2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 政治経済学部 世界史

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容 形式
中国における歴史叙述 前漢から中華民国時代まで、設問は広くカバーしている。マーク問題は正文選択が多いが、特に溥儀が紫禁城から退去した情勢を問う設問はやや難しい。記述問題は全て空欄補充であり、かつ文化史から出題されている。 マーク・記述
第二次世界大戦後のアジア諸地域の特徴 第二次世界大戦後のアジア、特に東南アジアを中心に設問が構成されている。政治史からの出題が多いので、民族運動組織や政治的指導者、宗主国との関係や独立の経緯を整理しておくことが必要。 マーク・記述
主権国家形成期のヨーロッパ いわゆる絶対王政時代のヨーロッパからの出題である。治安判事やアカデミー=フランセーズは2012年にも出題されている。全国三部会と地方三部会の2つから解答を判断させるのはつらいだろう。 マーク・記述
18世紀末から19世紀におけるヨーロッパの革命 2014年以降出題されるようになった論述問題だが、40字の論述が初めて出題された。空欄補充問題は人物名や事件名などの歴史用語ではなく、歴史の理解が試されており、単純な語句暗記に頼っているようだと正解が難しいだろう。 マーク・記述
戦間期のヨーロッパ 恒例となった論述問題は1938年2月から9月末までのドイツの行動とイギリスの対応である。対象となる時期が短いので、正確な歴史展開が把握されていないと苦しいだろう。情報の取捨選択がカギとなる。 マーク・記述・論述

2016年度

番号 項目 内容 形式
中国・西アジアの通貨制度 オスマン朝・唐・前漢・明・ウマイヤ朝・大モンゴル国(元)の通貨制度を説明した文章である。オルハン1世・玄宗・武帝・万暦帝・アブド=アルマリク・フビライ=ハン在位中の事績・出来事の記述として、適切なものを問う問題と、出来事を時代順に正しく並べたものを問う問題が出題された。内容よりも時代性が重視された問題が多い。 マーク・記述
大航海時代のラテンアメリカ 新大陸発見と征服に関する出来事の年代整序問題やイサベル女王の治世より後の出来事・大航海時代に関する記述を問うなど年代に関する問題が多い。マゼランの世界一周への出港とコルテスのアステカ帝国征服など詳細な年代が出題された。 マーク・記述
ドイツとフランスの近現代史 ドイツ連邦に関する正誤問題は難解である。ドイツ連邦は基本的に神聖ローマ帝国の領域内で結成されたことに注目し、オーストリア領ハンガリーの状況を考慮すること。カール大帝時代の事績や神聖ローマ帝国消滅以前の出来事など、ここでも年代に関する問題が出題された。 マーク・記述
朝鮮近現代史 日本を中心とする列強の朝鮮侵略と冷戦時代の事項に関する一般的な年代整序問題や、戦後アジアの標準的記述問題が出題された。朝鮮総督には文官が任命されたことがないという詳細な知識が出題された。 マーク・記述
アジア・アフリカ会議 バンドン会議の最終コミュニケからの抜粋文が史料として使用され、会議の経緯と歴史的意義についての論述問題が出題された。難解ではないが、できるだけ多くの論述の加点ポイントとなる表現を含めた解答文を作成することを心掛けること。「会議の経緯」という表現が捉えにくいが、会議を開催するに至った経緯としてコロンボ会議と平和五原則を、会議そのものの経緯としてアジア・アフリカ独立諸国が参加したことと平和十原則が発表されたことを示せばよい。 マーク・記述・論述

2015年度

番号 項目 内容 形式
東アジアで使用された文字 東アジアで使用された文字に関するテーマ史の問題であり、入試問題の頻出テーマが出題された。『五体清文鑑』の図が使用されていた。アルファベットの影響を受けた西アジアに起源を持つ文字と民族意識の高揚により作成された征服王朝の文字など、この大問1題で東アジアの文字の総復習が可能な問題である。 マーク・記述
主権国家時代の戦争史(14世紀半ば~18世紀) 百年戦争からルイ14世時代の出来事に関する西ヨーロッパ絶対王政時代を中心とする問題が出題された。百年戦争・三十年戦争に関する年代整序問題やイタリア戦争の正誤問題など早大の入試問題の頻出テーマが数多く出題された。人物や事項を覚えただけでは、正誤問題も年代整序問題も対応できない。内容を踏まえた学習を必要とする。 マーク・記述
ユダヤ人の歴史 古代(ヘブライ王国)から現代ヨーロッパに至るユダヤ人問題が出題された。ナチス=ドイツのユダヤ人迫害関係の問題は頻出であるが、ドイツ語で著した文化人のうちユダヤ人でないものを問う設問は珍しい。著名な人物に関しては広範な知識が必要となる。問題を数多くこなして実力を向上させよう。 マーク・記述
第二次世界大戦後(冷戦時代)のヨーロッパ・アメリカ ヤルタ会談からベルリン封鎖に至るまでの冷戦時代の幕開けに関する問題である。ヤルタ会談・チャーチル・ベルリン封鎖・チェコ政変・トルーマン=ドクトリン・マーシャル=プラン・コメコン・コミンフォルムなど基礎的事項で構成されている。基礎的事項だからこそ、内容をしっかり理解しているかどうかが解答の決め手となる。重要な歴史用語を確実に理解すること。 マーク・記述
第一次世界大戦末期~戦後の民族自決をめぐる動向 第一次世界大戦後の欧米の動向に加え、第一次世界大戦と日本の関わり、戦後の朝鮮半島や中国の日本統治に対する民族運動が主題となった問題が出題された。五・四運動に関する論述問題(160字以内)の出題者が受験生に要求するものは内容が深い。 マーク・記述・論述

