2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学 政治経済学部 日本史

過去の出題内容

2017年度

番号 時代 内容 形式
古代・中世 古代~中世の外交・経済・文化と政治 選択・記述
近世 近世の経済・文化 選択・記述
明治 明治時代の政治・経済・文化 選択・記述
大正 大正時代の経済・外交 選択・論述
戦後 戦後の政治 選択・記述

2016年度

番号 時代 内容 形式
古代・中世 古代~中世の政治・文化 選択・記述
近世 江戸時代の文化・外交と政治・経済 選択・記述
明治 明治時代の政治と文化 選択・記述
大正・昭和戦前 大正~昭和戦前期の総合問題 選択・記述
戦後 戦後の政治 選択・論述

2015年度

番号 時代 内容 形式
古代・中世 古代~中世の教育史 選択・記述
近世 江戸時代の文化・外交と経済史 選択・記述
明治 明治前期の産業と経済 選択・記述
大正・昭和戦前 大正~昭和戦前期の外交 選択・記述
戦後 戦後の社会経済史 選択・論述

出題分析

分量

2000年度以降は大問5題である。特筆すべきことは、120~160字の東大入試なみの論述問題が、戦後史で出されていることである。ちなみに、09・10年度の論述問題は明治期、17年度は大正期、07・14年度は昭和戦前期と、戦後史以外からの出題であった。また、99年度は6題中4題が近現代史であり、その内訳も明治期、大正期、昭和戦前期、戦後期で各1題となっており、近現代史の圧倒的比重から、「近現代史の入試」に近くなっているのが実態である。2000年度以降は5題中3題が近現代史であり、ほぼ同様の傾向を示している。政治学・経済学を学ぼうとする学生を選抜する試験なので、大学が近代史(明治~昭和戦前)と現代史(戦後)の基礎知識を問うのは当然であり、分量・配点とも近現代史に集中することの意図は明確である。このことは、政経学部の見識を示しているといってもよいであろう。
第Ⅰ問は古代・中世を中心とする前近代の史料問題であるが、高校の教科書では多くのページ数を割いている古代と中世が1題にまとめられ、その上に分量も少ない。分量・配点分から見ても古代・中世が軽視されているのは明確であり、07・09年度は中世、10年度は古代からの出題がなかった。第Ⅱ問は近世であり、第Ⅲ~Ⅴ問が前述したように近現代史である。

パターン

「選択問題」と「記述問題」及び「論述問題」で構成されている。「選択問題」はマークシート形式であり、語句選択問題と正誤判定問題がある。「記述問題」は歴史用語を書かせる形式となっている。「選択問題」と「記述問題」の比率は、年度によって多少の変化はあるが、ほぼ3対1程度と考えてよい。
論述問題により歴史的思考力を問う必要があるということは、現在、大学入試を作成する現場においては当然のこととなっている。ところが、論述入試は採点が非常に大変であるという大学側の「御家事情」もあり、「総論賛成・各論反対」といったところが、早大のように大量の受験生を採点する大学の現場の実態であったようだ。しかし、早大の他学部では論述問題を出す傾向が定着しつつあり、02年度以降は、毎年、政経学部でも120~160字の戦後史の論述問題が出されている(07・09・10・14・17年度は120字の近代史の論述)。以前、「政経学部でも論述問題が出題される可能性は、将来、きわめて高い。"政経学部は論述対策など必要ない"とたかをくくっていると、入試で泣くことになるかもしれない」と書いたが、そのとおりになった。後で青本の「分析」を読んでいれば……となげいていた受験生もいたであろう。また、受験生の中には、論述対策が記述・選択・正誤問題の対策と全く別なものと考えている諸君が多いが、これは大いなる誤解だ。

