2019年度入試
出題分析と入試対策
  東京大学 数学(理系)

過去の出題内容

2019年度

第1問 与えられた定積分を求める。
第2問 正方形の辺上の3動点が“面積一定”の条件を満たしながら動くときの2線分の長さの比の最大値・最小値を求める。(理文類似の問題)
第3問 座標空間内の八面体の平面による切り口が八角形となる条件を求め、そのyz平面上への正射影の一部の面積を求める。
第4問 整数n2+1と5n2+9の最大公約数を求め、2つの整数の積が整数の2乗にならないことを証明する。
第5問 方程式の実数解として定められる数列がただ一つ存在することを証明し、その数列に関する極限を求める。
第6問

相異なる4解をもち2解ずつの積の和が純虚数であるような4次方

程式の2解の和が複素数平面上で動く範囲を求める。

2018年度

第1問 の増減表をつくり、定義域の端点における極限を調べる。
第2問 で定められる数列が整数となる自然数nを求める。(理文類似の問題)
第3問 2 つの動点からベクトルを用いて定められる点が動く領域の面積と、その極限を求める。
(理文類似の問題)
第4問 3次方程式が相異なる3実数解をもち、真ん中の解が1より大きい条件を求める。
(理文類似の問題)
第5問 複素数平面において、円の接線に関する対称点を求め、その点から定まる点の軌跡を求める。
第6問 座標空間において、折れ線上を球の中心が動くときに球が通過する部分の体積を求める。

2017年度

第1問 θの関数をcosθの整式で表し、最小値0をとるための条件を求める。
第2問 座標平面上の原点から出発してランダムウォークする動点が6秒後に特定の位置にある確率を求める。
(理文類似の問題)
第3問 複素数平面上の変換による直線及び線分の像を求める。
第4問 与えられた数式が満たす3項間漸化式を求め、自然数の列であることを論証し、隣接2項の最大公約数を求める。
(理文共通の問題)
第5問 直線y=xに関して対称な2つの放物線の共通接線が3本あることを証明する。
第6問 ある条件を満たしながら座標空間内を動く正三角形の一辺が通過しうる範囲の体積を求める。

2016年度

第1問 自然対数の底eを上下から評価する不等式を証明する。
第2問 巴戦で戦う3チームのうち特定のチームが2連勝して優勝する確率を求める。
(理文類似の問題)
第3問 z軸上の1点を通る3直線とxy平面の交点を3頂点とする三角形の面積の最小値を求める。
第4問 複素数平面上の3点が鋭角三角形の頂点をなす条件を求め、複素数平面上に図示する。
第5問 正の整数の正の平方根の小数部分に関して、いくつかのことを論証する。
第6問 z軸上の定点を通り、xy平面上に一端をおく長さ2の線分が通過してできる立体のうち一部分の体積を求める。

2015年度

第1問 正のパラメタaを含む2次関数で表される放物線の通過領域を求める。
第2問 AA、B、C、Dの各文字を確率的につなげてできる文字列に関する確率を求める。
(理文類似の問題)
第3問 べき関数と対数関数で表される2曲線の共有点が1点のみの条件を求め、回転体の体積を計算する。
第4問 非線型3項間漸化式で定められる数列に関し、いくつかの性質を証明する。
第5問 2015Cmが偶数となる最小の正整数m(≦2015)を求める。
第6問 特殊な関数を用いて表される定積分を評価し、それが利用できる形に帰着させて数列の極限を求める。

2014年度

第1問 平面による四角柱の切り口の面積を求め、tanαとtanβの対称式からtanα+tanβ、tanαの値を求める。
第2問 ある操作を繰り返して、n回目に赤球が取り出される確率を求め、それを用いて極限を計算する。
(一部理文共通の問題)
第3問 2つの放物線が共有点をもつ条件を求め、共有点(x1,y1)、(x2,y2)について2|x1y2-x2y1|を計算し、それを共有点をもつ範囲で定積分する。
第4問 関数を評価して漸化式で定められる数列の極限値を証明することと、方程式の解の存在を証明する。
第5問 非線型3項間漸化式で定められる整数を素数で割った余りの数列に関して、いくつかの性質を証明する。
(一部理文共通の問題)
第6問 2つの線分上に両端を置きながら動く線分の通過領域を求め、図示する。
(理文類似の問題)

