私立大入試方式の一つである共通テスト利用入試。利用するかしないか、検討中の受験生に向けて、導入している大学の数や、メリット、注意点を駿台が解説します。合格のチャンスを広げるために、共通テスト利用方式についてしっかりと理解しましょう。
共通テスト利用方式とは?
私立大一般選抜で、共通テストの成績を合否判定に利用する入試方式です。
共通テストの前身のセンター試験が導入された1990年度入試から「センター試験利用方式」として始まり、初年度はわずか16大学の利用でした。下のグラフは、私立大の共通テスト(センター試験)を利用した大学数の推移を示したものです。2010年度入試までは、毎年大きな割合で増加しました。2010年度入試以降は、利用大学数が全体の9割近くに達したことで増加率は鈍化しましたが微増は継続し、2022年度入試では私立大533大学(短大・専門職大学を含まない)が利用しました。この中には、最難関の医学部も含まれており、医学部設置のある31大学中17大学で利用されています。
私立大の共通テスト(センター試験)利用大学数の推移

ところで、共通テスト利用方式には、大きく分けて2つの方式があります。共通テストの成績のみで合否判定を行う「単独型」と共通テストの成績に加えて大学独自の試験の成績もあわせて利用する「併用型」です。
全体では、「単独型」をとる大学が多くなっています。また、医学部を中心とするメディカル系学部では、共通テスト以外に大学独自の教科試験は行わないものの面接や小論文を課す大学があります。
共通テスト利用方式のメリットは?
共通テストを利用する大学が増えている状況で、この入試方式を利用するメリットについてご紹介します。
国公立大志望者が併願しやすい
共通テスト利用方式のメリットは、国公立大志望者が私立大を併願する際に「単独型」を選択すれば、新たに大学独自の対策をとらなくて良いということです。また、私立大専願者にとっても、共通テストの成績のみで多くの大学に出願可能ですから、大学別対策の負担を軽減することができます。
地方受験者にもチャンスが広がる
地方在住者にとっては、首都圏や関西圏まで足を運ばなくても、多くの大学を併願できることも大きなメリットです。特に、コロナ禍で関心が高まりましたが、2月の入試シーズンは感染症の流行が心配な時期でもあり、移動や宿泊の負担が少なくなるように入試スケジュールを立てるためには共通テスト利用方式をうまく利用することが大事です。
一般選抜と併願できる
さらに、一般方式(大学独自の問題のみで実施する入試方式)と共通テスト利用方式をうまく組み合わせることで、志望校へチャレンジできる機会を増やすことができます。「併用型」の大学独自の問題は一般方式の問題を利用している大学もあり、一般方式と「単独型」の両方に出願すれば、併せて「併用型」にも出願したことになるような大学もあります。
受験費用は一般入試より安価
入学検定料(受験料)が安価だというメリットもあります。一般的な学部の場合、一般方式の受験料は35,000円程度ですが、共通テスト利用方式は18,000円程度と安価に設定されています。さらに、最近では一般方式に出願した場合、併願した共通テスト利用方式の入学検定料を割引いたり、無料にする大学もあります。詳しくは志望大学の要項を確認してください。
共通テスト利用方式の注意点は?

受験機会の確保という大きなメリットがあるため、必ずしもデメリットとはいえませんが、注意すべき点があります。
一般選抜よりも合格は難しい?
