2017年度入試
出題分析と入試対策
  早稲田大学
基幹理工学部・創造理工学部・先進理工学部生物

過去の出題内容

2017年度

番号 項目 内容
マラリア熱と鎌状赤血球貧血症 生体防御、マラリア病原虫、鎌状赤血球貧血症、遺伝子突然変異、遺伝子発現調節
(空欄補充、記述、論述)
真核生物の遺伝子発現調節 遺伝子発現機構、mRNA量制御機構に関する実験考察
(空欄補充、記述、論述)
酵素反応とミカエリス-メンテン式 酵素
(空所補充、記述、論述、計算、グラフ描画、正誤判断)

2016年度

番号 項目 内容
オートファジーに関わるタンパク質の修飾 タンパク質の修飾、電気泳動、GFPを利用したタンパク質の追跡
(空欄補充、記述、論述)
尿生成と膜タンパク質 膜輸送タンパク質、腎臓における再吸収量とグルコースのクリアランス、尿量計算、水の再吸収と浸透圧、対向流、能動輸送と呼吸、バソプレシンによる集合管への作用
(記述、グラフ描画、論述、計算)
DNAの塩基配列決定法 サンガー法と次世代シークエンサーによる塩基配列決定、次世代シークエンサーの結果に基づくゲノムの特徴の考察
(計算、論述)
ファージの溶菌サイクルと溶原サイクル DNAとタンパク質の構成元素、転写調節因子とオペレーターの親和性、ファージの大腸菌細胞内での生活環に関わる調節遺伝子の相互作用
(記述、論述)

2015年度

番号 項目 内容
Fアクチンの重合・脱重合 細胞骨格の種類と構造、タンパク質の高次構造、ATPの利用、Fアクチンの重合への薬剤効果に関する考察、動的平衡状態に関する考察と計算問題
(空欄補充、記述、計算、グラフ作成、論述)
遺伝子組換え技術に関する社会的問題 遺伝子組換え生物の生態系に与える影響、遺伝子組換え作物の利用に伴うメリットとデメリット、免疫、交配による品種改良と遺伝子組換えによる品種改良
(論述)
細胞の大きさに関する計算問題 細胞の大きさ、水素イオン濃度に関する計算問題、細胞の分化
(計算、論述)
ヌクレオソームの構造とDNA複製 様々な因子によるDNA複製調節機構
(論述)
ヘテロシスト形成における遺伝子発現調節 窒素固定、光合成、遺伝子発現調節、遺伝子産物の相互作用
(記述、論述)

出題分析

分量

大問数は3題。大問数は年度によって異なる(15年度は大問数5題、16年度は大問数4題)が、全て考察中心の記述問題からなり、いずれの年も分量は多い。解答行数の総和は15年度では80行、16年度では65行と、60分の試験時間に対して例年多かったが17年度では32行に大幅に減少した。

パターン

空所補充、記述、知識論述、計算、考察論述、グラフ描図などがバランスよく出題されている。比較的長いリード文の中にちりばめられたヒントを拾い上げ、矛盾のない考察を立てることができる、難関校にふさわしい力のある受験生を選抜する出題である。

内容と難易度

ほとんどの大学の入試問題は分野の異なる数題の入試問題からなり、それぞれの問題の中で、基礎から応用へと小問が続いている。例えば問1が文章中の空欄を補充させる用語の問題、問2、問3あたりで基礎事項に関する記号選択問題が続き、最後に実験に関する考察問題や計算問題でしめくくる、というような形である。基本があやふやな者は最初の方の設問でつまずき、当然最後の方の問題までは到達できない。基本事項は理解していても考える力の足りない者は最初の方の問題はできても最後の方の問題はできない。このような出題形式は、さまざまな分野を題材に、段階的に得点差を生じさせることを意図しており、基本知識の習熟と考える力を問う選抜試験というものの本質から、きわめて自然なものであるといえる。本校の入試問題の意図するところは、このような入試問題と大きく異なることはないが、その意図を実現するために、他にあまり例を見ない出題形式をとっていると言えよう。
考察中心の記述問題を軸にした出題構成となっている。問題の題材は、15年度[Ⅰ]アクチンフィラメントの重合・脱重合や、16年度[Ⅲ]ジデオキシヌクレオチドによるDNA 鎖伸長停止、17年度[Ⅱ]転写調節のように比較的オーソドックスなものが選ばれていることもあるが、16年度[Ⅳ]ファージの感染サイクルに関わる調節遺伝子や、17年度[Ⅲ]ミカエリス-メンテン式のように、実験結果の解釈にかなりの思考力を要する出題も見られる。
16年度までは難易度が非常に高く、ほとんどの学生が太刀打ちできないために得点差が出にくい出題であったが、17年度は難易度が下がり、学力差を判定する入試問題として適切な出題となった。例えば[Ⅲ]ミカエリス-メンテン式は多くの学生が初見であったであろうが、与えられた手順に従って読み進めることができれば解答できるものである。思うに、出題陣は、未知の題材が与えられた際に限られた時間の中で正確に文章を読み情報を集める力、論理的に道筋を立てて考える力、自らの考えを的確に文章化する力など、研究者としての潜在能力を見ようとしているのではないだろうか。

入試対策

17年度は傾向が16年度までと大きく変わり、解答しやすい出題が多くなった。とはいっても単に易化したわけではなく、基本的な理解ができていることを前提に、与えられた条件・実験結果をもとにした、実力の差が大きく表れる質の高い考察問題が増えた。入試対策としては、問題集などで論述、計算、実験考察問題を学習しておくことが必要であろう。特に、仮説を立ててそれを検証するという「科学」の基本的考え方に習熟する必要があり、実験考察系の問題集を用いて練習したり、岩波新書や講談社のブルーバックスなどを読んで研究の背景や考え方を理解すると効果があるだろう。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。