2019年度入試
出題分析と入試対策
  東京大学 国語(文系)

過去の出題内容

2019年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・本文全体の趣旨を踏まえた上で、内容を説明する)、漢字書き取り 中屋敷均
「科学と非科学のはざまで」
古文 俳文 現代語訳(言葉を補って訳すもの、そうではないもの)、文脈説明 闌更
『誹諧世説』
漢文 論説 語意、現代語訳、内容説明、理由説明 黄宗羲
『明夷待訪録』
現代文 エッセイ 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・理由を説明する) 是枝裕和
「ヌガー」

2018年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・理由を説明する・判断の根拠を説明する・本文全体の論旨を踏まえた上で、主旨を説明する)、漢字書き取り 野家啓一
『歴史を哲学する――七日間の集中講義』
古文 軍記物語 現代語訳、文脈の説明 『太平記』
漢文 上書(論説) 語意、内容説明、現代語訳 王安石
『新刻臨川王介甫先生文集』
現代文 随筆 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・理由を説明する) 串田孫一
『緑の色鉛筆』

2017年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・理由を説明する・判断の根拠を説明する・本文全体の論旨を踏まえた上で、主旨を説明する)、漢字書き取り 伊藤徹
『芸術家たちの精神史』
古文 作り物語 現代語訳、文脈の説明 『源氏物語』
漢文 逸話 現代語訳、理由説明、内容説明 劉元卿『賢奕編』
現代文 随筆 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・理由を説明する・心情を説明する) 幸田文「藤」

2016年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・本文全体の趣旨を踏まえた上で内容を説明する)、漢字書き取り 内田樹
「反知性主義者たちの肖像」
古文 擬古物語 現代語訳、文脈や和歌の説明 『あきぎり』
漢文 漢詩 現代語訳、内容説明、理由説明 蘇軾「寓居定恵院之東、雑花満山、有海棠一株、土人不知貴也」
現代文 随筆 記述説明(傍線部に即して、理由や内容を説明する) 堀江敏幸
「青空の中和のあとで」

2015年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の理由や内容を説明する・本文全体の論旨を踏まえて趣旨を説明する)、漢字書き取り 池上哲司
『傍らにあること老いと介護の倫理学』
古文 作り物語 現代語訳、文脈の説明 『夜の寝覚』
漢文 逸話 内容説明、空欄補充、現代語訳 紀昀
『閲微草堂筆記』
現代文 随筆 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する) 藤原新也
「ある風来猫の短い生涯について」

2014年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する・指定された条件に従い、論旨展開に即して理由を説明する)、漢字書き取り 藤山直樹
『落語の国の精神
分析』
古文 浮世草子 現代語訳、文脈の説明 井原西鶴
『世間胸算用』
漢文 逸話 現代語訳、内容説明 司馬光『資治通鑑』
現代文 エッセイ 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する) 蜂飼耳「馬の歯」

2013年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由、全体の趣旨を踏まえた理由を説明する)、漢字書き取り 湯浅博雄
「ランボーの詩の翻訳について」
古文 歴史書 現代語訳、文脈の説明 平仮名本『吾妻鏡』
漢文 逸話 現代語訳、内容説明、具体的説明 『三国史記』
現代文 エッセイ 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由を説明する) 前田英樹
『深さ、記号』

2012年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由、全体の論旨を踏まえた主旨を説明する)、漢字書き取り 河野哲也
『意識は実在しない』
古文 説話 現代語訳、文脈や和歌の説明 『俊頼髄脳』
漢文 逸話 内容説明、現代語訳、抜き出し 『春秋左氏伝』
現代文 随筆 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由、短歌に表現された情景を説明する) 河野裕子
『たったこれだけの家族』

2011年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由、全体の論旨を踏まえた主旨を説明する)、漢字書き取り 桑子敏雄
『風景のなかの環境哲学』
古文 説話 現代語訳、文脈の説明 『十訓抄』
漢文 漢詩 空欄補充、現代語訳、心情説明、内容説明、具体的説明 白居易「放旅雁」
現代文 エッセイ 記述説明(傍線部に即して、本文の内容を説明する) 今福龍太
「風聞の身体」

