2019年度入試
出題分析と入試対策
  東京大学 世界史

過去の出題内容

2019年度

番号 出題内容
1 18世紀半ばから1920年代までのオスマン帝国解体の過程
2 各国の境界線と境界をめぐる争い
3 人の移動による知識や技術、ものの伝播とその影響

2018年度

番号 出題内容
1 19世紀~20世紀の女性の活動・女性参政権獲得の歩み・女性解放運動
2 宗教の生成・伝播・変容
3 地域や人々のまとまりとその変容

2017年度

番号 出題内容
1 「古代帝国」が成立するまでのローマ、黄河・長江流域における社会変化
2 世界史における「少数者」
3 古代から現代に至る戦争の歴史

2016年度

番号 出題内容
1 1970年代後半から80年代にかけての、東アジア、中東、中米・南米の政治状況の変化
2 国家の経済制度・政策
3 世界史における民衆

2015年度

番号 出題内容
1 「モンゴル時代」における経済的・文化的交流の諸相
2 国家の法と統治
3 ユネスコの世界記憶遺産

2014年度

番号 出題内容
1 19世紀ロシアの対外政策がユーラシア各地の国際情勢にもたらした変化
2 「帝国」と周辺地域
3 人間の生産活動

2013年度

番号 出題内容
1 17世紀~19世紀のカリブ海・北米両地域の開発・人の移動とそれにともなう軋轢
2 国家と宗教の関わり
3 少数者の歴史

2012年度

番号 出題内容
1 アジア・アフリカにおける植民地独立の過程とその後の動向
2 遊牧民の歴史的役割
3 世界各地の建築や建造物

2011年度

番号 出題内容
1 7世紀~13世紀までのイスラーム文化圏の拡大にともなう異文化の受容と発展の動向と他地域への影響
2 帝国の盛衰と内外の諸関係
3 食生活と人類の生活圏

2010年度

番号 出題内容
1 オランダおよびオランダ系の人々の世界史上の役割
2 アジア諸地域の知識・学問・知識人の活動
3 世界史における歴史叙述

出題分析

19年度の出題形式・内容と問題の特徴

分量と出題形式

過去10年間の総字数の推移
総字数
2019年 990字
2018年 36行・1080字
2017年 32行・960字
2016年 32行・960字
2015年 28行・840字
2014年 32行・960字
2013年 30行・900字
2012年 26行・780字
2011年 30行・900字
2010年 34行・1020字
大問3(近年と同様)。
第1問の大論述は22行(660字)で最多字数である。
第2問の小論述の出題数は3行論述が1問、2行論述が4問で、計5問、11行=330字。18年の第2問は15行=450字で過去最多の字数だったが、19年は第1問が60字増えた分、バランスを取った可能性がある。
第3問の単答式は10問。問⑻と問⑽は、正解2つを求めているが、正解候補は3~4つある。