出題分析

形式と分量

選択・正誤・記述問題を組合せた大問6題が14年までは定番であったが、15年以降は5題に減少した。出題パターンはマーク(28問)・記述(23問、うち1つは解答2つ)併用で、分量は昨年(マーク28問、記述20問)とほぼ同じだが、論述問題は増加した。
論述問題では14年は120字が2問、15年と16年は160字が1問、17年は160字と40字が1問ずつ出題され、その出題は定着したようだ。選択問題中、4択の正誤問題は10年(18問)、11年・12年・13年(13問)、14年・15年(15問)と10~20題の出題があり、16年は激減した(4問、君主の在位中の事績・出来事やある歴史用語の以前、以後の出来事を問う問題が殆ど)が、17年は12問出題された。年代整序は14年(5問)、15年(3問)、16年(4問)で、17年は3問出題された。大問につき約1題の出題程度だろう。相変わらず細かい年代を判断基準としているが、歴史的流れ(ストーリー)をしっかりと理解していれば十分に対応できる問題であった。論述問題の出題も加えて考慮すると、棒暗記で入試を突破しようとする受験生に対し、歴史的な理解を要求する大学側の意図がみえてくる。単純記号選択は13年(18問)、14年(10問)、15年(13問、うち2問は人名と国家名の組合せ)、16年(10問、人名と国家名の組合せを問う問題が1問)と変化し、17年は13問でそのうち組合せ問題は3問だった。「正解ナシ」を含む問題は10年~16年と同様、17年も出題されなかった。選択問題・正誤問題・記述問題を効率よく解いて、いかに論述問題に時間をかけられるかが、高得点をとるポイントとなる。

分野と内容

本学部の個性を出そうとする意図からか、09年~16年と政治史に関する設問が多く出題されており、17年もその傾向に変化はない。例年Ⅰでは広範な東アジアの知識が問われることが多く(11年は内陸アジアの旅行者とその時代・12年は内陸アジアの遊牧民、13年は海上貿易を中心とした諸問題、14年は中国と周辺国家・周辺民族との国境問題、15年は東アジアの文字の歴史、16年は東アジア・西アジアの諸王朝とその通貨制度)、17年も中国における歴史叙述が出題された。その他の大問では例年通り近現代のヨーロッパ・アジアを中心とした出題であり、16年はややアジアに出題が傾倒したが、反動としてか17年ではヨーロッパからの出題が増加した。
文化史については09年と10年は出題が少なく、11年以降は毎年若干のみの出題が続き、しかも基本的な知識を問う問題が多かったため、あまり差がつかなかっただろう。しかし17年では文化史の比重が高まった。ただしアカデミー=フランセーズや啓蒙思想など過去にも出題された分野からの出題であるため、意表を突いたわけではない。それでも文化史で手を抜いてしまうと、ダメージは大きくなる。
近現代史に関しては日本史関連の事項が出題されることが多いので、注意を要する。20世紀史は08年に社会経済史や欧州統合などの出題が増加し、09年には第一次世界大戦からソ連崩壊までの問題が出題され、10年ではチャーチルが生きた時代というテーマで20世紀半ばの欧米政治史が出題された。11年には20世紀前半の2度の世界大戦とその間の日本の中国侵略をテーマとする問題が出題され、12年に史料を利用したリード文の形式で11年と同じく、2度の世界大戦後のヨーロッパ・アジアが出題された。14年はⅥで第一次世界大戦後の中東とインド、20世紀のアジアへの社会主義の波及などが出題された。15年はベルリン封鎖に至るまでの冷戦時代の幕開けが出題された。16年は戦後の朝鮮半島やアジア・アフリカ会議の論述問題が出題された。17年も戦間期のヨーロッパや戦後のアジア史から出題されている。
史料・地図を用いた設問については、06年・07年・09年に出題された。12年には前述のようにⅥで史料と地図を組合せた大問が出題されている。14年は大航海時代の問題で世界地図が使用され、航海ルートに関して出題されたが、難問はなく標準的レベルであった。Ⅴで佐藤慎一「政治運動の場としての『東京』」川島真・服部龍二編『東アジア国際政治史』と出典を明記したリード文が使用された。15年は『五体清文鑑』の図が使用され、各段落の文字が直接問われ、Ⅴではリード文に「『帝国の総力戦』としての第一次世界大戦」が引用されていた。16年はⅤでバンドン会議の最終コミュニケからの抜粋文が史料として使用された。17年は設問に直接関連する史料や地図・図版の出題はなかったが、リード文では出典の明記された文章が用いられている。図・史料関係の問題は毎年出題される傾向が生まれていると考えておこう。

