2019年度入試
出題分析と入試対策
  東京大学 物理

過去の出題内容

2019年度

番号 項目 内容
1 力学 一定な加速度運動する台車の上にあるばねつき物体の運動を調べる。一定でない加速度運動する台車に取り付けた倒立振子の運動、台車の運動を調べる。
2 電磁気 電気容量と電気抵抗をもつ素子に、直流電源、抵抗、交流電源を接続したとき、その素子に流れる電流を求める。交流ブリッジ回路を用いて、この素子の誘電率と電気抵抗率を求める。
3 波動 球面による光の屈折の公式を導く。その結果を用いて、屈折率の異なる媒質中を通過する光の伝わり方を考察する。

2018年度

番号 項目 内容
1 力学 振り子を取り付けられた台が床上を運動する。まず、台が自由に動くようにしたときの振り子の運動を調べる。つぎに、台に力を加えて一定加速度で運動させたとき、その力がした仕事、およびその力の時間変化を求める。
2 電磁気 複数枚の金属板を帯電させる。そのうちの一枚にばねを取り付けて振動させ、その振動周期を求める。
3 三本の円柱容器の下部を細管でつなぎ、容器内に液体を入れる。そのうちの一本の容器に入れた気体に熱を加え、その状態変化について調べる。

2017年度

番号 項目 内容
1 力学 直方体の積木をばねにつないで鉛直方向に単振動させる。一部だけに摩擦のある水平面に積木を置いて斜面に置いたもう一つの積木と糸でつないで放すと単振動する。積木を重ねて積んで、下の一つ、あるいは二つだけを引き抜く。
2 電磁気 導体ブランコを一様磁場中に吊しておく。ブランコに電源をつないでいない場合にどのようなことが起きるかを問題で与えておき、それをもとに、直流電源をつないだ場合、交流電源をつないだ場合について考察する。
3 二つの可動なピストンでシリンダー内を二つの部屋に分け気体を入れる。その気体の状態変化。

2016年度

番号 項目 内容
1 力学 二つの小球を同じ高さで鉛直方向に並べてから放す。一方が床に衝突した直後に他方と衝突する。二球が自由に運動できる場合、二球の間を伸びない糸でつないだ場合、二球の間をゴムひもでつないだ場合、それぞれについて二球の衝突後の運動を調べる。
2 電磁気 RLC直列共振回路。共振の半値幅を測定してコイルの自己インダクタンスを求める。一定な磁場と回転する電場中での荷電粒子の運動。共振の半値幅を測定して荷電粒子の質量を求める。前半と後半のテーマは共通であるが、それぞれは独立した設問。
3 波動 水深が異なる二つの領域がある。一方の領域にある波源で発生した水面波が領域の境界で反射、屈折する。後半は波源が動く。

2015年度

番号 項目 内容
1 力学 二つの小球をひもでつなぎ水平にして、一方を固定して他方を放す。ひもが鉛直になったときに固定していた小球を放すと、二球は等加速度で落下する重心のまわりを等速円運動する。
2 電磁気 磁場中に傾きのある二本の平行レールを設置し、その上に複数本の導体棒を固定する。そのうちの一本、あるいは複数本の固定をはずして導体棒を運動させる。
3 気体を入れた容器を水に浮かべる。容器中の気体の状態変化、および容器の運動。

2014年度

番号 項目 内容
1 力学 斜面に沿った単振動および、投げ出された後の小物体の放物運動。投げ出された地点と同じ高さに戻るまでの水平移動距離が最大となる斜面の傾きを求めたい。
2 電磁気 太陽電池にコンデンサーや抵抗をつなげた回路。流れる電流等を回路の方程式に基づいて考察する。
3 波動 回折レンズを、平行なスリットに置き換えて考える。光の強度やエネルギーについては空所を補充して文章を完成させる。