時間配分

75分程度。第1問で40~50分、第2問で20~25分、第3問で4~5分か。
【第1問】
第1問の「18世紀半ばから1920年代までのオスマン帝国の解体過程」では、現在の中東地域をめぐる対立の出発点とも言うべき時代とテーマが取り上げられた。「帝国の解体」は、東大が第1問で繰り返し問うてきたテーマである。オスマン帝国・清朝・オーストリア= ハンガリー帝国、ロシア帝国の解体過程の比較は1997年に出題されているが、「オスマン帝国の解体」が単独で第1問のテーマになったことはなく、東大としては満を持した出題といえる。また18世紀末から20世紀後半までの女性参政権を対象とした18年の東大・第1問に続き、2年連続で、現在我々が抱える問題の淵源を探るという視点で出題されたことにも注目したい。2019年は、第一次世界大戦後、世界的な大衆運動が展開された1919年から100年に当たる。東大では1990(平成2)年に、この大衆運動をテーマとした大論述を出題した。平成を締めくくる本年、再びこうしたテーマが取り上げられることを予測して、駿台世界史科では19年の直前講習・東大プレ世界史でほぼ同内容の論述問題を出題したが、幸いにも的中したことになる。また本問のテーマは、08年の「1850年代~70年代のパクス= ブリタニカ」、14年の英・露間の「グレート・ゲーム」をテーマとした14年の第1問が取り上げた世界を、侵略されるオスマン帝国側から見つめ直したものといえる。東大世界史ではどのようなテーマが問われてきたかということを、過去問題を通して分析する。これこそ、東大世界史の視点を理解する最短コースである。参考文献として池内恵氏(東京大学先端科学技術センター教授) が著した『サイクス= ピコ協定 百年の呪縛』(2016年、新潮選書)を紹介しておく。
<東大世界史・第1問・大論述の時代設定>
時代 出題年(問題内容)
20世紀史 1990(10~20年代の世界各地の大衆運動)
1993(ベトナムとドイツ・分断国家の形成と統合)
1997(第一次世界大戦後の帝国の解体)
2005(第二次世界大戦が50年代の世界に与えた影響)
2012(アジア・アフリカの植民地独立の過程とその後の動向)
2016(70~80年代の東アジア・中東・中南米の政治状況の変化)
19世紀史
19~20世紀史
2008(パクス=ブリタニカと世界)
2014(英露のグレートゲーム)
1996(パクス=ブリタニカの盛衰)
2002(華僑史)
2003(運輸・通信手段の発達と帝国主義)
2018(19 ~20世紀の女性の活動・女性参政権獲得の歩み・女性解放運動)
2019(オスマン帝国の解体過程)
18~20世紀史 1992(南北アメリカ・東欧・東南アジアの主権国家体制の展開)
18~19世紀史
18世紀史
1998(南北アメリカの対照的発展)
1989(近代西欧諸国と清代中国の関係)
2000(18 世紀フランス啓蒙思想の歴史的意義)
17~20世紀史
17~19世紀史
10~17世紀史
2006(戦争の拡大要因と抑制)
2013(アメリカ移民史─黒人と華僑─)
1991(イスラーム・西欧・南アジアの政治変化)
16~18世紀史
15~20世紀史
2004(世界経済の一体化)
2009(18 世紀までの主権国家と宗教)
2010(オランダが世界史上で果たした役割)
11~19世紀史 2007(歴史人口学)
13~14世紀史
7~13世紀史
1994(モンゴルの衝突と融合)
2015(モンゴルの平和)
2011(イスラームの拡大に伴う衝突と交流)
前1~後15世紀史
前3~後15世紀史
1995(地中海文明圏の対立と交流)
1999(イベリア半島の歴史)
前6~前1世紀史 2017(ローマと中華文明圏における皇帝の登場)
古代~現代 2001(エジプト5000年)
東大世界史・第1問・大論述には以下のような頻出テーマがある。
  1. 【経済史】
    ①世界システム論・覇権国家の交代
    ②農業と土地制度・人口変動と移民
  2. 【国家論】
    ①帝国の盛衰・主権国家体制の展開
    ②国家と宗教、法・植民地と民族問題
  3. 【異文化間の交流】
  4. 【特定地域の通史】
2019年は2の①・②に分類できるだろう。
第2問の特徴
第2問は「境界をめぐる争い」がテーマ。制限字数がアンバランスであった18年に比べ、本年は字数の揃った問題となった。 設問ごとの特徴を分析しよう。
  • ⑴ ベンガル分割令でヒンドゥーとムスリムを住み分けさせることで対立を煽り、民族運動の分断を狙ったことを論じる標準的な問題だが、駿台の再現答案では多数派のヒンドゥー教徒を冷遇し、少数派のムスリムを優遇したというイギリスの分割統治の方法を理解せず、単に「分割した」で終わっている答案が多かった。