範囲・内容・難易度

設問の中には、やや細かい内容が混在するものの、09年~16年に続き今年も教科書レベルの出題が多い。正誤問題で受験生を惑わすような設問が減少したので80%以上は確実に得点したい。アジア史関連では09年と13年に史料を理解した上で設問に解答させる出題があった。史料理解という難しさはあるものの、確実な学習を行った受験生は十分に対応できる問題であった。10年、12年、14年には地図が出題されたが、これも地図や資料集を手元に置いて確実な世界史学習を行った受験生にとって難解な問題ではない。図版では15年に『五体清文鑑』の図が出題されているが、13年・14年・16年と同様、17年も図版を使用した問題は出題されなかった。西洋史は08年に社会経済史に重点が移ったが、09年~17年と政治史中心の構成となった。08年のⅤと同様に、09年はⅣでナポレオンからビスマルクまでの19世紀ヨーロッパ政治史が出題され、10年ではⅤで19世紀末〜20世紀半ばの欧米政治史が出題された。正誤問題を中心とした構成ではあるが、難問はない。08年のⅥはイギリスの社会政策や欧州通貨統合の段階的発展など、20世紀の社会経済史が出題された。この問題では政治・経済や現代社会でも踏み込むかどうかという近年の国際経済の変化を、世界史の枠組みの中で受験生に要求しようとする出題者の意図を感じる。05年・06年と連続した20世紀史、特に戦後史の出題は、07年ではごく僅かに止まったが、08年・09年・10年・13年・15年・16年・17年と出題された。11年・12年は正誤問題が減少したことと世紀史の出題が減少したことから、難易度はやや易化した。13年と15年は戦後史の出題が増加したが、標準的な問題であり難易度があがったというほどのものではない。16年・17年はアジア戦後史が数多く出題された。15年もⅤで第一次世界大戦後の欧米と日本を中心とするアジアの動向が問われている。論述問題においても15年にⅤで五・四運動を外交的結果に着目して論述するように意図しており、16年はアジア・アフリカ会議の経緯と歴史的意義が問われている。17年は近代農法の特徴(40字)と第二次世界大戦直前のドイツの行動とイギリスの対応(160字)が出題された。例年通りの「政治史の政経学部」というにふさわしい問題構成であるが、近現代史を重視し、アジアに対して高い意識を持とうとする姿勢がみられるようだ。

入試対策

政経学部の場合、歴史用語のみを「知って」いても得点には繫がりにくい。普段から「流れ=story」あるいは「文脈=context」で歴史を捉える練習をしておく必要がある。そのためには常にwhen(時代)・where(地域)・who(主体)・what(内容)・why(因果関係)・how(経緯)とresult(影響)を考えながら、学習することである。歴史検定試験と大差ないクイズ的な出題が減り、重箱の隅をつつくような事項の羅列・一問一答的な学習ではかえって合格しにくくなっている。近年では受験生の思考力を問うような作問が増加している。その象徴が14年以降出題されている論述問題である。今後は、頻出テーマ史をしっかり理解することが、政経学部合格には必須の条件となる。教科書のみならず、資料集の図版・グラフや用語集によく目を通すこと。また早大独特の正誤問題の克服には、特に基本事項を整理したうえで、歴史の流れ・因果関係を理解する学習が必要である。時代・テーマ的には、15〜20世紀の政治史と社会経済史は徹底的に整理しておくことが重要である。語句の意味や歴史的経緯を理解する学習が正誤問題・論述問題対策には必要である。図版を使用した問題は特に注意しておきたい。時事的問題にも常に関心を持ち、問題の歴史的背景を分析しておくことが望ましい。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。