2013年度

番号 項目 内容
1 力学 各々が個別にばねに接続された質量の等しい二球を衝突させる。さらに、床面に摩擦がある場合について衝突するための条件を求める。
2 電磁気 緩やかな勾配をもつ磁場領域に質量の異なる二つの荷電粒子を入射し、それらを一点に収束させる。磁気レンズの原理。
3 波動 二層構造の固体表面から縦波を入射する。層の境界で生じた縦波、横波、それぞれの反射角と屈折角をホイヘンスの原理を用いて求める。

2012年度

番号 項目 内容
1 力学 高低差のある二つの水平面HとLがある。この面上を運動する二つの小球が弾性衝突する。運動量保存則、エネルギー保存則が成り立つ。
2 電磁気 磁場中を導体でできた正方形の回路が動く。回路に流れる電流、回路に働く力を求める。
3 波動 二つのスリットによる光の干渉を利用して、気体の屈折率を測定する。

2011年度

番号 項目 内容
1 力学 棒に二物体をつなぎ、棒を鉛直に立てて、下の物体を壁に接触させておく。上の物体を放すと、上の物体が床に着く前に、下の物体は壁から離れ、二物体は床上を運動する。
2 電磁気 コンデンサーとダイオードを含む直流回路。コンデンサーとダイオードを多段で接続して高電圧を得る。
3 ピストンの上に液体を載せて気体に熱を加える。はじめ圧力は一定、途中から圧力は一定な割合で減少する。ピストンがある高さを超すと、ピストンは一気に上昇するようになる。そのときのピストンの高さを求める。

2010年度

番号 項目 内容
1 力学 宙返りするジェットコースターの模型。初期条件を変えて軌道上を動く車両が途中で線路から離れない条件を求める。
2 電磁気 複数の抵抗がある直流電源回路を流れる電流を求める。
また、回路の一部分にある導体棒が磁場中を動くとき、導体棒に生じる誘導起電力を考慮に入れて、回路のある部分に流れる電流が0となるような棒の速さを求める。
3 波動 両端が開いた管、片方だけ閉じた管について共鳴する振動数を答える。また、両端が閉じた管について、共鳴した振動数を測定し、そのことから音速を求める。さらに、ドップラー効果によるうなりの振動数を観測して動く音源の速さを求める。

出題分析

分量

理科4科目にそれぞれ3問用意され、あらかじめ届け出た2科目の計6問を150分で解く。平均すれば、1問あたり25分、1科目あたり75分。青本では以前「1問がきっちり見開き2ページに収まっていて、分量は75分で解くのに適切」としていたが、近年はそうでもない。2015年、2016年は問題の難易度が高い上に分量が多く、かなり優秀な学生でも75分で全問を解答するのは難しかった。2017年は、一転して易化、分量も減り75分では時間を持て余すくらいであった。2018年は、再び分量が増加し、問題文を読む、解答を書くのに時間がかかる問題であった。2019年も、さらに分量は増加し、一つ一つの設問も手強いものが多く、難しい試験であった。しかし、こういう変化への対応も学力の一部である。試験会場では、理科2科目6問の問題を見渡し、自分の力であればどれくらいの解答を書けるか予想して試験に取り組み、その中で最大限の力を発揮できるような学力をつけることが大事である。

パターン

3問それぞれに大設問I、II、III、IV、……が並び、その下に小設問(1)、(2)、(3)、……がつく。解答用紙はまったくの白紙で、解答形式の大半が記述式であるが、物理量の変化のグラフが並んでいてそれから正解を選択する、正しい文章を選択する、文中の穴埋めをする、などの形式もある。

