英語

リーディング

 2月に実施した前回の試行調査と同様、大問数は「6問」で、今回も発音やアクセント、語句整序、独立した文法問題などは出題されず、純粋な読解問題のみの出題となった。マークの数(解答数)は前回の38から43へと増加したが、読むべき英文の分量には大きな変化はなく、前回の試行調査でも話題となった「正解が1つとは限らない問題」も引き続き出されている。試験時間に対して量は決して少ないとは言えず、センター試験以上にスピードが求められることは間違いない。英文の内容面では、ウェブサイトやブログの内容、料理クラブで使うレシピ、ディベートやプレゼンの準備のための文章といった「身近」で「実際的・実用的」な設定が目立つ。設問を見ると、必要な情報を「探し読み」する問題、「事実」と「意見」を区別する問題、「英文と図表やグラフを絡めた問題」が目につく。これは、単に英文を読み、一文ごとの意味を理解するにとどまらず、1)「素早い検索力や情報処理能力」、2)「英文の『論旨』や『言いたいこと』を把握する力」、さらには正確な読解には欠かせない、3)「『意見』と『事実』の区別をする力」を問おうとする姿勢の表れと言えるだろう。

リスニング

 6つの大問から構成され、大問1~3が2回読み上げ、大問4~6が1回読み上げになった。問題数は26題で、前回行われた2種類の試行調査の「中間」となっている。難易度については、大問1から徐々に上がるように作られている。
 聞こえてきた音声情報を何らかのイラストや図表などと関連づけることを求められる問題、すなわち「純粋に、英文を聴いて理解ができたか測ること」に留まらない設問が非常に多い。趣旨は理解できるし、良問も多いのだが、中には今回の試行調査の第5問などのように「必要以上に煩雑な問題」になってしまったものもある。「状況の読み上げ」を放送で行なったり、前もって設問内容を把握する時間を延ばすなどといった工夫をしないと、「内容は理解できているのに解けない」という本来の趣旨から逸脱した問題になりかねない。CEFRの下から3つのレベル(A1、 A2、 B1)の範囲での出題とされているが、こうした問題設定の煩雑さゆえに、一部の問題は外部の検定試験のB1レベルの問題と比較しても難しく感じるものもあるほどである。
 音声面に関しては、「国際語としての英語」を意識してか、「アメリカ英語」に加え「イギリス英語」や「非母語話者の英語」も入っており、好感が持てるが、少なくともイギリス英語の分量はもう少し増やしてもよいのではないだろうか。
 今回初めて「リーディング、リスニングが各100点」という配点が明らかにされた。これはリーディングに偏らない、「バランスの取れた指導・学習をすべし」という強力なメッセージとなるだろう。

駿台予備学校 英語科・斎藤 資晴

数学

1.前回の試行調査問題と比べて

・特徴的なのは記述式部分において、記述量が大幅に減少していることである。前回の記述式よりも答え方がシンプルになっている。それでも答え方に暖昧さが伴う問題がある。たとえば第2問[1] (う)については、「時刻」という表現がなくても「つねにS1S2S3」と答えれば正解とみなすことはできると思われるが、その点について解答結果の確認表には言及されていない。また、第1問[1] (あ)については"{ }"の記号を正しく記述せねばならないが、判読しにくい答案も現れる可能性があり、その場合の採点にはブレが生じる可能性もある。ただし、前回の試行調査よりも受験生は何らかの記述は出来そうな問題になっている点では改善がみられる。この程度でも普段の数学の学習に対する影響は大きいであろう。すなわち、普段から正確に記号を書いたり、日本語の言葉の細部にも留意して数学の内容を記述することなどが求められる点で良い影響を及ぼすであろうと思われる。

・問題自体はIA、IIBとも全体的に前回よりも良問が多く(一部例外はあるが)、よく練られている。そのためか、難易度は前回よりも若干下がって改善されたものの、現行のセンター試験に比べればやや難しくなっている。共通テスト移行期では難しく感じるのも仕方のない現象であり、この試験が継続されれば受験生は徐々に慣れていくものと思われる。

・問題文が相当改善され、前回よりも短めになり、読解しやすくなった。前回の試行調査は問題文を読むだけで疲れてしまうものが多かったが、今回はその点に相当の配慮があるといってよい。ただ、やはり現行のセンター試験に比較すれば問題文の長さは否めず、正確に問題文を読む読解力は現行よりも高いレベルを要求されている。また、前回のように会話文ばかりが目立つ問題文とはなっておらず、この点についてもよく工夫された問題文になっている。

