高校で文系コースを選んだら、理系学部に進学はできないものでしょうか? 文系から理系学部を目指す“理転”は、決して簡単ではありませんが、不可能ではありません。実際に成功させている先輩もたくさんいます。この記事では、理転するときのポイントや、メリット・デメリットなどを解説します。
理転とは 文系選択から理系学部に志望を変えること
理転とは、高校での選択コースを文系から理系に転向することや、文系でありながら理系学部を受験することを指します。
文系コースから理系学部に進むこと
理系学部は、数学や理科といった理系科目での受験が多くなることもあり、理系コースから受験するのが一般的です。しかし、受験科目は高校での選択コースに関係なく選べるため、文系コースからでも受験は可能です。ただし、合格するためには、もちろん理系科目の受験対策が必要になります。
なぜ理転が必要になるのか?
多くの高校では、高校1年生の秋頃に選択して、2年生から文系・理系にコース分けされます。高校1年生では、なかなか進学や将来の職業がイメージできず、「数学より国語が得意だから文系」といった漠然とした理由でコースを選んでしまうのも無理はありません。
しかし、2~3年生になって大学や就職のイメージが具体的になってくると、目指す学部も明確になります。文系に進んだものの、やっぱり理系の知識や資格が必要な職業に就きたくなると、理転する必要が出てくるのです。
逆に理系コースを取ったものの、文系学部に進学したい、文転を検討している人はこちらの記事を参照してください。
理転したい、文系から医学部志望に切り替える、それって無理なこと?
一般的に、文転に比べて理転は難しいとよく言われます。しかし、決して無理なことではありません。やり方次第では、文系コースから医学部に合格することも努力次第では可能です。
私立大学文系コースからの理転はハードルが高い
私立大学の文系学部は、受験科目が国語・英語に加えて、地歴公民から1科目選択した3科目の受験が多いです。そのため、私立大学文系コースでは、数学・化学・物理を、ほとんど勉強しないところもあります。学校によっては、まったく理系科目の授業がないケースもあるようです。
このような状態から理系学部を受験すると、数学や物理などの理系の受験科目は独学で勉強しなければなりません。私立大学文系コースからの理転は、ハードルが高いと言えるでしょう。その場合は、予備校などを利用して、理系科目を教わることができる環境を作り、学校での勉強をカバーしましょう。
数Ⅲ、物理などを選択していないケースが多い
数学Ⅲや物理は、文系コースで選択することはほとんどありません。しかし理系受験では必要とされることが多いです。文系コースから理転して受験をしようとする場合、タイミングによっては、独学で習得しなければなりません。
医学部も数学を選択しないで受験できる大学もある
医学部へ進むには、「数学が絶対必要」と思われがちですが、大学ごとに受験科目はかなり違い、数学を選択せずに受験できる医学部もあります。得意な科目で受験できる大学を選ぶことで、文系から医学部を目指すことも可能です。
理転するならいつまでに?浪人してからでもできるか

理転するなら、早いに越したことはありません。しかし、勉強する環境によっては高校3年生や浪人になってからの理転も可能です。
できれば、高2のうちに。高3春を過ぎたら、独学で理系科目を学ぶ必要性が出てくる
変更前のコースにもよりますが、できれば高校2年生のうちに理転を決めるのがおすすめです。3年生から理系コースに入れば、数学Ⅲや物理などの授業が受けられます。3年生の春を過ぎると、基本的にコース変更ができなくなるため、理系科目の授業は受けられません。独学で勉強する必要が出てきます。
現役文系で、浪人からの理転
浪人になった春から理転する場合は、1年間受験勉強のための時間が取れるので、理数系の勉強もやりやすくなります。それでも現役の理系よりは後発スタートになるため、ハンディキャップがあるという点では高校3年生からの理転と変わりません。
浪人になると、一度受験に失敗していることで「今度は何がなんでも合格しなければ」とプレッシャーがかかり、あせりにつながる可能性もあります。また浪人してから理転すると、一度受験を経験している、というアドバンテージも半減し、不安やプレッシャーと戦う覚悟は必要になります。
編入、大学院進学時も視野に入れる
文系の高校生が理系学部に進むチャンスは、大学受験だけではありません。転部・転科の制度を設けている大学であれば、文系学部に入学してから理系学部に変更する方法もあります。
たとえば東京大学には、大学1・2年次では全員が前期教養課程に所属し、そのときの成績をもとに3年次以降の学部や学科を選択できる進学選択制度があります。文系で入学していても、理系学部を選ぶことも可能です。また、文系学部を卒業してから理系の大学院に進学する人もいます。
大学によって、こうした制度は異なるので、志望大学の制度を確認したり、理転の実績を持つ先輩の話を聞いたりして、文理選択を決めきれない、あるいは入学後に文系コースで学びたいという志望変更があり得ると思う場合には、転部・転科や編入、大学院進学時の理転について、制度のある大学を選択するのも良いかもしれません。
理転することのメリットは?