まず、共通テスト利用方式の募集人員は一般方式よりも少なく、志願倍率(志願者数÷募集人員:募集人員に対して出願した人の割合)がかなりの高倍率になるということです。
しかし、実質倍率(受験者数÷合格者数:合格者人数に対して受験した人の割合)ではそれほど高倍率にはなっていません。
2022年度入試をもとに具体的な例を見ていきましょう。
単独型では、東洋大学・社会学部・国際社会学科・前期共通テスト3教科英語重視方式は、募集人員3人に対して志願者数は362人で志願倍率は120.7倍ですが、合格者数は162人だったので、実質倍率は2.2倍と決して高倍率ではありません。
併用型では、もっと極端な例もあります。大阪産業大学・工学部・電子情報通信工学科・前期共通テストプラス理系型は、募集人員1人、志願者数133人で志願倍率133倍ですが、受験者数127人、合格者数80人で実質倍率は1.6倍と2倍を下回っています。併用型は、大学独自の試験を欠席する受験生がいることから単独型よりも実質倍率と志願倍率との差が大きくなる傾向があります。
つまり、共通テスト利用方式は国公立大や他の私立大学の共通テスト利用方式との併願者が多いことから、合格しても辞退する割合が高く、入学者確保のために合格者数の割増率が高い(入学者確保のために合格者数を募集人員より多めに出す)ことが特徴なのです。
したがって、出願にあたっては、過去の志願倍率に高さに怖じ気づかないことが何よりも大事です。
共通テスト受験前に出願締め切りになるものもある
次に、出願日程の問題があります。
多くの私立大では2月上旬~中期の募集日程では、共通テストの受験前に共通テスト利用方式の出願締切日となる「事前出願」が多くなっています。
したがって、国公立大のように共通テストの自己採点結果をもとにした出願ができないということです。
年内の模試等で自分の得点力を確認し、本番での予想得点をもとに出願校を決定する必要があります。そして、11月模試結果で合格目標ライン(ボーダーライン)に届いていない場合には、そのラインを目標に共通テスト本番までの学習計画を立ててください。
一方で、2月中旬以降の募集日程では、共通テスト受験後に出願締切日が設定される「事後出願」がほとんどです。この場合は、各自の自己採点結果や予備校などが分析した合格目標ライン(ボーダーライン)を参考に出願することが可能です。しかし、データに基づく出願が行われることで、同じような成績を持った受験生が集中してしまう傾向があります。予備校等の分析データを確認しながら、より一層慎重な出願が必要だといえます。
共通テスト特有の出題形式を知り、慣れる
共通テストに変わったことで新しい注意点が生まれました。
以前のセンター試験は、私立大のマークシート形式の出題と似ており、対策にも大きな違いはありませんでした。
しかし、共通テストに変わって、出題形式が大きく変化しました。問題文の長文化、複数のテキストや図、グラフ等を比較しての考察、実用的な題材、会話文など従来のセンター試験にはなかった特徴的な部分があります。解答に必要な知識はあくまでも教科書レベルですが、新しい形式に慣れておく必要があります。
そのためには、共通テスト対策の模試や実戦形式の問題集で数多くの練習を繰り返すことが効果的です。
共通テスト利用方式の教科・科目数は?
私立大の共通テスト利用方式は、多くの国公立大のように5教科が必須ではありません。
最も多いのは、文系では英語、国語、地歴公民、理系では英語、数学、理科の3教科を課す方式です。すべての大学を見渡すと、1教科1科目から5教科7科目まで多種多様な教科・科目数で実施されています。
また、国語で古典(古文、漢文)が不要で現代文のみを課すとか、英語でリスニングが不要でリーディングのみを課す大学もあり、得意科目を生かした受験が可能です。
最難関の医学部でも5教科を課すのは6大学(一部の方式のみを含む)で、4教科を課すのが4大学、9大学(一部の方式のみを含む)では3教科以下での受験も可能です。
共通テスト利用方式の目標得点(ボーダーライン)は?9割?
共通テスト利用方式というと、共通テストで非常な高得点が必須と考えていませんか?