2010年度

番号 科目 類別 内容 出典
現代文 評論 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由、全体の論旨を踏まえた主旨を説明する)、漢字書き取り 阪本俊生
『ポスト・プライバシー』
古文 説話 現代語訳、文脈の説明 『古今著聞集』
漢文 逸話 内容説明、現代語訳、理由説明、具体的説明 文瑩『玉壺清話』
現代文 エッセイ 記述説明(傍線部に即して、本文の内容や理由を説明する) 小野十三郎
『詩論+続詩論+想像力』

出題分析

分量

現代文が2題、古文・漢文は1題ずつ。
現代文の第一問と第四問は、年度によって若干の増減はあるが、だいたい2500字前後から4000字弱くらいの分量の問題文が出題される。今年度の第一問は約3700字、第四問は約1900字で、全体としては大きな変化はない。
今年度の古文は、問題本文が約1000字程度で、昨年度と同程度。特に難解な敬語表現などもなくて平易な文章なので、取り組み易かったのではないか。また俳諧もそれに関連する出題がなかったので、負担に感じた向きはなかったことだろう。枝問の数は7つ。これは例年通りの数である。
漢文は、200字前後の長文が出題されるのが、近年の傾向である。2006年度以来、文理共通の問題文になっている。

パターン

全問記述式。現代文は、第一問が解答行数指定(2行)の設問が以前はずっと4つであったが、一昨年3つに減り、昨年・今年は3つのまま受け継がれた。3問の形式はほぼ定着したかと思われる。また、字数指定(100~120字)による全体を視野に入れる記述は例年どおり。他に3つの漢字書き取り。第四問は、解答行数指定(2行)の設問が4つで、例年どおり。
古文は、全問記述式で、すべての設問が1行の解答欄を指定している。文理の問題を合わせて見てみると、2006年度入試までは、設問によって、最長2行として0.5行刻みで解答欄の長さに違いがあったのだが、2007年度以後は、文理ともにすべての設問の解答欄が1行となっている。この大きさの解答欄では、設問によっては容量が十分とは言えず、簡潔に解答をまとめ上げる能力が求められる。本年度の問題では㈢㈣㈤、すなわち七問中三問がこれに該当する。
漢文の解答行数は0.5~2行が多く、設問に応じて様々だが、近年は簡潔に要約して答えることを求める設問が増えている。