内容

第1問は力学、第2問は電磁気、第3問は波動、熱、原子・原子核のいずれか。
力学
ニュートン力学では、基本原理「運動の法則」に基づき予言された、唯一、決定された未来が存在する。その未来を予言する道筋は二通りある。運動方程式を解いて物理量の時間変化を追いかける方法と、運動量保存則、エネルギー保存則などを用いて一足飛びに未来に達する方法と、問題を解くときには、運動方程式を書く必要があるもの、いきなり保存則を書き下すべきもの、両方とも必要なものなどいろいろである。ニュートン力学では、運動量保存則、エネルギー保存則は運動方程式の積分形である。最初のうちは、必ず運動方程式を書いて、それに基づいて運動量保存則、エネルギー保存則を導いてみると、力学にたいする理解はより深まる。
電磁気
荷電粒子の運動、コンデンサー、電流回路、電磁誘導、過渡現象、交流回路など話題が豊富である。荷電粒子の運動は力学以外の何物でもない。コンデンサーは導体の性質にたいする理解が必要。磁場中で導体が運動することによって起電力が生じるタイプの電磁誘導では、回路の方程式と運動方程式を連立したり、エネルギー保存則を立てたりと力学的側面が強い。過渡現象、交流回路の問題は、力学系とのアナロジーにもとづいて理解するとよい。
波動
力学的波動は力学の例題に過ぎず、光は電磁波として電磁気学の範疇に入る。この二つは物理的にはまったく別物なのに、数学的取り扱いに共通部分が多いので「波動」とひとくくりにされている。その数学的取り扱いとは、正弦進行波の式、重ね合わせの原理である。固有振動、共鳴、うなり、干渉など、波動特有の現象の多くは重ね合わせの原理にもとづいて理解することができる。
ほとんどが気体、それも理想気体の問題。気体の問題であれば、状態方程式と熱力学第一法則の連立で解けばよい。たいていは準静的な過程についての問題であるが、非平衡過程を経た状態変化に関する問題が出題されることもある。
原子・原子核
まず、アインシュタインによる光量子仮説に始まり、ボーアによる水素原子模型、コンプトン効果、ド・ブロイによる粒子の波動性の発見までの前期量子論の歴史を理解すること。また、質量がエネルギーであることの例題、原子核の組み換え反応において、エネルギー保存則を正しく書けるようになること。放射性崩壊、崩壊の法則について基本事項を覚えておくこと。

難易度

大半の設問が標準的であるが、深い考察が必要なものもいくつか含まれる。ときどき制限時間内に正解を導くには非常に高度な学力を必要とするものもある。例えば、2005年第2問(ボタン型磁石とアルミニウム円板が回転する)設問I、2005年第3問(冷却原子気体の干渉)設問II、2007年第1問(バイオリンの弦の振動模型)設問II(4)、2009年第3問(水が気化する、水蒸気が液化する)設問IVなど。

入試対策

高校物理を逸脱しない範囲で、目新しい実験装置を与え、そこで起きる現象をその場で考えさせる、というスタイルは東大物理の一貫した特徴である。基礎事項の深い理解、注意深く考察する力、思考力、処理能力などの総合的な学力を測る目的にあわせて、設定や設問によく工夫してある。したがって、問題を読んで自分で考察し、それを処理するといった問題解決のための学力をしっかりと身につけておくことが肝要である。
そのためには、物理の基本的な考え方をよく理解してそれを身につけるように心がけ、物理的に物事を考えながら問題を解く練習をそこそこに積んでおくのがよい。問題をたくさん解いてよく練習するに越したことはないが、「そこそこに」といったのは、大量の問題演習をこなすことを目的とすると、結果浅い理解しか得られず、「自然現象の本質を見抜く能力」、「原理に基づいて論理的かつ柔軟に思考する能力」を身につけることから遠ざかっていくことが多いからである。演習問題は、解いて答が出たところからがスタートである。自分の導いた答は正しいのか正しくないのか、次元を確認したり、グラフや図を描いて考察してみる。答を導くのに手間がかかったならもっと簡潔に答を見つける道筋を探す、逆に敢えてもっと遠回りをして答を探してみる、与えられた物理量の一つをパラメータにしてそれを変化させたときの振舞いを調べる等々。一つの問題をいろいろな側面から考察してみるのがよい。
※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。