確かに難関大では高得点が目標得点(ボーダーライン)となっていますが、国公立大と異なり3教科型中心の数値ということで、一般的に科目数が少なくなれば得意科目で受験できるので得点力はアップします。国公立大との比較で「高い!」と考えてしまっては、せっかくのチャンスを失ってしまいます。
全大学を見渡すと、2022年度入試結果から導き出された目標ライン(ボーダーライン)は、得点率4割~9.5割と広範囲に渡っています。予備校等のWeb サイトでしっかりと志望大学の目標ライン(ボーダーライン)を確認しましょう。
下表には参考として、主要私立大の法学部法学科と医学部医学科の主な募集方式での2022年度入試での目標ライン(ボーダーライン)を示しましたので、参考にしてください。
2022年度入試 主要私立大法学部 共通テスト利用方式目標ライン(ボーダーライン)
大学・学部・学科・方式 | 目標 得点率 |
大学・学部・学科・方式 | 目標 得点率 |
青山学院大 法 法 | 81% | 同志社大 法 法律 | 79% |
学習院大 法 法 3教科型 | 87% | 立命館大 法 法 3教科型 | 79% |
上智大 法 法律 4教科型 | 86% | 立命館大 法 法 5教科型 | 75% |
中央大 法 法律 単独前期3教科型 | 89% | 立命館大 法 法 7科目型 | 70% |
中央大 法 法律 単独前期5教科型 | 82% | 関西大 法 法学政治 前期3科目型 | 73% |
法政大 法 法律 B方式 (3教科) | 83% | 関西大 法 法学政治 前期4科目型 | 81% |
法政大 法 法律 C方式 (5教科) | 71% | 関西大 法 法学政治 前期6科目型 | 75% |
明治大 法 法律 前期3教科型 | 82% | 関西学院大 法 法律 1月3科目型 | 82% |
明治大 法 法律 前期4教科型 | 79% | 関西学院大 法 法律 1月5科目型 | 75% |
明治大 法 法律 前期5教科型 | 77% | 関西学院大 法 法律 1月7科目型 | 74% |
立教大 法 法 3科目型 | 83% | ||
早稲田大 法 | 88% |
同一大学内では、教科・科目数が多くなるほど目標ライン(ボーダーライン)は低くなります。関西大前期3科目型は数学が必須なので科目数は少ないですが低くなっています。
2022年度入試 主要私立大医学部 共通テスト利用方式目標ライン(ボーダーライン)
大学・学部・学科・方式 | 目標 得点率 |
大学・学部・学科・方式 | 目標 得点率 |
東北医科薬科大 医 医 | 79% | 日本医科大 医 医 後期併用 | 88% |
国際医療福祉大 医 医 | 86% | 愛知医科大 医 医 前期 | 78% |
獨協医科大 医 医 | 80% | 藤田医科大 医 医 前期 | 80% |
埼玉医科大 医 医 | 75% | 大阪医科薬科大 医 医 | 83% |
杏林大 医 医 前期 | 79% | 関西医科大 医 医 前期 | 83% |
順天堂大 医 医 前期 | 88% | 近畿大 医 医 前期 | 85% |
帝京大 医 医 前期 | 92% | 産業医科大 医 医 | 80% |
東海大 医 医 | 81% | 福岡大 医 医 Ⅰ期 | 85% |
東京医科大 医 医 | 82% |
主要私立大の共通テスト利用方式の具体例

主要私立大の共通テスト利用方式の具体的な内容を2023年度入試の実施方法に従って紹介したいと思います。なお、現在の入試は各大学が受験生確保のために非常に複雑な入試制度をとっています。
以下に示したものはあくまでも概要ですので、各大学の募集要項やWebサイトを見て、間違いのないように出願を行ってください。
早稲田大学
単独型は共通テストの成績のみ。あるいはそれに早稲田大学独自の書類選考を加えて合否判定を行います。政治経済学部、法学部、社会科学部、人間科学部、スポーツ科学部で実施されています。
併用型は、早稲田大学では一般選抜の中の一つの方式として位置づけられています。早稲田大学の試験場で独自の試験を受ける必要があり、共通テストの成績と組み合わせて合否判定を行います。政治経済学部、教育学部、国際教養学部、文化構想学部、文学部、人間科学部、スポーツ科学部で実施されています。いずれも、出願締切日は共通テスト後の1/20なので、ギリギリですが自己採点集計結果をもとにした出願が可能です。
明治大学