理転には、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的なメリットを3つ解説します。
将来の仕事の幅が広がる
将来のやりたい仕事が理系分野なら、文系コースを選択している場合、理転しないとその仕事に就けるチャンスがなくなります。たとえば、医師や薬剤師などは、決まった学部を卒業しないと資格を取得できません。
また、一級建築士の資格は、建築学科で指定科目を修めれば、実務経験や二級建築士の資格がなくても受験が可能になるように、資格取得が有利になる学部・学科もあります。
一般的に、文系出身者が理系の職種に就くのは難しいですが、その逆は比較的よく見られます。
資格が必要なくても研究者やエンジニアなどは、理系でその専門課程を終了している学生のみを採用する企業も多いです。理転することで、そういった職種への選択肢も広がります。
大学での学びが就職に直結する
理系の場合、専門的な知識や技術を生かした就職ができるメリットがあります。また、所属する研究室と密接に関わりのある企業があれば、研究室推薦での就職も期待できます。
また理系では就職活動ではなく、研究職としてそのまま大学に勤務するケースもあります。就職活動に多くの時間を割くことなく、専門知識を生かした仕事に就ける可能性があるのも魅力の1つです。
生涯年収が上がる?
独立行政法人経済産業研究所の調査によると、文系出身者よりも理系出身者のほうが平均年収は高く、男性では約41万円、女性では約90万円の差がついています。これは、理系出身者の方が給与の高い専門職・技術職などに就きやすいためと考えられます。年収でこれだけの差が出るということは、生涯年収にするとさらに差は大きくなるでしょう。
- 参照
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独立行政法人経済産業研究所 「理系出身者と文系出身者の年収比較-JHPSデータに基づく分析結果」
理転のデメリット
一方、理転にはデメリットもあります。ここではその例をご紹介します。
大学生活は遊べない!?
大学や学部にもよりますが、一般的に理系大学生は文系大学生に比べて学業が忙しくなります。実験やレポートなどに追われて、勉強三昧の大学生活になる可能性が高いでしょう。専門内容をしっかり学び、研究したい人には良い環境ですが、遊びも満喫したい人は時間配分が難しいかもしれません。
学問の専門性が高く、つぶしが効かない?
理系学部では、研究室ごとにかなり専門性の高い研究をすることが多いです。そのため、その専門分野以外には、同じ理系でも通用しないこともあります。汎用性がないという意味では、就職時の選択肢がせまくなると言えるかもしれません。
学費は文系に比べて高い
国公立大学では、大学や学部による学費の違いはほぼありません。しかし、私立大学は大学や学部によって学費が異なります。
文部科学省の調査によると、入学金を含めた初年度の納入金の平均額は、文系学部が約119万円に対して、理系学部は約157万円でした。4年間の学費総額を計算すると、約143万円、理系の方が高いという結果になっています。ただし、この調査では理系学部に医学部・歯学部は含まれていません。医学部・歯学部では、初年度納入金の平均額は約490万円となっていて、ほかの理系学部よりさらに多額の費用がかかります。
理転を成功させるために必要なこと

理転は決して楽ではありませんが、成功させた人もたくさんいます。理転を成功するためには、どんなことが必要なのでしょうか。
理転するなら、計画的な勉強の進め方が必要
理転すると、理系科目が出遅れた状態でのスタートになります。そのため、計画的に勉強して遅れを取り戻す必要があります。あせって闇雲に勉強するのではなく、効率の良い勉強を心がけましょう。
受験科目もしっかり調べて、得点源を決める
理転すると言っても、受験に必要な科目や得点配分は学校によって異なります。志望校へ合格するために、必要な科目をしっかり調べて、どの科目を得点源にするのか検討しましょう。勉強する科目をそれほど変更しなくても受けられる、大学・学部にターゲットを絞るのも1つの方法です。
失敗したかも、と思ってもやりきる意志が必要
受験勉強でもっとも効率が悪いのは、受験校や受験科目を絞りきれず、広く浅い勉強をすることです。理転すると、数学Ⅲや物理など、始めは難しく感じる科目もあり、心が折れそうになるかもしれません。しかし、理転が難しいのは覚悟のうえなので、そこで迷ってはいけません。「失敗したかも」と思っても、やり切る意志が必要です。
予備校などプロの力を借りよう
理転で必要になる数学や物理は、解き方やそのコツを身につけることが大切です。わからないところを聞ける相手がいるかどうかで、勉強の質が大きく変わってきます。予備校などプロの力を借りて、効率良く勉強することは、理転ではとくに重要です。
予備校では、レベル別に授業を受けたり、授業外の時間で講師に質問したりもできます。積極的に利用してみてはいかがでしょうか。