・解答形式も、前回は選択肢を選ぶ問題が大部分であったのに対し、今回は選択肢以外にも計算して数値を答えさせる問いなどが含まれており、より数学らしさが前回よりも増しているのは好ましいことである。

・問題量に対する試験時間は前回同様、受験生にとって短いと感じられるのではないか。やや長い時間をとってじっくり取り組ませたい問題である。

・全体的には、前回よりも大幅に相当の工夫・改善が見られる。日常の事象に関連づけたり、対話的学習を促したりするような問題の作成を相当に意識していることがわかる。

2.高校教育との関係での学習上意識すべき点

・一部の問題には、高校において学習した題材であるか否かの経験の有無によって差がつきそうなものがある。授業での題材の選定もカギになるが、高校での学習にしっかり取り組むこともより一層大事になる。

・結果だけを求める学習ではなく、結果に至るプロセスを大切にする学習が重要になるが、これは駿台では従来から教育上配慮してきた点でもある。

・自分とは異なる見解や異なる意見にも耳を傾け自分の考えと比較する姿勢を重視する学習も重要になる。これは従来から別解研究や発展的な研究を通して数学では重視されてきたことである。

3.現在のセンター試験と比較して

・センター試験のような細かな誘導がないので、センター試験よりも構想力や発想力が必要とされ、数学の本当の力がセンター試験よりも充分試される問題となっている。

・その点では難易度はセンター試験よりもずっと高くなっており、現在のセンター試験で四苦八苦している受験生には高得点は望めない可能性が高い。それゆえ差がつきにくくなる可能性もある。数学を含めて読解力など総合力の高い一部の受験生には難なく解決できるので、そのようなレベルの受験生には相当有利に働き、そうでない受験生にはかなり厳しいかもしれない。

・制限時間をどのように設定するかによっても試作問題に対する評価は変わってくる。じっくり考える時間をもたせてあげれば良問といえるが、そうでないなら無理があるかもしれない。

駿台予備学校 数学科・小林 隆章

現代文

 前回(2017年)の試行調査と比較して現代文三題を概観すると、実用的文章の読解、複数テクストの統合・解釈、推論や具体例への適用といった応用的思考力などを問う方向は変わらないが、分量・難易度としてはかなり取り組みやすくなり、評論・小説では設問にも従来のセンター試験に近いものが見られた。受験生にとって無理のないものとなった一方、学力上位層では得点差がつかず学力弁別の点で問題が生じる可能性もある。実際の試験では、今回よりは難易度が上がることも想定すべきだろう。
 第1問の記述問題は、前回の実用的文章から、複数の論理的文章の組み合わせとなった。2018年の「共通テストにおける問題作成の方向性 」に示された通り、本番でも〈実用的文章〉〈論理的文章〉あるいは両者の組み合わせなど、様々な形での出題がなされるものと思われる。分量・設問内容ともに、前回に比べれば取り組みやすく、提示された解答や採点基準も受験生にとって無理のないものとなったが、一方で、深い思考力を問うより、短い時間でいかに情報を処理し記述できるかを試すものになりかねない危惧もある。今回一緒に発表された〈参考問題例〉も含め、①〈20~30字、40~50字、80字以上120字以内〉の3問で、②複数の文章・資料から、設問要求に応じて情報を取り出し関連づけ、推論や抽象化・具体化といった応用的思考を働かせて記述する、という形式はほぼ確定したものと見られる。
 第2問は、論理的文章に実用的文章を組み合わせた出題。第1問が論理的文章となった一方、第2問の問6で資料の実用的場面への応用設問が出題されたことは、現代文全体として何らかの形で実用的文章を出題する方針を示すものと考えられる。図表と本文との関連を問うのは前回に続く出題。問1の漢字、問5の表現の設問は、前回とは異なり従来のセンター試験に近いものとなった。しかし、傍線部の単なる解釈でなく、本文の論旨の把握を前提とする推論や抽象化・具体化といった応用的思考力を問う設問が主である点は一貫している。
 第3問は、センター試験および前回試行調査で出題された小説ではなく、詩人の詩とエッセイからの出題。2017年のマーク式モデル問題 (第3問に当たる問題として出題されたもの)は〈短歌を含む二つの文章〉であり、前回試行調査が〈原典とそれを基にした創作物語〉であったことも踏まえると、第3問は①文芸的文章の様々なジャンルから題材をとり②複数のテクストの関連を問う出題となることが予想される。問1の語句の意味、問6(ⅱ)の表現の設問は、前回とは異なり従来のセンター試験に近いものだが、問6(ⅰ)の表現の設問で修辞法を問われたのは目新しい。他の設問は、本文の記述の抽象化や具体化、文脈からの推論など、選択肢と本文との単なる照合にとどまらない思考力を試す、「大学入学共通テスト」全体の方針に沿った出題となっている。
 全体として、語彙力をはじめとする国語の知識、部分の文脈と全体の構成・論旨を把握する読解力といった、従来型の学力に加えて、複数の異なるテクストを比較・統合・解釈する力、具体と抽象との往復や、条件に即した推論といった応用的思考力・判断力と、それらを通じて得たものを適切に表現する(記述のみならず選択肢の表現に関する判断を含んだ)表現力という、大学入学共通テストが試そうとする力の方向性が示された問題だといえる。