出願期間が1/6~13の共通テストの受験前に出願締切となる事前出願の前期と2/20~27の共通テストの自己採点結果をもとに出願できる事後出願の後期の2つの日程があります。いずれも単独型で、大学独自の試験は課さずに共通テストの成績のみで合否判定を行います。前期は全学部で、後期は商学部、理工学部(機械工学科を除く)、総合数理学部で実施されます。合否判定に使う科目数は3科目から7科目までで、学部・学科・方式により異なっています。学部間の併願、同一学部内での日程間の併願は認められています。ただし、同一学部での学科・専攻間併願は理工学部以外では認められておらず、同一学部内での教科・科目方式間の併願については、政治経済学部、文学部のみ認められていません。
東洋大学
すべて単独型で、大学独自の試験は課さずに共通テストの成績のみで合否判定を行います。すべての学部、学科(専攻)、判定型との併願が可能で、一般方式との併願も可能です。出願期間は前期、中期、後期1、後期2の4つの出願期間があり、前期のみ共通テストの受験前に出願締切となる事前出願で、他は共通テストの自己採点結果をもとに出願できる事後出願です。合否判定に使う教科数には5種類あります。それぞれ、5教科型/5科目型、4教科/4科目型、3教科型、3教科ベスト2型(3教科受験で、高得点の2科目合計で合否を判定)、2教科型です。5教科型/5科目型、4教科型/4科目型は前期のみ、2教科型は中期のみで実施されます。3教科型、3教科ベスト2型はすべての日程で実施されます。また、共通テスト利用方式には併願時の入学検定料の割引があり、2出願までは一律20,000円、3出願目以降は1出願につき一律10,000円です。
立命館大学
共通テスト利用方式は、16学部中グローバル教養学部を除く、15学部で実施されます。ただし、国際関係学部、経済学部、情報理工学部の一部の専攻、コースでは共通テスト利用方式を実施していないので、注意してください。大学独自の試験を実施せず共通テストの成績のみで合否判定を行う単独型では、2月選考は出願締切日が1/13で共通テストの受験前となる事前出願、3月選考(後期型)は出願締切日が3/1で共通テストの自己採点結果をもとに出願できる事後出願です。教科・科目型は2月選考が7科目型、5教科型、3教科型の3種類、3月選考が5教科型、4教科型、3教科型の3種類です。学部、学科により実施しない教科・科目型があり、理工学部、情報理工学部、生命科学部、薬学部では出願要件があるので注意が必要です。大学独自の試験の成績と共通テストの成績の総合点で合否判定を行う併用型は、16学部中グローバル教養学部と薬学部を除く、14学部で実施されます。また、3月選考では、情報理工学部(情報システムグローバルコース)の「共通テスト+面接」グローバルコース方式、経営学部(経営学科)の「経済学部で学ぶ感性+共通テスト」方式が実施されています。
近畿大学
単独型と併用型があります。
まず、単独型は出願期間として前期、中期、後期の3つの出願期間があり、前期のみが共通テストの受験前に出願締切となる事前出願で、中期、後期は共通テストの自己採点結果をもとに出願できる事後出願です。合否判定に使う教科数には、3教科型が中心ですが、農学部の4教科4科目型、5教科5科目型、工学部の4教科4科目型、4教科5科目型、経済学部の5教科7科目型、理工学部、生物理工学部の5教科5科目型など国公立大併願者の獲得を意識した教科・科目型もあります。逆に国際学部では、英語のみ、英語+国語といった科目数の少ない教科・科目型もあります。また、中期でも3教科型、後期では2教科型が中心です。なお、医学部は2次試験として小論文、面接が課されます。
併用型は、大学独自の試験で合否判定を行う一般方式の前期(A日程)、前期(B日程)、後期の試験に共通テストの成績をプラスして合否判定を行う方式で、それぞれ共通テスト併用方式(A日程)、(B日程)、(後期)という名称です。医学部(A日程)を除くと、共通テストの自己採点結果をもとに出願が可能な事後出願です。
一般方式の出願に加えて併願した場合に1志願につき7,000円の併願検定料が適用されることからうまく利用すると安価に併願が可能になります。
共通テスト利用方式のQ&A

志望校合格のチャンス拡大に向けて
今まで、私立大共通テスト利用方式について説明してきましたが、志望校合格のチャンス拡大に向けて、うまく利用してほしいと思います。すでに述べましたが、私立大の入試方式は大学により異なっています。まずは、志望大学の入試制度をしっかり調べることが大事です。
事前出願の場合は、まずは出願することを第一に考えて、目標ライン(ボーダーライン)を目標として学習を進めてください。事後出願の場合は、データを慎重に検討することは大事ですが、ぎりぎりのラインならば思い切ってチャレンジすることが大事です。
いずれにしても、出願に迷ったらチャレンジする気持ちが大切です。出願せずに合格はありえません。ぜひ、駿台予備学校のスタッフにも相談して、悔いのない出願を行ってください。