数学

1.試行調査記述式問題の結果について

記述式問題は数学ⅠAの共通問題において3問の小設問(あ)(い)(う)として出題され、その正答率は(あ)が5.8%、(い)が10.9%、(う)が3.4%であった。この割合は共通テストが目標として設定する"5割程度"には遠く及ばない極めて低い得点率であると言わざるを得ない。

(あ)は言葉で表現された集合の包含関係を数学の記号で言い換える問題、(い)は問題解決のための不等式を三角比を用いて記述する問題、(う)は動点で作られる三角形の面積について時間的変化の様子を記述する問題であり、前者2つは数式の記述、3つ目は短文の記述である。難易度はどれも高くなく、記号の使い方の記述、条件の不等式による記述、解決過程を振り返る記述として、どれも数学的表現力を試す適切なレベルの問題であるといってよい。

特に(あ)は単純な言い換えであるにも関わらず、(い)よりも正答率が低いことが特徴的である。これは誤答率と無解答率をみると、その要因を推測できる。すなわち、(あ)は誤答率が76.9%、無解答率が17.3%であるのに対し、(い)は誤答率が44.5%、無解答率が44.5%となっており、(あ)は問題がシンプルであるだけに何らかの記述がしやすい問題だが誤りを犯しやすい問題であるのに対し、(い)は問題内容がわかっていなければ記述そのものができないタイプの問題であったということが考えられる。そして、(あ)の誤りが多いことは、日頃から記号の使い方・書き方に無頓着であることが推測できる。(い)については事象の数学化を独力で行うことに習熟していない受検者が非常に多いと考えられる。

また、(う)については無解答率が62.0%と高いことからわかるように、そもそも手を付けない受検者が多かったのであり、問題解決の方略等を端的な短い文で記述するタイプの問題には、受検者は慣れていないことが推測できる。

2.試行調査記述式問題に対する大学入試センターの分析について

上記のような結果に対して、大学入試センターは、

  • ① 3問とも正答率は低かったが、有識者の意見を踏まえると、数式の記述問題(←(あ)(い)の設問と想定される)の難易度はそれほど高くない
  • ② 記述式問題の難易度そのものよりも、マーク式問題も含めた全体の分量と試験時間のバランスが影響した
  • ③ マーク式と記述式が混在するため、記述式問題単独での難易度ではなく、問題全体の中で難易度を考える必要がある
  • ④ マーク式の設問の正答率も約9割程度から約1割程度と幅広いことから、記述式問題は試行調査と同程度の問題を念頭におきつつ、全体の難易度や解答に要する時間等を配慮して作問していくことにする
  • ⑤ 正答の記述量に対して解答欄が広かったため、解答欄に記述すべき内容について受検者が混乱した可能性があるため、解答欄の大きさを変更するとともに解答すべき内容が受検者にわかりやすくなるよう問い方のさらなる工夫などを行う

と分析している。

①は、設問(あ)(い)のことを想定しているのだとすれば、的を射ているといえよう。しかし、②については分量とバランスの影響があるのは確かであるとしても、マーク式の問題を減らせば記述式の正答率が上昇する、あるいは試験時間を増やせば記述式の正答率が上昇する、とは単純にはいえないであろう。③、④の分析は極めて正当なものであるが、②については、現在の高校生・受験生の数学に対する取り組み方が大いに影響しているのであり、それは従来の試験形式がその根源になっているといえよう。それゆえ、④の指摘にあるように試行調査と同程度の難易度を念頭に置き、記述式問題もこの程度を出題し続ければ、やがてはそれが高校数学との取り組み方に影響を及ぼし、正答率もこの問題のレベルであれば5割近くに達していくのではないだろうか。このような観点からであれば、今回の分析は非常によくなされているといえよう。なお、⑤については解答欄の大きさが記述の分量の目安になり、したがってヒントにもなるという弊害がありそうである。マーク式解答欄の記号の個数がそうであるように、記述式でも同様のことが起こるとすればかえって改悪になる可能性がある。問い方のさらなる工夫を行うことは当然として、解答欄の大きさのような形式上の配慮は思考力・判断力・表現力を試そうとする共通テストの趣旨に合わず無用であるといえよう。

3.記述式問題からみる共通テストの展望について

共通テストの実施が確定的であるとすれば、より良いテストにしていくことが最重要課題である。現在のセンター試験も長い年月を経て相当に工夫されてきているが、それに加えて記述式を加えた新たなテスト形式にするということは、センター試験よりも構想力や発想力が必要とされ、数学の本当の力がセンター試験よりも充分試される問題となりそうである。

駿台予備学校 数学科・小林 隆章

現代文

全体として、大学入試センターが想定していた目標におおむね沿う結果だといえる。

A~Eの総合段階による全体の成績は、一般的な換算方法で得点化すると、平均得点率がおよそ5割弱になるものと考えられる。前回(2017年)の試行調査では、特に問3の120字記述の正答率の低さが課題となっていたが、今回はそれも改善されており、全体として大学入試センターの目標値に近い結果となった。したがって、本番では、全体の分量・難易度ともに、今回の問題を標準とした出題(または、今回の受験者は高2生が多かったこと、本番に向けて受験生が演習を重ねることを踏まえて、今回より若干難しめの出題)となるものと考えられる。

また、A~Eの各段階の人数の割合も、上下いずれかに偏って差がつかないということはなく、ある程度散らばりのある分布となっている。これは、問1、問2を易しめに、問3をそれなりの難度にし、それらの組み合わせで成績差をつけていくという作題方針によるものだと考えられ、本番でもおおむねこの方針がとられるものと思われる。受験生の側からいえば、問1、問2を確実におさえた上で、問3でどの程度上積みできるかが成績段階を分ける、ということになるだろう。

一方で今回の問題は、前回の試行調査と比べても、文章(資料)の要点把握の度合いや、解答に必要な内容を探したりまとめたりする際の観点などにおいて、より表面的で単純な設問になってしまっている感は否めない。今回の結果報告の〈有識者コメント〉にもあるように、この試験における成績分布が、真の意味で〈思考力・判断力・表現力〉の質を問う設問となりえているのかについては、疑問の余地がある。大学入試センター側には一層の工夫を望みたいところである。

なお、採点基準について、今回の結果報告で紹介されている「正答の条件を満たしていない解答」の例からも、採点に際して、公表されているものより詳細な採点基準が設けられていることがわかる。受験生は、出願に当たって自己採点を行わなければならないので、どの程度の解答が許容範囲であるかの目安について、模擬試験や問題演習などを通じて練習を重ねておく必要があると思われる。

駿台予備学校 現代文科・清水 正史