内容

<現代文>
【第一問】
読解と表現の標準的な言語能力を問う論説・評論文が出題される。どの年度も一様に、やや硬質で、かなりの抽象性を持った文章が問題文として採用されている。それは、大学側が求めているものが、単に文章を読み取る読解力にあるだけではなく、現実の問題を主体的に捉える積極的な思考力にあるからだろう。問題解決能力よりも、むしろ問題発見能力が求められている、と言ってもよい。抽象的な文章を読みこなせるということは、単なる読書量の問題ではなく、ふだんからどれだけ自分の頭でものを考えているかという、受験者一人一人の実態をはっきりと示すからである。受験生に向けたメッセージで、東大は「自らの体験に基づいた主体的な国語の運用能力を重視します」と明記している(「入試ガイド」参照)。
内容は、近代を批判的に見直す視点からのものが多い。2010年度は、現代の情報化社会における個人のあり方とプライバシーの変容を論じた社会論。文章を読むだけではなく、パソコンやケータイを使用することがどういう意味を持っているのかという身近な問題を、自らの頭で主体的に考えるような着実な思考力が問われている。2011年度は、河川空間を話題とした身体的環境論。2012年度は、現代の環境破壊の背景にある、機械論と原子論にもとづく物心二元論的な近代科学の自然観、および個性や歴史性を無視した近代の人間観について述べたもので、それらが生態系の破壊という悲劇的帰結をもたらしたことを語っている。筆者および出題者の関心が3・11の原発事故以後の現在の状況と深くかかわったものであることが、おのずからわかる出題である。2013年度は、文学作品の翻訳について述べた文章。2014年度は、精神分析と落語の共通点について述べたもので、近代的な自我の概念を問い直すもの。2015年度は、近代的な自己の捉え方を批判的に問い直す内容という点で、前年度と近い傾向の文章であった。2016年度は、現在の日本における反知性主義を批判的に論じたもので、実際の政治的な状況と密接にかかわる極めてアクチュアルな文章。2017年度は、科学技術の進展が社会の変容をもたらし、現代の人間的生のあり方が根本的な問い直しを迫られていることについての文章であった。昨年度は、直接的な知覚の不可能な歴史的事実は、物語り行為によってその実在が確証できることを論じた文章であった。そして今年度は、生命現象と知的な存在としての人間について、ともに〈はざま〉にあるものとして、現代の科学技術の発展をふまえた人間存在のあり方を論じた文章であった。
設問は文中に傍線を引いて、その部分を手掛かりとして本文の内容展開の説明を要求するものが大半である。基本的には、段落の展開に沿って、論旨のそれぞれの箇所のポイントが問われる。字数指定はなく、ここ数年は2行の解答欄でほぼ定着している。かつては1行あるいは3行のものもあったが、4行以上になったことは過去に例がない。なお、1行の字数は25字〜30字が標準である。
設問は㈠から㈢までが2行の解答欄で、従来は4つあったが今年は一昨年・昨年に引き続き3つであった。設問㈣は100字以上120字以内の全体的記述を求めるもので、従来どおりの型式。かりに、全問の正解ができたとすると、それらの全体はほぼ本文の要約に重なるという形の出題になっている。
設問㈤は漢字の書き取りで、必出。以前は5つ出題されていたが、ここ数年は3つに減った。それほど難しい漢字が出題されるわけではない。字体の正確さとともに語彙力が問われている。
【第四問】
第一問と出題形式は同じで、文中の傍線部分を手掛かりとした本文の内容展開の説明が中心。問題文のジャンルは文芸評論あるいは随筆的なものが一貫して出題され、人間的な心情を話題とするものが多い。解答欄は第一問と同様であるが、設問の要求は第一問とやや異なり、「どのような気持ちがこめられているか」という、心情を説明させる形式、および比喩表現にかかわるものなども見られ、文科的な設問として注意しておく必要がある。
2010年度は、詩というものが、詩人の想像力だけではなく、読者の想像力もかかわるものとして成立することを述べた、詩人による文章。2011年度は、アイヌの熊狩りを話題として、近代と対比的な、人間と自然とが相互に浸透する民俗的世界のあり方を述べた文章であった。2012年度は、歌人である筆者が、自作の短歌を引用しつつ、子供のひとり遊びとその延長線上にある自分の歌作りに対する姿勢を述べた文章。短歌に表現された情景が問われるという出題は、1999年度の柳澤桂子『生と死が創るもの』での出題以来と言える。文学的鑑賞力が問われているというより、人間としての感性的な共感力が問われている。2013年度は、人間の知覚が身体や生活上の意味と結びついたものであることを述べた上で、写真が切り取る世界の断片は、人間的な意味とは全く無関係な世界の持続的変化を顕在化する、ということを述べた文章。2014年度は、他者との出会いによって未知のものに触れる新鮮な驚きについて、詩人が独特の感性で語った文章。2015年度は、写真家・作家である筆者による、猫にかかわる随筆で、文庫の漫画本の解説という異色の出典であった。2016年度は、天候の急変を話題として非日常と日常の関係について思いをめぐらす観念的なレトリックに満ちた随筆であった。2017年度は、草木をめぐって父や姉や弟の記憶がからまり、藤の花を取り巻く明るい静まりと一体化する情景が、滋味豊かに表現された随筆であった。昨年度は、子供の動物とのかかわりには沈黙の対話があることを述べ、親がそれに先回りして教育的配慮をしすぎることを戒めた随筆であった。そして今年度は、「迷い子」の経験を、他者に直面し大人になっていくことの痛みにつながる体験として捉え直す映画監督のエッセイであった。

◆難易度◆
第一問は、一昨年の科学論と近い観点をもつ、比較的平易な文章で、論の展開も明快であったため、受験生にとっては取り組み易い文章であったと思われる。ただ設問の意図のつかみにくいものもあったことから、解答範囲のしぼり込みに手こずった人もいたことと思われる。設問の難易度は標準的であった。 第四問は、一見読み易い文章ではあるが、その内容を的確に捉え解答として表現するのは、必ずしも容易ではなかったものと思われる。手応えのある文章ではあるが、特別難しいというほどの難易度ではなかった。標準的なものと言える。