駿台予備学校 現代文科・清水 正史

古文

<素材>

 昨年の試行調査と同様、複数の素材を分析・統合・評価させることを狙った出題(今回は古文+現代文<教師と生徒の会話+古文>の形)。柱となる古文は現行の大学入試センター試験よりやや短いものの十分に読み応えがある文章で、分量的にも内容的にも適切だったと思われる。また、昨年の試行調査同様有名作品からの出題(『源氏物語』「手習」)で、予備知識があれば断然有利となるが、普段の学習を大切するようにという受験生へのメッセージとなり、その点でも評価できる。

<問題の枠組み>

 最後の設問(問5)が複数テキストの統合・評価を狙った問題となっているが、他の設問を含めて昨年の試行調査に比べて思考の方向が拡散しないように工夫されており、設問に沿ってほぼ単線的に本文のテーマを考えていけるような作りになっている。その意味で、モデル問題例、昨年の試行調査に比べてやや大学入試センター試験寄りだが、その分受験生には取り組みやすくなっている。

<設問>

 設問数はモデル問題例、昨年の試行調査から1問減少して5問となった。設問の構成は大学入試センター試験の標準的なパターンとはやや異なり、語句解釈、本文の解釈にもとづく内容合致、文法を絡めた表現分析などを比較的短い選択肢で問うという方向性が見えてきた。知識をきちんと身につけた上で本文が正確に解釈できていなければ得点できないよう工夫されており、現行の大学入試センター試験に比べて学習到達度はより正確に測れるようになっている。

<評価>

 従来どおりの本文を精読するタイプの学習をきちんと積んでいるかどうかで得点が分かれるようになっていると思われるが、古典学習の意味を考えればその方向性は適切だと考える。複数の素材を統合・評価する力はやはり問われたが、問題の構成を柱となる古文の読解に中心化した分、昨年の試行調査より格段に取り組みやすくなっている。センター試験に代わる試験として妥当な線が出ていると評価できる。

駿台予備学校 古文科・松井 誠

漢文

 いずれも猿飼いと猿が登場する、『荘子』(現代語訳)と『郁離子』の文章を組み合わせた出題。複数の題材を組み合わせるのは、昨年度のプレテストと同様である。なお、この『郁離子』の文章は、駿台予備学校のセンター試験対策の講習テキストに収録されている。
 センター試験対策のテキストに使用されていることが端的に示しているように、『郁離子』の問題文としての性格や難易度は現行のセンター試験の傾向を踏襲したものとなっている。具体的には、明代という比較的新しい時代の文章であることと、逸話(寓話)と筆者の主張という二つの要素を含む文章である点で、『史記』を採用した昨年度よりも今年度の問題文の方が現行のセンター試験に近いと言うことができる。
 設問については、文脈における語句の意味、書き下し、解釈など、現行のセンター試験と同様の出題に加えて、生徒の対話による設問が出題され、『荘子』に基づく故事成語「朝三暮四」の意味および、『郁離子』の内容と筆者の主張が問われた。対話による設問は2010年度の追試験などに例があるが、新傾向を示すものだと考えられる。
 以上を要するに、今年度のプレテストは、従来のセンター試験の傾向を踏襲しつつ、題材の組み合わせ、対話による設問の二点に今後の傾向を示したものだと言える。既存のセンター試験対策と同様の学習をメインとしつつ、新傾向への対策を行うことが求められている。