2013年度

第1問 回転拡大の1次変換で定められる平面上の点列{Pn}が、P0=P6かつPk(k=0,1,2,3,4,5)は相異なるように、変換の条件を定める。
第2問 2つの関数のグラフがx>0においてちょうど3つの共有点を持つような文字定数aの条件を求める。
第3問 2人のうち一方がコインを投げ、表裏によって1点を獲得するか相手にコインを渡し、先に2点獲得すれば勝者となるゲームにおいて、勝者となる確率を求める。
(一部理文共通の問題)
第4問 直角三角形の内部の点Pから3つの頂点に向かう単位ベクトルの和がゼロベクトルであるとき、2つずつのベクトルのなす角と点Pの位置を求める。
第5問 連続する3つの自然数の積で表され、1が連続して99回以上現れるところがあるような自然数が存在することを証明する。
第6問 正方形の周と内部をSとして、Sの2つの対角線をそれぞれ軸として回転してできる2つの立体の共通部分の体積を求める

2012年度

第1問 原点を通る直線と円の弓形領域との共通部分の線分の長さの最大値とそのときの方向角の余弦の値を求める。
第2問 正三角形を分割してできる9つの部屋を1秒ごとに移動するときの、n秒後に特定の部屋にある確率を求める。
(理文共通の問題)
第3問 放物線と楕円で囲まれる領域をx軸のまわりとy軸のまわりに回転してできる立体の体積をそれぞれ求め、その大小を比べる。
第4問 連続する2個の自然数の積と連続するn個の自然数の積がともにn乗数ではないことを論証する。
第5問 行列式が ±1であるような整数成分の2次行列について、いくつかの性質を論証し、絶対値のついた不等式を証明する。
第6問 変数を含む特別な形をした行列のトレース(対角和)についてその最大値を求め、さらにその最大値を含む絶対不等式を証明する。

2011年度

第1問 円の中心、および、円と直線の2交点とで作られる三角形の面積が最大となるときの直線の傾きを求める。
第2問 逆数の小数部分の作る数列について、主に定数数列となる条件を求め、初項が有理数の小数部分の場合に途中から0になることを論証する。
(理文一部共通の問題)
第3問 曲線を媒介変数表示して、曲線の長さを表す定積分を計算し、極限を求める。
第4問 放物線上に頂点をもつ二等辺三角形の底辺の両端が動くときの、重心の軌跡を求める。
(理文共通の問題)
第5問 ある不等式の条件を満たす整数の組を(pq)パターンと呼び、それがある特定の条件を満たすときの個数を求める。
(理文一部共通の問題)
第6問 2次関数の最大値と最小値の差を求め、それに関連する条件を満たす領域を図示し、さらにある条件を満たす立体の体積を求める。

2010年度

第1問 直方体の90°回転による通過点全体の体積と、3辺の和が1のときの体積の値域を求める。
第2問 で評価し、で評価する。
第3問 2つの箱の間でボールを移動する操作をくり返した後の確率について、漸化式を作り確率を求める。
(理文一部共通の問題)
第4問 曲線の弧と、その両端と原点を結ぶ線分とで囲まれる部分の面積を求める。
第5問 円周上を一定の速さで動く3点が直角二等辺三角形を作る条件を求める。
(理文共通の問題)
第6問 4つの面がすべて合同な四面体の、1つの面に垂直な平面による断面積とその最大値を求める。

出題分析

分量とパターン

例年、6題出題されており、すべて論述式問題である。解答用紙は2枚で、第1、2、4、5問が2枚の表面、第3、6問がそれぞれの裏面である。第3、6問は、他の問題の2倍のスペースがある。今年度は、6題中4題が(1)、(2)等の小設問に分かれており、小設問に分かれた問題が、昨年度よりも減少した。

