『学問選び、志望理由のモト』医療・福祉・心理~よりよく生きる~

監修者:駿台予備学校 教務課

進路はあなたの学びたいこと、将来の夢を軸に選びたいものです。しかし、やりたいことが見つからない、まだ漠然としているという人も多いでしょう。この記事では、学問選びや目標探しのヒントとなるトピックスを紹介します。

目次

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誰でも安心して医療を受けられるためには?【医学】【看護学】【薬学】

医学・看護学・薬学の目的・魅力

コロナ禍では医療従事者が献身的に仕事を続けました。医師を中心にコメディカル(看護師、薬剤師、臨床検査技師など)がチームを組んで臨床現場で活躍しています。一方、研究医として病気の原因解明や治療法の研究に携わったり、薬学部から創薬研究者をめざしたりすることもできます。新型コロナウイルス感染症の治療やワクチン開発で、医療を支える研究の重要性を再認識しました。また、治療やケアにおいて、その効果だけでなく、「QOL=生活の質の維持や向上」(Quality of Life)が重視されるようになっています。

治療と予防医療

日本人の死因の上位を占めるがん、心臓病、脳卒中など、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣に起因する疾患が生活習慣病です。高齢化社会となり、病気を未然に防ぐ予防医学が注目されています。予防医学は、一次予防(生活習慣や生活環境の改善、健康増進など)、二次予防(早期発見や早期対処など)、三次予防(治療過程におけるリハビリテーションや保健指導など)に分類されます。
治療やケアだけでなく、患者の話をしっかり聴いて一人ひとりに合ったサポートをするコンサルタントのような役割が医師・看護師・薬剤師にいっそう求められています。

医療現場でのAIの活用

医療現場では、人手不足や過重労働、地域や診療科の偏在が問題になっています。医療現場でAIが活用されれば、全国どこにいても安心して最先端の医療が受けられるでしょう。安全性の向上(画像診断支援AIによる見落とし率の低下など)も期待されます。患者の治療法を検討するために論文や情報を調べる際もAIを活用すれば医師の負担が軽減されます。ゲノム医療(遺伝情報をもとに行う医療)や医薬品開発などにも活用されています。
しかし、症例のデータが少ない病状への対応、個人情報保護やサイバーセキュリティ対策などのリスクもあり、医療従事者にも高度な情報リテラシーが求められます。

地方の病院の今

地方では、産婦人科(出産)を休止したり、近隣の病院で重複する診療科を集約したりするケースが見られます。人口減少などの地域の事情とともに、地方の病院へ医師を派遣している大学病院などが派遣の見直しを行っているためです。
その背景には医師の過重労働の改善が求められていることもあります。地方では厳しい経営を強いられている病院も少なくありません。中心的な病院(特定機能病院、地域医療支援病院)とかかりつけ医を適切に使い分ける、安易に救急車を呼ばないなど、私たちにも配慮が必要です。医療従事者に限らず、一人ひとりが医療の問題を自分の問題として考えていくべきでしょう。

医学・看護学・薬学で学べる学問分野

医学の分野は、基礎医学(解剖学・生化学・病理学など)、社会医学(衛生学・公衆衛生学・法医学など)、臨床医学(内科学・外科学など)に分かれます。歯学でも基礎と臨床を学びます。看護学には、基礎・母性・小児・成人・老年など、薬学には製薬学・医療薬学・衛生薬学・生物薬学などの領域があります。
医学・看護学・薬学では臨床実習や国家試験対策も重要な学びです。

SDGs時代の福祉学とは?【福祉学】

福祉学の目的・魅力

福祉とは、幸福、幸せを意味する言葉です。福祉学(社会福祉)ととらえると、児童、母子、高齢者、障がい者をはじめ、社会的に弱い立場の人たちが人間らしく生活できるよう、社会制度や援助法を考えていく学問や取り組みということになります。
今、経済的な格差、いじめや虐待、介護など、援助を必要とする問題はさまざまです。そして、誰でも当事者となり得る問題です。助ける、与えるという一方通行ではなく、支え合う、ともに生きる社会づくりのために、福祉を学ぶ若い人々には中心的な役割を担うことが期待されます。

社会保障制度を知ろう

社会保障制度は、社会保険、社会福祉、公的扶助(生活保護など)、保健医療・公衆衛生(予防接種や伝染病予防など)の4つの柱があります。
このうち社会保険には、医療保険、年金制度、介護保険があり、いちばん身近な存在でしょう。20歳になると国民年金保険料を納めなければいけませんが、経済的に困難な場合には学生納付特例制度や免除・納付猶予制度があります。支払った保険料は今の高齢者の年金に充てられ、現役世代が高齢者を支える仕組みになっています。
もちろん、子ども・子育て支援などの充実も急がれており、全世代対応型の公平が確立された制度へ改革していく必要があるとされています。

弱い立場の人々への支援

バブル崩壊後(1990~2000年代)、雇用環境が厳しく就職氷河期と言われました。格差社会という言葉をよく耳にするようになったのもこの頃です。
社会環境が変化し、非正規労働者や子どもたちなど、立場の弱い人々が影響を受けています。たとえば、ヤングケアラーの問題です。ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことです。当事者が誰にも相談できず孤立してしまったり、諦めたりしてしまったりして、問題を深刻にしています。自助・共助・公助という言葉はおもに災害対策で使われてきましたが、福祉においても特に地域等のネットワークによる支え合い(共助)が非常に重要です。

インクルーシブってどういう意味?