駿台予備学校 漢文科・福田 忍

物理

物理基礎(50点)

 難易度は現行試験に比べやや難と思われる。考察問題の難度は現行試験よりも高い。
 大問数は3、設問数は11、解答数は15である(現行試験は大問数3、設問数13、解答数13)。設問数は減ってはいるが、解答数が増え、問題文が長くなっているものがあるため、実質的な分量としては現行試験に近いと思われる。
 解答時間は2科目で60分であり、時間配分は自由である。
 試行調査の特徴は、「物理」と同様に考察力を要する問題、実験問題が増加している点である。このため、特に第1問の小問集合の問題文が現行試験に比べて長くなっている。
 各大問の特徴を以下にまとめておく。
 第1問の問2は、弦楽器に関する考察の会話文の空所を埋める問題であり、現行試験にはないパターンである。
 第2問の問1、2(運動の問題)では、実験データを数値で与え、それから数値計算をする問題である。探究活動にあるような実験問題である。
 第3問は、「ケーキを焼く」という身近な話題をもとにした電気と熱の問題である。この問題は「理科総合」の過去問であるが、身近な物理現象を物理的に考える良問である。
 「物理基礎」は文系受験者が大半であるが、対策は「物理基礎」の教科書にある基本法則を身につけたうえで、まずは基本的な計算問題を確実に解く力を付けること。その上で日頃から興味をもっていろいろな身近な物理現象を物理的に考察することである。

物理(100点)

 全体の難易度としては現行試験の平均点に近くなると思われるが、物理的な洞察力が必要な難度が高い設問がある。
 大問数は4、設問数は19である(現行試験は解答大問数5、設問数22)。問題数は減ってはいるが、考察問題等の解答に時間を取られるため実質的な分量としては現行試験に近いと思われる。
 試行調査には現行試験にあるような選択問題がない。現行試験では原子分野は選択問題であるが、試行調査では原子分野は第1問の1設問として出題されている。
 第1問の問5では、E 8  9 ×10  10 eVのように空欄に入れる数値を答えさせる形式が採用されている。これは現行試験にはない。
 試行調査の内容面での特徴は、

・実験データを数値で与えてそれを読み取り、数値計算をする

・実験結果を考察する

・身近なテーマを素材として物理的に深く掘り下げる

・物理的な洞察力を要する難度の高い設問がある

である。これらについて以下具体的に示す。
 第2問は力学の衝突の問題である。問1、2は現行試験でも見られる出題パターンであるが、それに続く設問が考察力と洞察力をみる問題になっている。図1のような実験データを数値で与え、その結果を考察する生徒の会話文の空所を埋めるパターン(問3)は現行試験にはない。問5は物理的な洞察力を要する良問であり、かつ難度も高い。問5は物理の学力により大きく差がつくところである。問1、2は衝突の基本計算問題であるが、それをもとに問3、4、5で現象を掘り下げる展開となっており、問題構成はすばらしい。
 第3問ではせっけん膜による光の干渉の様子が写真で図1に示されている。この点も目新しい。また、第4問でエレキギターのイラストが示されている。いずれも身近なテーマを素材として物理の法則を考えさせる良問である。
 昨年度の試行調査と比べるとかなり洗練されている。このような問題を解くための指導法は、改めていうまでもなく物理法則の本質を受験生に理解させることである。また、受験生が興味をもつ素材を提示し、物理法則を通して考察する鍛練を積ませることである。
 大学入学共通テストでは、公式の暗記だけに頼るような受験生には太刀打ちできない問題が増加しそうである。

駿台予備学校 物理科・溝口 真己

化学

【化学基礎】

 解答数は現行のセンター試験と比べて減少しているが、分量が少ないという印象はなく、難易度もかなり上がった。飲料水に含まれる成分に関する考察や、塩素系の洗浄剤の成分の定量といった、身近な物質に関する実験をテーマとした問題が目を引いた。いずれも問題の内容を把握するために、化学基礎で学ぶ知識を前提とした読解力が必要である。応用問題への対策が不十分になりやすい文系の受験生にとってはかなり厳しいと思われる。