内容

ここ数年の問題について、いくつか目立つ点を挙げておく。
① 他大学に比べ、図形、とくに立体図形に関連する問題が多く出題される。
② 平面座標・空間座標と微積分の関連する問題も、ほとんど毎年出ている。
③ 確率と数列、数列と極限など、複数の単元に渡る内容の問題がよく出る。
④ 整数に関する問題、不等式による評価など、論証力を重視する出題が多い。
⑤ 確率・複素数平面分野と数学Ⅲの微積分野の問題はほぼ必ず出題される。
19年度は、確率の問題が出題されなかったことを除けば、上の特徴を堅持している。
過去に遡って論評すると、94、95、97年度は、東大の入試がそれ以前の特徴を薄め、ふつうの入試問題に近づいているかのような様子を示していたのに対し、96、98、99、00年度は手強い問題が多く、再び以前の東大らしさが戻ってきた感が強かった。しかし、01、02年度には超難問は姿を消し、03、04、05、06、07年度も、ある程度高いレベルにあるものの、超難問と言えるものはないとともに、極端に易しい問題も姿を消し、どの問題のレベルも均一化された感じになった。ところが、08、09年度は、本格的な立体図形の問題や整数問題、評価の問題が見られるなど、重量感があり、難化の方向への"揺り戻し"が感じられ、10、11、12、13年度は、難化のレベルを維持し、"揺り戻し"を強める一方で、4~5題を小設問に分けるようになった。
14、15年度の問題は図形的考察を要する問題が例年よりやや少ないものの、定石的な問題、数学的解釈力や対称性・周期性など着想がカギになる問題等、東大らしさが随所に現れている。12年度のように計算する問題が多いセットと似ている点もあり、13年度のような重量級の問題セットとは様相を異にしている。問題間の難易差が明確でどの問題を解くべきかの見極めが重要になるという点では12年度、13年度と同様であった。
16年度は、前半3題が解きやすく、後半3題が解きにくいセットで、全体的にここ数年ではやや易しくなったが小設問に分かれている問題が2題と減少したため、数学の実力差が得点差に反映されやすかった。
しかし、17年度は様相が一変した。全問とも小設問に分かれた取り組みやすい問題ばかりであり、問題間の難易差もほとんどなく、全体的に東大としては極めて易しいといってよい。数学での高得点を前提に、他教科もソツなく得点することが必要である。数学が弱い受験生は相当に苦戦させられるセットであった。
18年度は、17年度と打って変わり、例年通りの難易度に戻った。半数の問題は小設問に分かれているが、残り半数の問題は小設問に分かれていないため、自力で問題を解決する力も要求され、実力差がはっきりとするセットであった。
そして19年度も18年度の難度をさらに高め、再び"揺り戻し"を強めている。ただし、問題間の難易差が比較的明確であり、その判断力も試験場で試されるセットであるといえよう。日頃の学習において、誘導に頼りすぎず、自分の手と頭でしっかりと問題に取り組むことが重要である。

難易度

ここ数年の出題を難易度の面から見ると、
(易しい問題)1~2題+(標準的な問題)2~3題+(難しい問題)1~2題というのが平均であろう。
2019年は、
易しい問題……第1問
標準的問題……第2問、第4問第3問、
やや難しい問題……第3問、第5問、第6問
というのが平均的受験生の感覚であろう。

入試対策

分析の結果から、高校の教科書の各章をしっかり勉強するだけでなく、
中学で学んだ図形の知識のうち、大学入試にも役立つような事項
・ 教科書の章別ではとり上げる機会が少なく弱点になっている事項
・ 教科書ではいくつかの章にまたがるため、学習がおろそかな事項
・ 毎年のように出題される空間・平面図形とその体積・面積の問題
などを積極的に研究しておくのも、重要な対策の一つである。
表現力・論証力をつけるために、問題を解くときには、
答を出すだけではなくて、論理的構成がはっきりするように書く
ということを平素から実行していなければならない。特に、近年証明問題は必ず出題され、数学の内容を日本語の文章として正しく述べることができるか否かも重視されている。
3° 問題の難易度は毎年一定とは限らない。
難しい問題が多ければ、各自の得点とともに平均点も下がることになる。したがって、完答できる問題が少なくてもあわててはいけない。自分のわかったところまでを明確に書いて、そこまでの部分点を確保することを心掛けるのがよい。むしろ大切なのは、易しい問題を確実にものにすることである。ここでつまらぬ失敗をすると、正解に達する人が多いために、かなりの差をつけられてしまう。特に(1)、(2)等の小設問に分かれている場合、小設問ごとに得点できそうか否かの検討も大切になってくる。結局、"難しくてもあせらず、易しくてもあなどらず"、自分の力を出し切るようにするのが重要な対策である。理系志望であるからには、数学6題のうち
<3題分の完答、残り3題分中の部分点確保>
を努力目標としてがんばりたい。
4° 正統的な数学の学習をしよう。
たとえば、99年度の第1問のような三角関数を正しく学んでいれば"できて当然"の問題や、02年度の第4問、第5問、08年度の第4問、12年度第3問、17年度第1問、第3問(1)、18年度第1問、19年度第1問のような教科書レベルの問題、09年度の第3問や10年度第6問(1)、11年度第6問(1)、17年度第4問(1)、(2)、(3)のようなセンターレベルの問題、03年度の第6問や04年度の第5問(2)の「円周率」という基本用語の根本理解に関する問題などは、解法テクニックの習得一辺倒の受験対策に対する、大学側からの警鐘といえるだろう。これに限らず東大の問題は、問題文の「数学的読解」と「数学的構成手法や概念の理解」をベースにして、「その場で自力解決できる能力」を鍛えること、換言すれば、小手先の技術ではなく、「本格的な実力」の養成を図ることが、最も重要な対策であることを示しているといえる。したがって、出そうな問題だけを反復練習したり、問題や解き方を無闇に丸暗記するのではなく、上に記したような総合的観点のもとで、深い考察を積み重ねつつ、本質をつかみとる読解力、思考力と精密な論述力・計算力を、演習を通じて鍛えていくことが重要である。
過去の東大入試問題の徹底的な研究は、最良の対策である。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。