インクルーシブ(inclusive)とは「包括的」「すべてを含む」という意味です。反対語のエクスクルーシブ(exclusive)「排他的」「(他人を)中に入れない」と対比すると、意味がよりはっきりするでしょう。
たとえば、従来の分離型の特別支援教育から、障がいの有無にかかわらずすべての子どもが共に学び合うインクルーシブ教育への移行が提唱されています。国籍や人種、性差、経済状況などの問題についても同様です。こうした取り組みを推進するためにも、福祉に携わる人々は専門職としての知識やスキルと同時に、コーディネーターとしての能力や資質も求められています。

福祉学で学べる学問分野

社会福祉士(国家資格)に向け、社会福祉系の学部・学科では受験資格に必要な指定科目を学ぶカリキュラムが編成されています。指定科目では社会福祉の原理と政策、高齢者・障がい者・児童・家庭などの対象別福祉、ソーシャルワークの理論と方法などを学ぶとともに、福祉現場で実習に臨みます。
介護だけでなく福祉に携わる仕事は多岐にわたりますし、現場経験を経て大学院へ進学し、マネジメントや政策・制度について研究することもできます。

心理学と数字の密接な関係とは?【心理学】

心理学の目的・魅力

心理学とは、人の心や行動のメカニズムを科学的に解明し対人援助や社会課題の解決に役立てる学問です。
たとえば、承認欲求とは、他者から認められたい、価値ある存在として自分を認めたいという欲求です。このような心の働きを理解することで、自分の能力向上や他者と良好な関係を築くために役立てることができるでしょう。心や人間を科学する学問だけに応用範囲が広く、カウンセラーや研究者などの専門職をめざす人だけでなく、教養として学ぶことで社会生活のさまざまな場面で活かせる知恵やヒントが得られます。

さまざまなこころの悩み

児童・生徒の不登校やいじめ、働く人の過重労働や人間関係、家族関係や育児・介護の悩みなど、心の問題はいっそう多様化・複雑化しています。
教育現場では、臨床心理士、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどが援助に携わっていますが、理解や連携の不足により、十分に活用できていない例が見られます。職場や地域においても、産業カウンセラーや行政の相談窓口が対応していますが、認知されていなかったり、周囲の目を気にして相談をためらってしまったりするケースもあるようです。高い能力を備えた専門職の育成とともに、安心して相談できる体制の充実が求められています。

心理学は理系か文系か

心理学部として独立している大学のほか、人文・文学部、教育系の学部、人間科学系、健康・福祉系の学部などに心理学科として設置されていることが多いようです。
心理学というと文系のイメージがありますが、実証実験による科学的なアプローチも重要です。実験や検査で得られたデータを集計・分析する際には統計を用います。心の働きを数値化して客観的にとらえるうえで、心理学と統計学は密接な関係があります。さらに、AIやVR(バーチャルリアリティ)を活用した研究も行われています。

心理学をビジネスに活かすと

人の心や行動を研究することで、マーケティングに活かすことができます。心や行動とは、たとえば、人が物事をどのように感じたり、どのように意思決定したりするのかということです。口コミや他人の評価、限定品や希少品などによる優越感、無料や格安などのお得感といったことが、私たちの心や行動に影響を与えます。これらをもとに、売れる戦略を考えていくのです。
経済学では合理性が尊重されるように思われますが、人は感情に左右され必ずしも合理的に判断するわけではないと考える行動経済学の立場もあり、心理学と非常に近いアプローチと言えます。

心理学で学べる学問分野

基礎心理学では、これまで見てきたように実験や調査をもとに人の行動の理論化をめざします。認知心理学・発達心理学・学習心理学・社会心理学などの分野があります。基礎心理学によって得られた知見をもとに実際の問題に取り組むのが応用心理学で、臨床心理学・犯罪心理学・教育心理学・家族心理学、さらに特徴的な分野では災害心理学・スポーツ心理学などがあります。
臨床心理士(公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会により資格認定)と公認心理師(国家資格)のほか、認定心理士などをめざすことができます。

まとめ

人生100年時代とも言われ、すべての人が健康で活躍でき、安心して暮らせる社会をつくることが重要な課題になっています。
医療・福祉・心理の分野に関心をもつとともに、将来に向けて解決すべきさまざまな問題について、社会の一員として考えてみましょう。

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