  • ⑵⒜ 地図中の太線の範囲が南洋諸島(マーシャル諸島・カロリン諸島など)でありドイツ領であることが読み取れるかどうかがポイント。ドイツはビスマルクの時代にマーシャル諸島を獲得していたが、「19世紀末」の米西戦争後、財政難に陥ったスペインがドイツ(ヴィルヘルム2世)にこの地域の諸島を売却したことは、受験生には難しかっただろう。第一次世界大戦で日本が占領したこと、大戦後の「1920年代」には日本の委任統治領となっていたことまで言及する。
  • ⒝ ニュージーランドを含む自治領が、第一次世界大戦への貢献を評価され、その従属的立場が戦間期に本国と対等な立場に変わっていく過程を書く。「20年代」のイギリス帝国会議(1926)と「30年代」のウェストミンスター憲章(1931)で自治領の外交権が認められ、本国と対等になったことを述べる、イギリス帝国会議とウェストミンスター憲章の双方とも言及できない答案も多いが、1930年代のブロック経済の話に論点をすり替えてしまった答案も多かった。
  • ⑶ 中国東北地方(満州)と朝鮮半島にまたがる高句麗と渤海をどう捉えるかがポイント。⒜⒝ともに単なる史実を書けばよいのではなく、現在の中国と南北朝鮮の歴史認識がどのように生まれたかを史実に基づいて考えさせる問題となっている点が、最大の特徴である。
  • ⒜ 「高句麗が満州と韓半島にまたがる国家であり、満州も韓国の歴史の一部である」というのが韓国側の主張であるから、高句麗が満州を本拠としていたこと、4世紀に楽浪郡を滅ぼして韓半島北部を支配したことを記す。7世紀に高句麗が唐と新羅に滅ぼされたこと、その後新羅が唐を半島から駆逐したことについて言及できればよいだろう。
  • ⒝ 文中の渤海の歴史的帰属という点から、唐王朝を中心とした冊封体制を想起したい。渤海は朝貢して唐王朝の冊封を受け、律令制、官僚制など唐の制度を導入し、都の上京竜泉府も長安の都城制にならって整備したことなどを論じる。
<過去10年の出題パターンの詳細>
年度 テーマ 形式 総字数
19年 各国の境界線と境界をめぐる争い
ベンガル分割、南洋諸島の分割とイギリスの自治領、
高句麗・渤海をめぐる中国と南北朝鮮の歴史認識
90字×1問、60字×4問 計330字
18年 宗教の生成・伝播・変容(古代インドの宗教、典礼問題、托鉢修道会、イギリス国教会成立の経緯) 記述×2問、
120字×1問、90字× 3問、60字× 1問
計450字
17年 世界史における少数者(ポーランド王国、「文化闘争」、シンガポールの華人、英仏の植民地抗争、米国の公民権運動) 90字×1問、60字×4問、30字×1問 計360字
16年 国家の経済制度・政策(イクター制、カピチュレーション、マンサブダーリー制、英仏の重商主義と蘭) 60字×4問、120字×1問 計360字
15年 国家の法と統治(身分制議会、律令と三省六部、第1次ロシア革命) 60字×4問、単答式×4問 計240字
14年 「帝国」と周辺地域(ビザンツとトルコ、オランダと東南アジア、アメリカとベトナム) 120字×1問、60字×3問、単答式1問 計300字
13年 国家と宗教の関わり(ローマ帝国、魏晋南北朝、ゲルマン諸国) 60字×6問 計360字
12年 遊牧民の歴史的役割(フン、エフタル、マムルーク、匈奴) 60字×4問、単答式×2問 計240字
11年 帝国の盛衰と内外の諸関係(ローマ、明・清、アメリカ合衆国) 60字×3問、90字×1問、120字×1問 計390字
10年 アジア諸地域の知識・学問・知識人の活動 60字×4問、90字×2問、単答式1問 計420字
第3問の特徴
第3問の「人やものの移動とその影響」は、東大頻出のテーマである。18年の第3問は、従来の出題傾向とは異なり、共通テストを意識したような史料や図版(05年以来)・地図(06年以来)を利用した設問や1行論述(14年以来)が出題された。その分、想定外に時間を取られ、第1問・第2問の論述に手が回らなくなったという受験生もいたが、本年は単純な一問一答に戻った。第1問の字数が増えた影響もあるとは推測できるが、平均点調整のための出題との声も現場からは聞かれ、出題形式にブレが目立つ第3問のあり方自体を東大としても検討してもよい時期に来ているのではないだろうか。問題自体は⑽以外は標準的であり、世界史の基礎的な知識が身に付いていれば完答できる。
設問ごとの特徴を分析しよう。
  • ⑴世界市民主義(コスモポリタニズム)は、キプロスのゼノンの創始したストア派哲学などに結びついた。