【化学】

 昨年度の試行調査と比較して、難易度・分量・特徴などについて大きな変化はなかった。現行のセンター試験に比べると、試行調査の問題はかなり難化している印象であるが、「科学的な探求の過程を重視する」という共通テストの方向性に沿った出題が多く、マーク式の解答でも十分な考察力を問えるように工夫されている。例えば、実験で得られたデータから方眼紙にグラフを作成し、作成したグラフをもとに結論を得る問題や、実験操作と結果に関する1、2ページ程度の文章を読んでから答える問題、教科書等で扱われない知識を、資料を読むことにより内容を把握し考察する問題など、今までのセンター試験には見られないタイプの出題が含まれている。高校過程で学ぶ基本概念や原理・法則が深く理解できているかどうかの差が、これらの問題での考察力や読解力に大きく影響すると思われる。日頃の学習を知識の丸暗記で済まさず、なぜそうなるのかといった考察や、実験を行う際は目的をしっかり考え、操作やデータの分析を行うといった、思考力を養うための学習の積み重ねが重要であることは間違いない。

駿台予備学校 化学科・黒澤 孝朋

生物

 今回の試行調査の生物は、昨年度のものとは異なり、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が目指す思考力の重視と選抜試験として適切な難易度の設定とを両立させる意図が明確に読み取れるものだった。
 問題量が減った上、問題ごとの負担に幅を持たせて全体の負担を減らしているので、きちんと学習している高校生が解ききれる分量になったと言える。具体的には、頁数で4頁減り(34頁から30頁)、文章量は大きく減少した。大問数は6から5へ、解答数は32から28へと減っている。
 各大問の配点が大きくばらつき、分野融合的な出題がなされたことは、今回の特徴と言ってよい。配点のばらつきが修正されるのかは不明だが、共通テストで分野融合的な出題がなされる点は間違いない。
 形式面では、組合せを選ぶ設問で部分点の設定があった点も特徴的であった。これは学力に応じた点数となる工夫であり、共通テストでも採用されると予想できる。
 生物を暗記科目ではなくすという共通テストの方向性が、名称を問う等の単純な知識問題を出題せず、知識を使って答える知識問題として出題する形で、今回も明確に示された。もちろん、知識を求めないのではなく、一問一答的に暗記する学習では太刀打ちできない知識問題が出題されるということである。
 今回は生物基礎も実施された。過去のセンター試験と大問数は同じ、問題の頁数も解答数もほぼ同じであった。会話形式や身近な話題(顕微鏡、糖尿病)など、共通テストの目指す方向性を色濃く反映していた。方向性に合わせ、空欄補充の問題では計算結果を求めていたが、結果によっては今回無くなった生物用語の補充が復活するかもしれない。過去のセンター試験と同じ内容の設問が複数あり、問題作成の手がかりを得る目的と解釈できる。つまり、こうした設問を、難易度を調整した上で出題するということであろう。

駿台予備学校 生物科・佐野 芳史

地学

地学基礎

 問題数は13、解答数は14と、センター試験(共に15)に比べて若干少なかったが、単なる知識問題ではない考察を行う必要のある問題がセンター試験に比べて若干多いため、試験時間に対しての問題量はおおよそ適当であると思われる。また、考察問題が増加したとはいえ、その難易度及び、それ以外の知識的な問題の難易度はセンター試験のレベルとほぼ同じであるため、大学入試センターが設定した平均得点率(5割程度)の問題としては妥当であると思われる。
 全体的に図等の資料を用いた問題がセンター試験に比べて多いことが、目につく特徴の一つである。とはいえ、地学基礎は図や表等の資料の意味を読み取ることが学習する上でのポイントの一つであるので、今までの勉強の仕方を特に変える必要があるわけではないだろう。そして、探究活動に関する問題(第2問、問2)が出題されたことが最も目につく特徴である。それは、「観察事実」と「考察で得られる事柄」を図から読み取り区別するという今までにないような問題であった。選択肢があるために、それほど難しい問題ではないが、この問題の意図は学校における探究活動の学習へのメッセージなのかもしれない。その他に過去の資料を使う問題(第2問、問5)も、様々な資料を活用するというメッセージなのかもしれない。下線部のないリード文を読み取り考察する問題(第3問、問1)も出題されたが、下線部がないために、文章中の重要な部分をより主体的に探す必要があるので、下線部のある問題に比べると、より文章の読解力が必要となる問題である。
 今回の試行調査の問題を見る限り、問題の出題のされ方がより主体的に取り組ませようとする形になって工夫はされているが、今までのセンター試験と比べてそれほど問題を解くための力は変わっていないと思われる。それは、そもそも地学基礎は図や表等の資料を読み取ることで理解を深めていく科目であり、大学入試センターが求める日常生活や社会と関連した内容の理解が多い科目であるからだろう。よって、表面的でない本質的に地学基礎を理解する学習をしているのであれば、共通テストにおいても高得点をとることはそれほど難しくないであろう。しかし、大学入試センターの問題作成の方向性がさらに進んだもの(より主体性を必要とし、より科学的で論理的な思考力を必要とするもの)になるものと想定して、日頃の地学基礎の学習方法もより主体的で、その内容を深く理解していく必要があるだろう。