◆入試対策◆
高校の国語の授業および自発的読書等を通して、社会や自然、人間等、さまざまなものに関心を寄せ、かつ自ら主体的に考えることが基盤となる。言葉を他人事のようにして受け止めるのではなく、「東京大学案内」の受験生に向けたメッセージにも明記されているように「自己の体験総体を媒介に考える」ことが求められている。それとともに文章を論理的に読解し、表現する訓練を積むことが必要である。
また、全問記述式であることから、「どのように書けば良い答案になるのか」というふうに、答案の書き方ばかりを気にする受験生が多く見受けられるが、これは勉強姿勢としては好ましいものとは言えない。答案の書き方よりも、本文の読み方こそに力を注ぐべきである。というのは、書き方の工夫に力を入れる人は、自分が本文を読めていないことの自覚にしばしば欠けるからである。良い答案が書けないのは、自分の書き方が不十分だからではなく、本文が読めていないからである。書き方がどれだけ上達したとしても、誰も自分が読み取った内容以上の答案を書くことはできないのだ。日本語だからといって軽く見てはいけない。一文一文が読めることと、全体の論理構造が理解できることとは、必ずしもイコールではない。部分を読むことが同時に全体を把握することにつながり、全体の把握が同時に一文一文の理解を確かなものにするといった、部分と全体の往復を常に意識して、読解の訓練を積み重ねることが望まれる。
文理共通の第一問は、現代の状況にかかわるアクチュアルな内容の文章が採り上げられ、主として論理的な思考力が問われる。それに対して文系専用の第四問は、人間の心のありようにかかわる文章が採り上げられ、主として感性的な共感力が問われる。いずれにしても設問は、本文の対比と段落展開に沿って構成されている。したがって、筆者の考え方の枠組みと論旨の展開という本文の骨格をつかまえることが第一であって、傍線部を要素に分けたり、同内容の表現でイイカエたりしても、良い点は取れない。第一問の設問㈣は、本文末尾の表現を手掛かりにして全体の論旨構成を問うものであるから、本文の要約文を書く練習は、読解と表現の力を同時に鍛える上で有効である。
ただ、問題文の内容・設問とも、奇をてらった難解なものではなく、きわめて標準的かつ正統なものばかりである。つまり、論理的な文章読解力と的確な表現力の訓練を続けることで、自らの能動的な思考力を鍛えるという、オーソドックスな勉強が求められているのだ。この問題集をやればよいとか、記述はこういうふうにすればよいとか、要約の練習はこれこれのやり方でやればよいとかいった、いわばデジタルな勉強法を超えて、「自らの体験に基づいた主体的な国語の運用能力」こそを鍛えるべきなのである。

<古文>
設問は現代語訳を求めるものと、文脈の説明を求めるものの二種類に分かれる。他のかたちの設問はない。そして、枝問の数は7つ。これら形式的なことについては、従来の出題パターンを踏襲しているように見える。
現代語訳の設問が、2016年度と同様に二つに分けられており、片方は単に「現代語訳せよ」とあるのみだが、もう片方は、「誰が何をどうしたのかわかるように、言葉を補い」という条件がついていた。これらを合わせ見ると、前者は、直訳をもとにして、よほどのことがない限りは言葉を補ったかたちでの訳は求められていないということになる。
これに対して後者は、出題者の指定するように言葉を補って現代語訳を完成させる必要がある。その際、はじめに作成した、傍線部の構文に即した訳文すなわちいわば直訳の部分を、大きく改変することがないように心配りが必要だ。

◆難易度◆
難解な敬語表現もなく、俳諧が含まれていても設問になっていない、かつ、人物関係もさほど複雑ではない文章であることを考えると、相応の学力があれば、読み解くにあたってさほど苦労を感じないであろう。