  • ⑵1世紀のインド洋の季節風貿易では、ローマは香辛料・絹などを輸入し、金貨・ガラス器・ブドウ酒などを輸出した。この交易の状況をギリシア語で記録した書物が『エリュトゥラー海案内記』である。
  • ⑶後漢の西域都護・班超は、97年に部下の甘英を大秦に遣わしたが、たどり着けなかった。
  • ⑷義浄は帰国の際に、シュリーヴィジャヤで『南海寄帰内法伝』を著した。
  • ⑸ドニエプル川は黒海に注ぐ大河で、バルト海とビザンツ帝国を結ぶ交易路である。昨今のロシアとウクライナの対立も関係してか、近年大学入試で出題が増えており、得点差がつく設問である。
  • ⑹スワヒリ語は、アフリカのバントゥー系言語がアラビア語の影響を受けて発生した。
  • ⑺プラノ=カルピニ、ルブルック、大都を訪れて中国で初めてカトリックを布教したモンテ=コルヴィノ。この三者は区別できるようにする。
  • ⑻設問の条件を満たす作物は、ジャガイモ・トウモロコシ・サツマイモである。ジャガイモはプロイセン、アイルランドなどヨーロッパで貧民の食糧となり、トウモロコシ・サツマイモは18世紀の清で栽培され、人口増加を支えたことで知られる。
  • ⑼17世紀のヨーロッパで人気を博したインド産の織物なので、綿織物(キャラコ)が正解である。
  • ⑽本年の第3問で最も難しい設問。13植民地の中でニューイングランドに 含まれるのは、ニューハンプシャー・マサチューセッツ・ロードアイランド・コネティカット。受験生にとって、マサチューセッツ以外は書きにくいだろう。有名なプリマス植民地は、1691年にマサチューセッツ植民地に吸収されたので、13植民地には含まれない。
第2問・第3問の解答の書き方
第2問、第3問では解答の書き方に注意すること。東大の解答用紙には原稿用紙がそのまま使われており、問題番号が印刷されていない。問題文には、「設問ごとに行を改め、冒頭に⑴~⑶の番号を付して記しなさい」「以下の⒜・⒝の問いに、冒頭に⒜・⒝を付して答えなさい」とある。これは、設問のなかに小問が⒜・⒝など複数ある場合、「1マス目に⒝などの記号を記入し、2マス目から解答を書き始めよ」という指示なのか、「問題番号⑴などの後に⒜と記入するように2マスを取って解答を書き始めよ」という指示なのか、ハッキリしないのだ。
第2問・問(2)を例に取ると、
(2) (a) 1 9
次に、問(2)(b)の解答を続けて書くのだが、
(2) (b)
と書き始めるのか、あるいは(2)を略して、
(b)
とするのかについて明確な指示がないのである。
また下記のように数字・アルファベットを半角表記してもよいのかも判断しがたい。
3a
東大としてはどんな形にしろ、問題番号・記号を含め、全体で指定された行数に収まるよう、解答すればよいということかも知れないが、字数制限に悩む受験生の立場からすれば、書式は明確な方がよい。駿台では、19年度の解答例作成に際しては、設問ごとの解答例における「字数」に問題番号(1)などと(a)、(b)…を記すための1~2マス分を含めたことを、念のためお断りしておく。
第3問も問題文には「設問ごとに行を改め、冒頭に(1)~(10)の番号を付して記しなさい」といった出題者からの指示がある。よって、1マス目に問題番号を記入し、2マス目から解答を書き始める。複数の解答を求める設問があるので、どの設問に対する答えなのかわかるように、下記のように明記した方が採点者にもわかりやすいだろう。
第3問:問(7)
(7) (a)  
  (b)        
東大の各設問の配点について
東大世界史の配点は推測の域を出ないが、19年は第3問の単答式が10問、うち複数解答を求める問いが3問。これを設問別に加点すると13点(駿台では例年、第3問などの単答式の設問を各1点で計算している)。
第1問の大論述は22行(660字)、第2問の小論述は11行(330字)なので、第1問:32点、第2問:15点と推測した。
駿台の東大実戦模試では論述重視で配点(大論述・小論述合わせて8割程度、単答式で2割程度)しているが、一律に20点としている予備校(河合塾など・論述で7割弱)もある。再現答案で駿台生の解答を確認したうえで、東大の情報開示を待ちたい。
駿台では毎年、東大受験生に自身の答案を再現したサンプル答案の作成を依頼し、これを独自の採点基準で採点しており、これを「再現答案」と呼んでいる。この採点結果と、実際に東大から情報開示された受験生の得点とを比較対照した結果、両者の誤差は3点程度(最小は±0.43点)であった。
東大の採点法と駿台の採点基準との間に大きなズレがないとすれば、近年の東大の論述問題では逐語採点というよりは、具体的なデータ(歴史用語)を論拠として、答案の「文脈」を重視する採点傾向であると思われる。