地学

 問題数は28、解答数は30と、センター試験(共に30)とほぼ同じであった。単なる知識問題ではなく考察を行う必要のある問題がセンター試験に比べて多く、その問題の多くは図やグラフの読み取りを必要とするため、試験時間に対する問題量はやや多いと思われる。そして、考察問題の中にはセンター試験では出題されなかったタイプで、難易度がかなり高いものも含まれているため、大学入試センターが設定した平均得点率(5割程度)の問題としては難しすぎると考えられる。
 今回の試験の一番の特徴は、図やグラフ等の資料を読み取る考察問題が多いということだろう。また、探究活動に関連した問題が出題されたが、学習内容のつながりに関する問題(第1問A)が目新しく、地学では様々な事柄が関連しているということを意識した問題である。同様に探究活動に関連したものとしては、研究記録を記載するという形での研究の進め方に関する問題があった。その中には、仮説を立て、それを検証する方法について答える問題(第3問、問5)があり、受験生に主体的に考察をさせようと意図した問題として工夫されたものであるが、選択肢の問題でその意図を達成させるには課題が残ると感じた。考察問題では、教科書等に記載されていないグラフに関する問題が多く出題され、その場で考察する力がより重要視された。また、考察問題の中にはモデルを与え、そのモデルを更に発展させて考察をさせるという最難関国立大学で出題されるような、物理的考察を行う難易度の高い問題(第4問B)が出題された。
 地学はそもそも、物理、化学の基礎(基本的な概念や原理・法則などの深い理解)のもと、生物の内容も含めた総合的な科目であり、その理解のためには、図やグラフ等の資料に示された事物・現象を分析的、総合的に判断する訓練を必要とする。これは、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の問題作成の方向性で求められるものとほぼ一致する。そのため、共通テストで出題される問題は、地学の本質的な理解をしていれば解くことにそれほど苦労することはないと思われる。ただしこれは、地学の様々な現象を本質的に理解しようと努める勉強をしているものには当てはまるのであり、試験の点数をとるために表面的で暗記的な勉強の仕方をしている限り、8割を超えるような高得点はもちろんのこと5割程度の得点を獲得するのも、今まで以上に難しいであろう。

駿台予備学校 地学科・木村 修

日本史

 大問数は前回実施された試行調査と同じく6題、総問題数は3問増加して34問となった。(正解を2つ選ぶものが2問あるため、解答番号としては1から36まで)
 第1問が大きい時代区分をまたぐテーマ史、第2問が古代、第3問が中世、第4問が近世、第5・6問が近現代から出題された。
 前回の試行調査に続き、設問の半分以上が解答にあたって史料・写真・グラフなどの読み取りを必要とし、選択肢の中で取り上げられた歴史用語の数はセンター試験と比べて少なかった。歴史の転換・展開、因果関係を理解し、歴史事象を多面的・多角的に考察させようとする作問者の姿勢が今回も強くうかがえる。
 注目すべきことの一つとして、正解が複数ある問題や、正しい「評価と根拠の組み合わせ」を選ばせる問題が引き続き出題されたことが挙げられる。このことは、歴史事象の評価を多様に解釈できることをふまえ、学習することが要求されていることを示すものである。こうした学習は、学習指導要領でも強調されていることであり、新指導要領での科目「歴史総合」「日本史探究」も見据えたものと思われる。
 また、今回の試行調査では、受験生にとってなじみの薄いことを問う、難易度の高い問題の数は減少し、資料の読み取りも易しくなった。前回の試行調査で3問出されたカードを用いた問題は1問に減少し、その問題も、従来の4つの選択肢から正解を選ぶ問題と実質的に同様のものであった。他方、前回はなかった年代順配列問題が出題され、その形式は5つの事項を年代順に正しく配列したものを、6つの選択肢から選ぶものであった。
 総じていえば、前回の試行調査に現れた特徴は残しつつ、センター試験の出題傾向も多少踏まえた問題である。