◆入試対策◆
まず古文の原文を、正確に解釈できる読解力が求められることはいうまでもない。原文を見て、どうしてここをそのように解釈するのか、その根拠を明確にしながら解釈をすすめるのを日頃から心がけておくこと。そのようにすると応用力が養成されて、試験場で初めて出会った文章を読み解く力が達成されてゆくであろう。そのためにはまず、基本的な語法・文法に習熟しておく必要がある。東大では文法問題が出題されるわけではないが、語法・文法の知識を論理的に組み立てて解釈に直結させることが肝要である。ふだんの学習のなかで、どれだけ論理的な解釈を心がけているかが問われるところであろう。また語彙力も求められる。東大の問題でしばしばポイントとなるのは、高い頻度で用いられ、かつ多様な語義を有する語句の、本文中での解釈である。多義語であっても文脈などから突き詰めてゆくと、解釈にさほどの揺れは出ないものである。こうした場合、採点基準も厳格に設定される可能性がある。古文単語の訳語を丸暗記するのではなく、あくまで文脈の流れのなかでその語句の意味を突き詰めてゆく学習が有効であろう。
さらに求められるのは、記述式問題に対応する能力である。受験者としてはわかっているつもりでも、その理解の内容を採点者に対して、誤解が生じないような表現で伝えることが大切である。そのためには、一度書いた答案を、読む人の立場に立って読み返し、書き手とすれば伝えたかったことが正確に伝達できているのか検証し、必要とあらば的確な推敲を、それも短い時間でできるようにする訓練が必要であろう。自分の答案に厳格に立ち向かう勇気が求められていると言っていい。そして前述のように、今年度に限らず、東大入試での古文の問題では一般に解答欄の長さに余裕がない。だからと言って、解答欄からはみ出したような答案は認められない。よって、簡潔な表現のなかに、いかに充分な情報を盛り込むことができるか、この点についても意識しておきたい。

<漢文>
散文と詩の二題を出題するのが東大文科の伝統であったが、2000年度からは一題のみとなった。さて一題のみとなると、散文を取り上げるのが普通であろうが、時には詩を取り上げることもあるだろうと予想された。詩は出ないとなると、受験者が詩の学習をおろそかにするおそれがあり、延いては漢文力のみでなく、国語力の低下をも招くことにもなりかねないからである。果たして、2001年度には詩とその解釈文の融合問題が出題された。また、2004年度には一部に詩の引用を含む散文が出題され、2009年度には七言絶句とその解説文からなる詩話が出題された。そして2011年度と2016年度には漢詩のみで出題された。今後とも詩が出る可能性を考慮しての対策が必要である。
設問は、短い語意や現代語訳が3問(解答行数0.5行)、「平易な現代語訳」が1問(1行)、説明が2問(1~2行)というのが標準的である。なお、2005年度には指示語を具体化する問題、2006年度・2007年度・2009年度・2011年度・2015年度には空欄補充問題、そして2012年度には抜き出し問題が出題された。また2008年度には、近年の問題には珍しく書き下しが問われている。
なお、《特異な思想や難解な言葉は含まない、教科書や問題集に出ている文章は避ける》というのが東大漢文の伝統的な出題方針になっている。漢文の基礎的な知識(句形・語法・語彙・修辞法)と一般的な教養、平均的な表現力さえあれば、少なくとも合格点は比較的容易に取れる問題である。

◆難易度◆
18年度に続いて、19年度も最近の東大の漢文としてはやや難しいレベルの論説文であった。論説的内容の文章に慣れていないと、かなり難しく感じられたことだろう。

◆入試対策◆

1. 訓読に慣れて、口語に置き換えなくても文章の意味がわかるようにする。
一つの文章を、意味を考えながら何度も訓読し、口語に置き換えなくても内容が十分理解できるところまで読み込んだら、新たな文章に取り組む。この繰り返しにより、文章の大意を捉えるために必要な読みの速さも自然に身に付く。
2. 常に文章全体を念頭に置き、部分にとらわれすぎない読み方をする。
全体の流れを忘れて部分にとらわれていると読み間違うような箇所が設問となる。出題される文章には必ず明確な主題があるのだから、まずその主題を捉え、そこから部分の意味を捉えるような読み方をすべきである。
3. 比喩や象徴の解釈に注意する。
比喩や象徴の解釈は、毎年のように出題されている。多くの文章を読み、様々な比喩・象徴表現にふれておくことで、センスを磨いておこう。
4. 広く漢語の語法に目を配って、語学的な勉強も怠らないようにする。
漢語の語法・表現方法に広く習熟していれば、文章全体を正確に把握できる上に、つまらぬミスも防ぐことができる。基本的な知識の習得も怠りなく。
5. 設問が何を要求しているのかを正しく把握し、要点だけを端的に答える練習をする。
できるだけ多くの過去問と格闘し、設問に対して正しく答えるトレーニングを積もう。最後に必要なのは、書く練習である。

※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。