内容・特徴

第Ⅰ問は、古代史と中世史の史料問題が出題されることがほぼ定着している。史料は受験生が学んでおくべき「基本史料」だけではなく、受験生が見たことのない、いわゆる「未見史料」を用いることが多い。しかし「未見史料」の問題は、史料そのものに関する受験生の知識を問うているわけではない。わざと見たことのない史料を題材にして、受験生の持っている既存の知識や歴史的思考力、及び応用力を問う「実力問題」なのである。しかも、政経学部の場合、「未見史料」の読解を通して基本的な歴史知識を問う問題が多いので、あわてず取り組めばよい。ただし、内容的に基本レベルの問題が多いということは、一つ取りこぼすだけでも大きな痛手となる。
また、古代・中世は分量・配点も少なく軽視されていることは事実であるが、それ故、問題も体系的なものではない。しかし、いくつかの史料が出され、それに関連する事項が問われるので、古代・中世という広い範囲の中の「どこから打たれても打ち返さなければならない」という難しさもある。
第Ⅱ問は近世である。01年度は江戸時代の農業を中心とした問題であったが、近年の問題を通してみると、テーマを持った問題というより江戸時代の総合問題といった傾向が強い。特に江戸時代の儒学の歴史については、教科書レベルを超える知識も要求されることがある。
第Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ問は近現代史である。そのうち最後の第Ⅴ問は現代史(戦後史)である。第Ⅲ・Ⅳ問は明治期1題、大正・昭和戦前期(あるいは昭和戦前期のみ)1題がパターンであり、時に明治~昭和戦前までを通したテーマを持った近代史の問題も出題される。
前述したように近現代史は非常に重視されており、大学で政治学や経済学を学ぶ前提となる近現代史の知識と理解が要求されている。そのため、「日本のアジア侵略と植民地支配」、「ファシズムの台頭と国際関係」、「デモクラシー思想・社会運動とそれに対する政府の対応」、「政党内閣とその変遷」、「近現代の経済史」、「現代のジャーナリズム」などが主要なテーマとなっている。特に戦後史は、受験生が時事問題への関心や時事的知識(常識?)を持っているかを問うために、戦後の政治や経済に関しては、教科書レベルを超える知識や理解を要求してきているのが近年の顕著な傾向である。

難易度

早大の政経学部は私大の最難関学部の一つであり、日本史も難問が出題される学部として有名だった。しかし近年、問題の難易度は下がっているといって間違いない。「無茶な問題」が減ったことは歓迎すべきである。しかし、基本レベルの問題が中心となっているので合格最低点は上がっており、日本史を得点源として他の受験生とここで差をつけようと思っている諸君にとっては不利になるかもしれない。

