能である。本学部はバランスのよい出題を意識していると考えることはできない。ただ、来年度以降も準備しておくことのできるテーマ史の学習はしっかりとやっておかなければならない、ということだけはいえる。
次に出題分野にそって内容を検討すると、今年度は2016年度に続いて、政治・文化からの出題が多かった一方、経済からの出題が少なかった。また、2016年度と比べると外交からの出題は減少した。そして、今年度も2016年度に続いて(受験生にとって未見の)史料を使った設問がつくられたこと、例年通りテーマ史がとりあげられたことなどを特徴として指摘できるだろう。
要するに、出題時期・出題分野ともかなりの偏りが見られ、なおかつ、年度による変動の幅が大きすぎて、傾向といえるようなものを抽出することは不可能である。本学部はバランスのよい出題を意識していると考えることはできない。ただ、来年度以降も準備しておくことのできるテーマ史の学習はしっかりとやっておかなければならない、ということだけはいえる。
難易度
慶應義塾大学法学部というと、例年、用語集頻度が異常に低い悪問・奇問の類が多く、受験生に理不尽な暗記を強いることで悪評が高かった。2016・15年度の二年続けて用語集の項目の内容まで理解していないと正答できない設問があったのだが、今年度はそうした出題はなくなった。さらに、用語集頻度が異常に低い悪問・奇問の出題も減少した。教科書の本文や欄外注だけではなく、史料やその解説の内容から出題するのはやむを得ないが、用語集の内容まで理解しておかないとならないということになれば、受験生の日常的な学習に悪影響を及ぼす危険性が高いと言わざるを得ない。
いうまでもなく、慶應義塾大学は「私学の雄」であり、その入試問題が高等学校や予備校の授業現場に及ぼす影響ははかりしれない。悪問・奇問だらけの入試問題は、真摯に受験勉強に励む学生にいたずらな不安を抱かせるだけでなく、学問・教育の府としての大学の品位・品格を疑わせることにつながりかねない。
受験生を指導する立場にあるものとして、今年度のような出題傾向が継続されることを強く切望するものである。
いうまでもなく、慶應義塾大学は「私学の雄」であり、その入試問題が高等学校や予備校の授業現場に及ぼす影響ははかりしれない。悪問・奇問だらけの入試問題は、真摯に受験勉強に励む学生にいたずらな不安を抱かせるだけでなく、学問・教育の府としての大学の品位・品格を疑わせることにつながりかねない。
受験生を指導する立場にあるものとして、今年度のような出題傾向が継続されることを強く切望するものである。
入試対策
内容のところでも触れたように、時期・分野とも変動の幅が大きすぎて、傾向を抽出することが事実上不可能なのだから、教科書を中心にした穴のない学習を進める以外の対策は考えようがない。教科書を中心にした学習と言っても、本文を読んで重要事項を暗記するだけではもちろんダメである。教科書の本文を熟読することとあわせて、欄外の注や写真図版(とその出典)・系図(教科書の本文には掲載されていない人物も含めて)・政党変遷図(党首の姓名も含めて)・表・地図・史料(とその出典)・史料解説なども徹底的に習得しなければならない。さらにそれと並行して、教科書に掲載されていない史料・図版に対応するため、史料集・図説を使って理解を深め、十二分に問題演習を行なって知識の定着を図る必要があるだろう。とにかく、教科書を隅から隅まで学習することが、極めて重要だということである。
以上の対策をとれば合格点に達することができるだろうが、日本史で高得点を必要とする人もいるだろう。そのような人々は、以下の部分を参照してほしい。
以上の対策をとれば合格点に達することができるだろうが、日本史で高得点を必要とする人もいるだろう。そのような人々は、以下の部分を参照してほしい。
高得点を得るために
本学部の問題で特徴的なのはテーマ史の出題が多いことである。2017年度は大問Ⅱが囲碁と将棋、16年度は大問Ⅲが儒学、15年度は大問Ⅲが貨幣、14年度は大問Ⅰが災害、13年度は大問Ⅰが宗教、12年度は大問Ⅰが災害、11年度は大問Ⅰが食生活、大問Ⅱが海外交流、10年度は大問Ⅰが住居、大問Ⅳが官僚制度、09年度は大問Ⅰがウジとイエ、大問Ⅱが歴史書、大問Ⅲが市と市場、08年度は大問Ⅰが戦争、大問Ⅱが情報伝達、というように毎年必ずテーマ史が出題される。対処不能のテーマが非常に多いのが特徴的であるが、対処可能なテーマもある。できうれば、通史の学習をできる限り早い段階で終え、対処可能なテーマについては自ら整理を行い、問題集にあたって知識の定着をはかることが、理想であろう。テーマ史として整理しておかなければならないのは、琉球・沖縄史、蝦夷地・北海道史、東北・関東・九州史、日中関係史、日朝関係史、土地制度史、貨幣制度史、宗教史(仏教史・神道史・キリスト教史)、学問・教育史、来日外国人の歴史などである。
また、用語集の頻度が異様に低いものが集中的に出題されることに鑑みれば、以下のような学習を試みてもよいだろう。それは、通史の学習と並行しながら、一冊の教科書の学習では習得しきれない歴史用語の語彙数を増やしていくために、用語集を読破していくというものである。本来、用語集は暗記のためのツールではないので、このような使い方は「邪道」である。しかし、本学部の場合、教科書よりも用語集を使いながら問題が作成されているとしか思えない部分があるので、あくまで、教科書の習得と並行させてという条件付きではあるが、用語集で内容が理解されている(ただ単に暗記している、というレベルでは不可)歴史用語の語彙数を増やすという学習が有効性を持つと思われる。
また、用語集の頻度が異様に低いものが集中的に出題されることに鑑みれば、以下のような学習を試みてもよいだろう。それは、通史の学習と並行しながら、一冊の教科書の学習では習得しきれない歴史用語の語彙数を増やしていくために、用語集を読破していくというものである。本来、用語集は暗記のためのツールではないので、このような使い方は「邪道」である。しかし、本学部の場合、教科書よりも用語集を使いながら問題が作成されているとしか思えない部分があるので、あくまで、教科書の習得と並行させてという条件付きではあるが、用語集で内容が理解されている(ただ単に暗記している、というレベルでは不可)歴史用語の語彙数を増やすという学習が有効性を持つと思われる。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。