魔法の質問とは-学習者へのフィードバック-

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執筆:八尾直輝

「勉強のやり方」を教える塾プラスティー・塾長

目次

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フィードバックとは何か

地図を見ながら走るのは難しい

受験勉強はマラソンのようなものです。ペースを考えながら走るのが難しいように、学習に集中しながら自分の学習状況を俯瞰することは簡単ではありません。
マラソンにペースメーカーがいるように、学習者にはコーチが必要なのです。

コーチの役割はただペースを保つだけではありません。学習者に安心感を与えることで、学習者がより学習そのものに集中する環境を提供することこそが、コーチングの本質的な価値です。
一方的に「正しいペース」を押し付けるのではなく、学習者の現状に寄り添い、共に軌道修正する姿勢が重要です。

アドバイスよりも、軌道修正のきっかけづくり

例えば学習者のペースが大きく遅れていたとします。1日5時間勉強すべきところで、2時間程度しかできていない学習者に対してコーチはどう接するべきでしょうか。

「5時間勉強しようね」という声かけだけでは不十分です。2時間しかできていない人がいきなり5時間に取り組むのは難しいことが多いからです。
コーチは学習者に現状を適切に認識する機会を提供し、主体的に軌道修正を促すことなのです。

フィードバックのポイント

相手に主導権を委ねる

以上のように、重要なのは相手に「客観的な視点を与えること」と「最終的な決断を下すのは相手である」という心構えです。フィードバックがこちらの主観的な「アドバイス」や「強制」にならないように注意しましょう。

フィードバックの手順

フィードバックは以下の3つの手順を意識するのがポイントです。

1.事実確認①:ポジティブ要素をほめる
ポジティブ要素は積極的にほめましょう。
ほめる際は多少主観的・感情的であっても構いません。ほめることから入ることで、ネガティブ要素も冷静に向き合えるようになります。

2.事実確認②:ネガティブ要素は、事実として適切に伝える
逆にネガティブ要素を伝えるときは、客観的な事実として伝えることが重要です。
コーチの主観にならないように、注意する必要があります。

◆良い例
「朝起きるのが早くなっているね」
「先週よりも英語の小テストの得点が悪化しているね」
◆悪い例
「宿題が終わらないのは、朝起きるのが遅いからじゃない?」
「成績が悪いのは、土日の時間の使い方が悪いからだよ」

3.必要に応じてリクエストを出す
ネガティブ要素に対して相手が主体的に改善を考えられるのであれば、よいフィードバックができたと言えるでしょう。しかし、必ずしもネガティブ要素に対して主体的に考えられることばかりでもありません。また、具体的な改善策を考えるのが苦手な人もいるでしょう。

そういう場合はコーチから具体的なアドバイスをするのも手です。
このように、より相手に主体的な行動を促すアドバイスを「リクエスト」と呼びます。リクエストはあくまでも「いったん相手に考えてもらった後」に出すことに留意しましょう。また実際に相手の行動を促すため、具体的で実行のイメージができるものであることが望ましいです。

◆リクエストの出し方の例
「先週と比べて、今週は学習時間がかなり減ってしまったね…。授業が終わったらその日にあった科目を、自習室で1時間復習してから帰宅するのはどうかな?」

魔法の質問「1つだけ提案していい?」

「1つだけ」と言われて悪い気がする人はいない

リクエストの出すコツを1つお伝えします。
それは「1つだけ提案していい?」とお願いすることです。多くのお願いをされると人は警戒しますが、「1つだけ」と言われると多くの人が「1つだけなら…」と承諾しやすいのではないでしょうか。

本来人は他人から強制されることを嫌うものです。他者からの強制は自分の尊厳を侵されるように感じるのかもしれません。
でもこのように「1つだけ」という言葉からは「浸食」よりも、「敬意」を感じることができます。「本来あなたに強制する権利は私にはないのだけど、それでも1つ伝えたい」という気持ちを伝えるのがこの「1つだけ提案していい?」を使うポイントです。

提案のポイント

提案にあたっては敬意を伝えることを意識します。良好ではない関係性では「1つだけ」とお願いしても断られてしまうでしょう。あくまでも普段から敬意をもって接していることが大前提と心得ましょう。

その上で、以下の2つがポイントです。

  • リクエストを1つに絞る。追加でリクエストしない
  • 相手の話を十分に聞いた上で、最後に「1つだけ」リクエストする

「1つだけ」と言いつつ、相手が受け入れてくれると「2つ、3つ」とリクエストを追加してしまうコーチもいます。コーチ自身が「1つだけ」と言っているのですから最重要な1つに絞って提案をしましょう。

この「1つだけ」は相手の話をよく聴き、最後にこちらから提案するという形でなければ、効果を発揮しません。「1つだけお願いしていい?」を繰り返してしまうと、むしろ逆効果です。
相手に学習提案をするときは、傾聴に徹することで、「1つだけ」をより効果的なものにすることができます。

著者プロフィール

八尾直輝の写真 八尾直輝 株式会社プラスティー教育研究所

「勉強のやり方」を教える塾プラスティー・塾長。 「できない」を「できる」に変換する独自の学習法と習慣形成の支援を行う「学習コーチ」というサービスを開発・提供。 共著には『ゲーミフィケーション勉強法』『小学生から自学力がつく』があり、雑誌『螢雪時代』への寄稿や、講演会の開催、学校・予備校・教育サービス開発に広く携わっている。

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