入試対策

第一に、大学入試でなぜ日本史が課されているのかをよく考えた上で日本史の学習に取り組むこと。なぜ大学は入試において日本史を課すのか。それは大学が日本史の専門家を求めているからではもちろんなく、歴史が諸学問の前提であるからである。つまり大学は、大学で様々な学問を学ぶために欠くことのできない歴史的教養や歴史的なものの見方を受験生が持っているかどうか、それを知るために入試に日本史を課しているのである。このことをよく自覚してほしい。特に政経学部を受験するのだから、政治学や経済学を学ぼうとする学生に要求されていることは何かということを考え、大学での専門教育の準備をするようなつもりで歴史の学習に臨むことが重要である。
第二に、政経学部の日本史は近現代史を中心にした入試だととらえ、近現代史の徹底的な学習を行うこと。近現代史に関しては、細かい知識だけではなく、深い理解が要求されていることを再確認する必要がある。
主要なテーマとしては、前述したように「日本のアジア侵略と植民地支配」、「ファシズムの台頭と国際関係」、「デモクラシー思想・社会運動とそれに対する政府の対応」、「政党内閣とその変遷」、「近現代の経済史」、「現代のジャーナリズム」などが主要なテーマとなっているが、教科書による通史的な理解だけでなく、部門史的整理を行う必要があるし、特に国際関係史は日中関係史、日朝関係史、対欧米関係史、琉球・沖縄史、アイヌ民族史などテーマごとにまとめていくことが重要である。また思想史も、思想家と著作を用語的にまとめるだけでよいなどという甘いことは全くなく、例えば、吉野作造の民本主義や美濃部達吉の天皇機関説が、どのような内容を持った思想・学説であるのか説明できるぐらいの実力をつけていかなければ対応できない。さらに経済史は、国際金本位体制のシステムの理解など貨幣・金融史を含め、深い理解が要求される。『政治・経済』の教科書を一読するぐらいのことはしたほうがよい。
大問の1題は現代史(戦後史)になり、それも教科書を超える時事的な知識も要求されている。戦後史ができるかどうかは合否を分ける決め手となるといっても過言ではない。ところが、高校で戦後史を十分に学習していない受験生が多いことも悲しいことではあるが実情である。戦後は、1945年の日本敗戦から今年で71年、すでに1885年の太政官制廃止・内閣制度成立から日本敗戦までの60年間より10年以上も長い。そのため、より複雑・難解になっている戦後史の学習には、自由民権運動の高揚期から日本敗戦までの学習と同等以上の時間を割かなければ本来は完成しないはずである。しかし、戦後史を授業で扱っている高校でさえ、非常に短い時間しか戦後史の授業時間に割かれていないのが現状であるので、戦後史の学習には、福井紳一『戦後史をよみなおす』(講談社)、または、『戦後日本史』(講談社+α文庫)を熟読して、戦後史を完璧にすること。もし、駿台予備学校に通える条件を持つ諸君ならば、夏期講習と冬期講習の両方に、駿台校内生の必修講座として設置される『日本現代史(戦後史)』の講座が4日間(12時間)あるので、ぜひ受講することをお勧めする。12時間は通常学期の講座では1学期分(前期11時間、後期13時間)の長さである。また、近現代史の出題では、受験生が高校までの歴史的知識を「死んだ知識」とせず、それを利用し、現在起きている政治的事件・経済的事件・国際的事件を理解しているか、あるいは理解しようと努めているかを問おうとしている。政治学や経済学を学ぼうとしているのだから、毎日、新聞やテレビのニュースに目を通すことは受験の最低限の前提である。そしてさらに、その事件を歴史の文脈で読んでいく力を養成していかなければならない。子供時代の「お受験」の気分で臨んでは相手にされない。
なぜならば、近現代史の入試は、「現在の問題」を歴史的にとらえられているかという視点で作成されているからである。
第三に、史料問題の対策を十分にしておくこと。第Ⅰ問は古代・中世の史料問題となっており、「基本史料」「未見史料」の双方が出題されている。「基本史料」は、空欄になる歴史用語、線を引かれて質問される事項など、出題される箇所はすべて決まっているといってよい。それ故、「基本史料」は「やっておきさえすればよい」のである。対策としては、駿台文庫の『日本史史料集〈改訂版〉』を使って学習することをお勧めする。使い方としては、
①『ポイント』を熟読、②「注」を含めて本文を読む、③「赤い太字」は空欄にされても「穴埋め」できるようにチェック。
これで一つの史料の完成である。一方、「未見史料」は「実力問題」である。本当は対策など必要はなく、諸君の「実力」を表現していけばいいのである。ただし、"コツ"としては、
①設問文をすべて先に読む、②キーワードを探して史料を熟読する、③設問を解く。
これでよいのである。「未見」であることであわててしまうことが最大の失敗の要因である。
第四に、この『青本』をとことん使いこなすこと。まずは
過去問を解く。
解き終わったら、「解答・解説」を見る前に、教科書・参考書などを使ってできなかった箇所や自信のなかったところをチェックする。
最も重要な作業である「解説」の熟読を行い、関連事項まで徹底的に整理する学習に全力を注ぐ。
誤答した個所を再検討するだけではなく、正解したところも含めて、もう一度新たな気持ちで全問を解き直す。
その際、ラインマーカーで重要歴史用語や人物をチェックしながら、「問題文」を参考書でも読むような気持ちで熟読すること。なぜならば、受験生は意外と気づいていないようだが、「問題文」こそ、諸君が受験する入試の作者の「生の文章」であるからである。そして、最も直接的な「ネタ」や作者の歴史観・メッセージが含まれている文章だからである。
以上のように、『青本』を徹底的に使いこなし、「解説」を熟読して関連事項を整理すること。それを実行すれば、出題者の歴史的世界が垣間見られるようになり、最も高度な対策となるからである。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。