駿台予備学校 日本史科・田部 圭史郎

世界史

 世界史は暗記物という「常識」がそのままでは通用しない試験が導入されようとしている。大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では、問題全体にわたって地図や図版、グラフや表、さらに資料(史料)などの歴史素材が多く用いられ、出来事の歴史的背景や判断の根拠まで問う傾向が強まるだろう。
 2回目となる今回の試行調査では、現行のセンター試験を継承した設問も2割程度あるが、解答は「語」選び中心から「文(もしくは語句)」選びへと重心が移動しており、また素材やリード文と関連させつつ、語・語句・文を相互に組合せる多様なアレンジが試みられている。なかには構成が複雑で、リード文から設問、選択肢までじっくり読まないと迷いそうな設問も散見される。
 学習指導要領における「接触と交流」を主題とした第1問は、地図を素材に人の移動という動向を示し、知識を時代縦断的・地域横断的に大きく扱う点で共通テストを象徴する問題である。また初見の資料を用いた問題が複数あり、資料から読み取れる情報を史実と照合して判断させる問題も目立つ。また授業場面を設定した第5問では、先生と生徒が資料を検討しながら(設問を交えつつ)歴史を深めるイメージが具体的に示されている。
 昨年度の第1回試行調査よりやや易化したと思われるが、平均点は現行のセンター試験より相当下がることが予想される。また共通テストでは思考力・判断力の重視が打ち出されているが、これらの力は一定量以上の知識があって可能なのであり、基本的知識を習得する体系的な学習が軽視されてはならないだろう。

駿台予備学校 世界史科・天谷 進

地理

 出題内容は現行のセンター試験とほぼ同じであるが、出題形式は変更されていることから受験生には「問題慣れ」が必要となる。
 出題形式の変更点として、地誌に関する大問が1題減少し、総大問数は6題から5題に、総小問数は35題から30題に減少した(ただし第2回試行調査では解答数は32個)。これにより平均点が例年低かった地誌の比重は低下した。しかし、大学入学共通テストでは平均点の設定が現行のセンター試験の60点程度から50点程度に引き下げられているため、出題の工夫によって難易度は上昇している。
 具体的には、これまで以上に複数の資料(図・表,地図など)を比較・分析しなければならない問題や、「調査学習」の手法を提示した解説文や会話文を多用し、その中で文を補充させる問題などが出題され、高度な資料分析力や論理的思考力、読解力が求められるようになっている。また、組合せ問題が大幅に増加し、その中には8択の文正誤問題なども新たに登場している。第1回の試行調査で出題された「すべて選べ」という問題は無くなったが、1つの小問で2つの正解を選ばせる問題が2題出題された。1題あたりの解答に以前よりも時間を要するようになった。この他にも地誌の問題数が減少した代わりに、様々な地図(位置図や統計地図)を多用し、自然地物や国、都市の空間的位置が把握できていないと、正解にたどり着けない問題が増えている。