【駿台生の再現答案の分析結果】

2019年・駿台生の再現答案の平均点:35点(正解率58.3%)
第1問 15.6点/32点(Max:28点)
9.0点/15点(Max:14点)(小論述3点×5)
第3問 10.3点/13点(Max:13点)(単答式1点×13)

【参考】

18年 再現答案の平均点:34.7点(正答率57.8%)
第1問 13.6点/25点(Max:20点)
第2問 11.5点/22点(Max:17点)(小論述20点、単答式2点)(120字×1、90字×3、60字×1)
第3問 9.6点/13点(Max:12点)(単答式1点×11、小論述2点)
17年・駿台生の再現答案の平均点:35.7点(正答率59.5%) Max:48点
第1問 13.2点/30点 (正答率44%)Max:23点
第2問 12.7点/19点 (正答率66.8%)Max:16点(小論述3点×5、4点×1)
第3問 9.7点/11点 (正答率88%)Max:11点(単答式1点×11)
16年 再現答案の平均点:33.4点(正答率55.6%)
第1問 11.1点/30点 (正答率37% Max:17点)
第2問 13.8点/20点 (正答率69% Max:18点)(小論述3点×4、8点×1)
第3問 8.5点/10点 (正答率85% Max:10点)(単答式1点×10)
15年 再現答案の平均点:35.8点(正答率59.6%)
第1問:14.9点/30点 (正答率49.6% Max:20点)
第2問:13.2点/20点 (正答率66% Max:20点)
第3問:7.6点/10点 (正答率76% Max:10点)
19年度の難易度
19年は、第1問の大論述が過去最大字数を更新したが、全体では18年より90字減少した。テーマ的にも18年の第1問「19~20世紀の女性の活動・女性参政権獲得の歩み・女性解放運動」に比べれば19年の「オスマン帝国の解体過程」は遥かに書きやすいテーマだろう。第2問の「各国の境界線と境界をめぐる争い」は、再現答案を見る限り、例年通り苦戦した受験生が多かったが、第3問から地図・史(資)料などを使用して出題に工夫を凝らした設問がなくなったこともあり、「易化」といえよう。

入試対策

東大論述答案を書き上げるためには、①教科書レベルの知識・用語を説明する力、②歴史的経緯の因果関係を説明する力、③何が問われているか、問題文を読んで理解する力、④東大世界史のベースに流れる歴史観を読み取る力、⑤自分の考えを的確・簡潔に伝える力が必要である。そのためには教科書・地図・年表・史料集をしっかり使い、センター試験レベルの基礎知識を疎かにしないこと。次に東大世界史の過去問に徹底的に取り組み、出題傾向やテーマを熟知することが重要だ。19年の大論述も駿台では講習・オンデマンドに設置した『アジア近現代史徹底整理』『イスラーム史徹底整理』などで完全にカバーした範囲であり、しっかり学習していれば十分に書けたテーマである。
第2問(小論述)は問題内容に比して、例年、平均点が低い。得点が伸びない要因は、指定語句が与えられないこと、受験生の基本的知識の不足、少ない字数の中でポイントを絞りきれない論述力不足であろう。19年の第2問もテーマ自体は基本的な事項であったが、現代の中国と朝鮮の歴史認識の違いを問うなどの工夫がみられ、再現答案を見る限り、受験生にとって、第2問が「苦手」であることに変わりはないようだ。
第3問は、再現答案ではほぼ満点に近い平均点となるので、ミスをしないことが重要だ。まずは第2問型の小論述からテーマ別に過去問や実戦模試、例題演習に取り組んでいく。90〜120字程度の小論述を手際よく書けるようになったら大論述に取り組もう。その際には、全体の「設計図」をメモ書きやフローチャート(図解)、あるいは「表」化する形で視覚化し、これを文章化する練習を早くからやってもらいたい。駿台では春期・夏期・冬期の東大論述向けの実戦講座でこうした取り組みを行っており、論述添削と併せて「書く力」の育成に役立っている。また東大論述を主要テーマ別に整理した『テーマ別東大世界史論述問題集』や、現行教科書に基づき東大の過去問題を全て解き直した『東大入試詳解・世界史・25年』なども参考にしてほしい。本年の出題テーマは駿台の直前講習・東大プレ世界史でも的中したように東大受験生にとっては「想定内」であるべき問題なのだ。

※本ページ内容は一部のコメントを除き、駿台文庫より刊行の『青本』より抜粋。