駿台予備学校 地理科・宇野 仙

政治・経済

 従来のセンター試験と同様に全4題であり、マーク解答数は4問少ない30問であったが、資料の読解・分析、事例の考察などに時間を要する設問が大幅に増えており、生徒にとってボリューム感はかなり重くなった。高い学力をもつ生徒であっても制限時間(60分)内にすべての設問にきちんと解答できる者は多くないと思われる。
 これまでのセンター試験と同様、試行調査においても「政治・経済」で学ぶべき内容を網羅的に出題しており、正解を得るために必要な知識は高校教科書の範囲を逸脱するものはみられない。
 しかし、出題形式はセンター試験とは大きく異なっている。センター試験では、大問ごとに特定のテーマの問題文が示され、その文中の下線部に関する知識を問う設問が出題されてきたが、試行調査では大問ごとの問題文はなく、設問ごとにそれぞれの出題テーマが示されている。また、センター試験では正誤選択の4択形式の設問が多くを占めたが、試行調査では大幅に減少し、語句や文章の正しい組合せを答える形式の設問が中心となっている。なかでも生徒の会話や意見を示し、それを基に考察する設問は、従来のセンター試験には見られなかった新タイプのものである。さらに、グラフ・図表などの資料が示されている設問が多くを占めているが、センター試験のようにグラフ・図表から読み取れることの正誤を問うのではなく、それぞれのグラフ・図表の意味を理解したうえで、そこから読み取れる内容を事例に当てはめて考察するなど、生徒にとってはかなり手間がかかる設問となっている。
 新学習指導要領では「政治・経済」の目標として「情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能」、「議論し公正に判断して、合意形成や社会参画に向かう力」などを育成することを掲げている。上で述べた試行調査の出題形式は、この目標を強く反映したものと言えよう。

駿台予備学校 政経科・高家 弘行

倫理

 センター試験の倫理では、読解問題、表・グラフ・原典資料の読み取り問題、知識と思考力を共に問う問題等がかなり前から出題されており、大学入学共通テストの実施が決定されてからは、新テストの特徴とされる「正しいものを全て選ぶ問題」「複数の事項を組み合わせて数多くの選択肢を設けた問題」等も先行して出題されてきた。
 その『従来のセンター試験の倫理』を基準に考えても、今回の試行調査の問題形式は新しい。特筆すべきことは「複数の設問が連動する問題」が出題されたことである。一つ一つの思想について深く多面的な理解が問われる上に、連動する複数の設問のうち一つだけ解答を誤った場合であっても得点を失う恐れがある。また、「複数の宗教を比較し、相違点と共通点を問う問題」も出題され、個々の宗教の本質についての厳密な理解が問われた。
 「絵や写真を用いた問題」、「教科書の範囲内の知識に基づき、その範囲を越えた事項について考える問題」は、以前に出題されたことはあったが、その数が増えて難度も高くなった。
 こうした変化は、『知識および技能や、思考力・判断力・表現力を発揮して解く』という大学入学共通テストの方針を良く反映している。もともと倫理は、論理的・抽象的思考力を駆使しなければ教科書の内容理解が難しい科目と言える為、今回の試行調査のような出題は、倫理の実力を計る上で有効なものだと言えよう。

駿台予備学校 倫理科・岩本 佳久

現代社会

 従来のセンター試験が全6題36設問であるのに対し、試行調査は全6題33設問であり設問数はわずかに減少したが、総ページ数はセンター試験よりも5割近く増加しているうえ、解答に時間を要する問題が多くを占めており、学力が高い生徒でも制限時間(60分)で最後までたどり着くことは容易でないと思われる。
 出題形式についてもセンター試験とは大きく異なっている。センター試験では、大問ごとに示された問題文もしくは会話文に下線が付され、それに関連する設問が列挙されていたが、試行調査では、第5問のみがこの形式であり、それ以外の大問は設問ごとにテーマが示されている。また、センター試験で大半を占めた四択問題が減少し、組合せ問題が増えており、四択問題においても単純な正誤判定は少なく、読解力や考察力などを要するものとなっている。
 出題範囲は「現代社会」で学ぶべき内容を逸脱することなく、高校教科書の記述を踏まえたものといえるが、センター試験とは異なり、多くの設問において読解力、資料分析力、考察力などが求められている。二つの考え方のうちいずれかを任意に選び、それに該当する選択肢を選ぶ設問、ある考え方に立った具体的な政策を選ぶ設問、会話文中の複数の空欄に該当する文章の組合せを選ぶ設問、課題を探求するために必要な複数の資料の組合せを選ぶ設問などは、従来のセンター試験には見られないタイプのもので、丸暗記型の学習では正解を選ぶことが困難な問題を出題しようという意図が強く感じられる。
 新学習指導要領では「現代社会」に代わる科目として「公共」が設けられるが、「公共」の目標として「情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能」、「事実を基に多面的・多角的に考察し公正に判断する力」などを育成することが掲げられている。上で述べた試行調査の出題形式は、この目標を先取りしたものとも言えよう。

駿台予備学校 政経科・高家 弘行